レフィトの婚約者として、前に進みたい②
ドレスとは違い、自分で着れるワンピース。
それを侍女さんに着替えさせてもらうという、HPを大幅に減らす体験をしたあと、アザレアと一緒に夕ごはんに向った。
「あれ? ふたり分?」
ついた食堂には、ふたり分の用意しかない。
「緊張しないように、少し慣れるまで、ふたりで食べますわよ。慣れたら、妹にチェックしてもらいますわ」
「チェック?」
「令嬢度チェックですわ!! 点数づけしますわよ」
高らかに言ったアザレアに、首をかしげる。
令嬢度チェックとは、何を見るのだろう。
チェックということは、採点するのかな? それって、加点式? 減点式? 合格ラインはあるの?
「妹は、厳しいですわよ」
「そう……なんですか?」
何をどうツッコんで良いのか分からない。
アザレアは、美しい所作で食事を始めたので、それを見習いながら、私も音が鳴らないようにせっせと手を動かす。
「パーティーでは、このように席についての食事をすることもできますの。でも、ほとんどの方は立食になりますわ。フォークでつまめるものがメインになるから、テーブルマナーよりも先に姿勢を意識すると良いですわよ」
「な、なるほど……」
そうか。令嬢としての立ちふるまい全部を一気にやる必要はないんだ。
時間も短いし、優先順位をつけていかないと。
「姿勢を意識する他に、優先した方がいいことってありますか?」
「そうですわね。指先まで意識をすると良いかと。所作は毎日の積み重ねですもの。動きが美しければ、ほとんどどうにかなりますわ」
「そういうものですかね?」
「ええ。話し方も貴族令嬢っぽくはありませんが、問題ないかと。貴族同士の関係については、ネイエ様とレフィト様から学んでくださいまし。残念ながら、私は苦手ですの」
アザレアは少ししょんぼりして言う。
だけどね、苦手なことは知ってたよ。誰にでも、得意不得意はあるものだし。
それを自分は苦手だときちんと伝えられるアザレアだから、私は信頼できたんだもの。
「ありがとうございます。アザレアちゃん、ネイエ様、レフィト、みんなのおかげで建国祭に間に合う希望が見えてきました」
「頑張っていきますわよ!! 妹にも、チェックはテーブルマナー以外で頼んでおきますわね」
頷きつつ、アザレアの妹が気になる。一体、何者なんだろう……。
「アザレアちゃんの妹さんって、どんな子なんですか?」
そう聞いた瞬間、アザレアの目が光った気がした。
「聞いてくださる? 私の妹は最高なんですのよ!! モネラは誰よりも可愛くて、可憐ですの。気品もあって、所作も見惚れてしまいますわ。それに、落ち着きもありますのよ! 本当に完璧な自慢の妹ですの!!」
「そ、そうなんですね……」
今、息継ぎしてなかったよね?
あまりの勢いに、若干のけぞった体を戻す。姿勢が大事らしいからね。
そこから、アザレアは妹のことを話し続け、それを聞きながら食事した。
分かったことは、アザレアが妹が大好きで、完璧なご令嬢だということだ。
食事を終えても続く妹語りを聞きつつ、お茶を飲んでいれば、侍女のひとりがそばまでやってきた。
「モネラ様が扉の前までいらしております」
「あら! モネラが? 通してちょうだい」
アザレアの言葉に開かれた扉。そこには、とても可愛らしい少女がいた。
「お姉さま、ご友人とお楽しみのところ、申し訳ありませんわ。私もご挨拶がしたくて参りましたの」
そう言いながら、猫のような眼を私に向けて微笑んだ。
「はじめまして。モネラと申します。カミレ様のことは、お姉さまからいつも聞いておりますわ」
「あ、はじめまして。カミレ・ハオトレです。お会いできて、光栄です」
ぺこりと頭を下げてから、令嬢として頭を下げる角度と違うことに気が付いた。
もしかして、令嬢度チェックはもう始まってる!? と思ったけれど、モネラちゃんからの指摘はない。
「ご丁寧にありがとうございますわ。ご迷惑でなければ、カミレお姉さまとお呼びしてもよろしいでしょうか? 私のことはモネラと呼んでいただけると嬉しいですわ」
「えっと……、そうしたらモネラちゃんと呼んでもいいですか?」
「もちろんですわ。カミレお姉さまと仲良くなれて、嬉しいですわ」
そう言う姿は、とても可愛いし友好的だ。
それなのに、何でだろう。この違和感は……。
「お姉さま。カミレお姉さまにお見せするとおっしゃっていた書物はもう渡しましたの?」
「あ! すっかり忘れていましたわ。モネラ、ありがとう。本当にしっかりした自慢の妹だわ」
「そんなことありませんわ。私も早くお姉さまのような淑女になりたいですもの。忘れないうちに、お部屋から持ってきたらいかがです? その間、私がカミレお姉さまとお待ちしてますわ」
「まぁ! モネラったら、もうカミレちゃんと打ち解けたのね!! さすがモネラだわ。カミレちゃんは、優しくて努力家な自慢のお友だちですもの。モネラとも気が合うと思ってましたの。そうしたら、少し席を外しますわね」
にこにこと嬉しそうに、アザレアは行ってしまった。
部屋には、私とモネラちゃん、給仕をしてくれる数人の侍女さんしかいない。
「どうやって、お姉さまに取り入ったんですの?」
先ほどまでの笑みは消え、冷たい視線を向けられる。
さっき感じた違和感の正体に、納得した。
敵意の含まれた視線を投げられることにはずいぶんと慣れたけれど、やはり気持ちのいいものではない。
友だちの妹からだとすれば、なおのこと。
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