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100 隣国テーミガン公国

《テーミガン公国4日目ーケルンジリア52日目ー》


「アストラ~、元気でね~」「グスン、グスン」「ギャウン」「ア‶ス‶ト‶ラァ~風呂上りの楽しみがぁ……」「いやだよ~」「最後に口の中を見せてください」「ギャン!」「また会えるよね!」「ウェ~ン」「キューン」


 見送りの声があちこちから飛び交う。

 所々、大人の声が聞こえるな……。

 大方、キンと冷えたエールが飲めないとか、研究対象がいなくなるとかそんなところである。


「また、ジゼニアに寄れよ? 難しい依頼をいっぱい投げてやるからな」


 ナザル・ギルド長は笑いながら言った。

 別れの言葉にしてはずいぶんと実務的だけど、それが彼なりの愛情表現なのだろう。

 ジゼニアの滞在中に、私はEランク、神斗はDランクに昇格していた。

 差がついている……。

 それは仕方がない。

 アストラのご飯のために魔物狩りに精を出していた神斗と、薬草採取に明け暮れていた私。

 活動の方向が違えば、成果も違って当然だ。

 ウィルと神斗、そして私の3人で組んだパーティも、Cランクに昇格していた。

 高ランクの依頼は、実入りはいいかもしれないけど危険度もあがっていく。

 ほどほどがいい!


「冒険者辞めるなら、戻ってこい。俺の補佐してくれな神斗」

「ヴィヴィオラが一緒ならいいですよ」


 神斗は笑いながら答えた。

 ナザル・ギルド長はまだ、神斗を諦めていなかったらしい……。

 

「それなら、しばらくはないかもね~。私は旅を続けるんだもん」

「ジゼニアだって、旅しているだろうが」

「そうだった」


 名残惜しいけど、子供たちの輪から戻ってきたアストラを抱きかかえ、ジゼニアのみんなとお互いの無事を祈って別れた。

 私たちの次の行先は――目と鼻の先、ラトバーン辺境伯領都。

 キャラバン・ジゼニアは、レンギア王国からもう少し距離を取りたいらしく、滞留先はさらに先の伯爵領にしてほしいと申し出たそうだ。

 

「これから、本当に自由なんだね!」

「ああ、もうあいつもいない」


 あいつ――ミカさんのことかな。

 元気にしているだろうか?

 いや、元気にしているに違いない。

 ドレスを着て、宝石をつけて、優雅な生活を送っているんだから。


「ラトバーンの商業ギルドに風呂樽は送られるように手続きしたと言付けられましたので、ラトバーンに滞在中に受け取れるはずです」

「すっかり忘れてた!」


 ウィルから、風呂樽輸送先変更の紙を貰った。

 これを見せればいいらしい。

 早くラトバーンに行きたい!


「受取は20日後ですよ。受取場所が変わったので輸送に時間がかかるみたいですね」

「あ~」

「フフフ、でも20日なんてすぐですよ」


 これで、湖や川で水浴びをしなくてすむかと思ったら待てる!


「ラトバーンってどんなところなんだろうな?」

「ギャウギャウ」


 アストラが元気よく鳴いた。

 まるで「僕も楽しみだよ!」とでも言っているようだった。

 

「領主の性格を反映しているのか、質実剛健な街だと評判です。テーミガン公国の辺境では最大規模の都市で、商業も軍事も整っているそうですよ」

「質実剛健……じゃあ、変な冒険者はいないんだ」

「それは関係ないんじゃない? どこにでもいるって」

「やっぱりそうだよね~。規律が厳しいなら、そういう人は排除されてると思ってさ」

「悪知恵を働かせる人ほど、善良なふりが上手ですからね」

「だな~。高校に上がってから、あいつも天使って言われてたからな。俺の前では悪魔だったけど」


 異世界の犯罪って死が近いからな……。


「……召喚されて、幸せになれましたか?」


 静かに、でも確かに問いかけるウィルの声には、相手の本音を知りたいという真摯な気持ちが滲んでいた。


「俺は……異世界にこれて感謝していますよ。そこはレンギア国王さまさまって感じ」


 神斗は虎さまと会った記憶がない。

 レンギア国王が女神様のお告げで勇者召喚したって言っていたからね。


「その……ヴィヴィはどうですか?」

「私? そうだね。私も感謝している! 虎さまにね」


 初めはどうなることかと思ったが、今は希望通り旅ができ始めている。


「よかったです……他の召喚された人たちは、どうでしょうか」

「う~ん、ミカとマナミは楽しんでいると思いますよ。ツトムさんはどうでしょう?」

「ツトムさんは……少し寂しそうではあるよね」


 神殿にいると思われる彼は、1人だから。

 でも、この世界で仲良くなった人はいるかもしれない。


「なるほど……」

「どうかしたの?」


 突然どうしたんだろう?

 ウィルは、私たちとの旅を後悔しているとか?


「あ、いえ。国王の召喚によってこの世界に来てしまったので、その、みんな、それぞれ幸せにはなってほしいと思っているんです」

「や、優しい……」

「でも、ウィルヘルムさんが責任を感じる話じゃないですよ。そうですよね?」

「あ……まぁ、そうですね」

「でも、こんなにバラバラになってしまったんだし、それぞれが頑張るしかないよね」


 そう、それぞれが頑張るしかない。

 その中で楽しみを見つける。

 でも、人生ってそんなもんじゃない?


「ウィルもあの国を離れて幸せですか?」

「ええ、幸せです。わたしは5年、この時のために待ったのですから」

「じゃあ、私たちはみんな幸せだね」


 相変わらず、ウィルが自ら奴隷になってあの国にいた理由はわからないけど、この幸せが永遠に続けばいいな。

 いづれは、道が分かれていこうとも。


「アストラはもちろん、幸せだよね」

「ギャウン」


 もう、レンギア王国から離れる時のように森の中をコソコソと歩くことをしなくてもいい。

 街道は、石畳だけど歩きやすく、なんと言っても明るい。

 ガラガラと走る馬車とすれ違う。


「この分かれ道、まっすぐはラトバーン。こっちの土の道はルド村?」

「村に宿あるかな? ヴィヴィオラよってみる?」

「そうですね。野宿よりは宿の方が安心でしょう。ヴィヴィもしっかり寝たいでしょう?」


 そういえば、7日ほどまとまった睡眠をとっていない。

 城でも、ジゼニアに滞在でも8時間睡眠という幸せを享受していた。

 やっぱり、PC、スマートフォン(スマホ)がないからだね。


「村行ってみよう!」

最後まで目を通していただきありがとうございます。

少しでも 「また読んでやるか」 と思っていただけましたら、

広告の下にある【いいね】や【☆☆☆☆☆】ポイントを入れてくださるとめっちゃ喜びます。

最後に誤字や言葉の意味が違う場合の指摘とかもお待ちしております。

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