悪役令嬢にざまぁされたくない令嬢の婚約者は、愛に気が付く~レフィトside②~
「カミレ!!」
最愛の元へと走る。
行儀が悪いだとか、周りにどう思われるだとか、そんなことはどうでもいい。カミレの元へ少しでも早く行きたい。
「レフィト、やったね!!」
笑顔で迎えてくれるカミレに抱きついた。
「オレも大好きだよぉ」
その言葉に、カミレは頬を染めた。
可愛い姿をもっと見ていたい。だけど……。
「ねぇ、さっき持っていた丸い紙は?」
オレの言葉に、カミレは視線をさ迷わせた。
うーん。これは、どういう反応? 改めて見せるのは、恥ずかしい……とか?
「あれは、未完成だから……」
「未完成?」
「本当なら、うちわに書きたかったし、もっと可愛くおしゃれに作りたかったんだけど、時間も物もなくて急ごしらえだから──」
「それでも、見たいなぁ。だって、オレのために書いてくれたんでしょぉ?」
そう聞くと、こくりとカミレは頷いた。
頷いてくれたものの、丸い紙は出てこない。
見せにくいのかなぁ……。どうやったら、見せてくれるんだろう。
無理矢理、見るのは簡単だけど、カミレに嫌われたくないからなぁ。
「ちょっとでいいから、見せてくれない?」
オレの言葉に、カミレはテーブルの下へと視線を向けた。
隠し場所は、テーブルの下かな?
チラチラ見ながら、そわそわしていて、どこに隠したかバレバレだ。
こういう時のカミレは、いつもより幼い雰囲気で、そこもまた可愛かったりする。
「本当に、大したものじゃないよ?」
「うん」
「期待しないでね」
「うん」
期待なんて、そんな不確かなものじゃない。
オレにとっての宝物になるのは確定しているんだよね。
だから、嘘はついてない。カミレには、言わないけど。
「少しだけだからね」
おずおずと見せてくれたのは、厚紙を丸く切ったもの。
そこに、少し丸いきれいな文字で、丁寧に書かれている。
どんな顔をして言葉を選んで、書いてくれたんだろう。
その姿を想像するだけで、胸がホワッとする。
書かれた文字が愛おしくなっていく。
「レフィト頑張ってに、一撃必殺……」
大好きは……、裏かな?
そう思って手を伸ばせば、厚紙をカミレは引っ込めた。
「カミレ?」
「おしまい!」
「え? 大好きは? あったよね?」
「は、恥ずかしいから!!」
そう言われても、オレは見たいんだよねぇ。
もう一回お願いしたら、見せてくれるかな……。
「ログロスと戦う前にね、大好きって見たら、すっごく力が湧いたんだぁ。もう一回、見せて欲しいなぁ」
わざと、コテンと首を傾げてカミレを見る。
こうすると、カミレが弱いって知ってるから。
「カミレ、お願い……」
ダメ押しでじっと見詰めれば、カミレが息をのんだのが分かった。
じわじわと顔を赤く染めていく。
少し悩んだ様子を見せながらも、裏面を確認した後、片方の厚紙が差し出された。
「ありがとぉ」
大好きと書かれた文字を見ると、胸がぽかぽかと温かくなる。
自分が、カミレの特別になれたんじゃないかって思える。
たった一言で、こんなにも幸せになれる。カミレって、すごい。
「もう一つの方も、見せてあげたらどうかしら?」
「ネイエ様!!??」
「絶対に喜ぶわ──」
「だ、駄目ですよ!!」
大きくかぶりを振りながら、カミレは言った。
その顔はさっきよりも真っ赤で、少し必死だ。
「カミレ?」
「し、失敗……。そう、失敗しちゃったから、見せられないの!!!!」
…………嘘が分かりやす過ぎる。
失敗じゃないのなら、何だろう。オレが喜ぶものかぁ……。すっごく見たい。
「失敗でもいいよぉ」
「いや、本当に駄目だから」
そう言われると、余計に見たくなるんだよねぇ。だけど、今度はさっきと必死さが違う。
なかなか手強そうだ。
「書いてる時は、ノリノリだったじゃ──」
「ちょっ……、ネイエ様!!??」
「ノリノリだったのぉ?」
「駄目だよ! 見せないからね!! 完全に調子に乗って書いちゃったんだよ!!」
絶対に喜んで、調子に乗って書いたもの……。
まったく想像もつかないんだけど……。
「見たいなぁ……」
「駄目だよ」
「お願いっ!!」
「うっ……」
見せるか悩んでるみたいだけど、この感じだと見せてもらえないだろうなぁ。
大事に取っておいたあれを使う時が来たのかもしれない。
「前に、何か一つお願い聞いてくれるって約束したよねぇ?」
「えっ?」
「マリアン嬢のお茶会に行った時、赤くなったヤツを殺すの我慢したよぉ?」
「しました……ね」
表情をかたくして、なぜか敬語になってしまったカミレに微笑みかける。
殺すのを我慢したら、常識の範囲内ならお願いを叶えてくれるって約束をした。そのことを思い出してくれたみたいだ。良かった。
でも、こんな約束の使い方をしたら、オレのことが嫌になっちゃうかな……。
「絶対に、笑わないでくださいね」
「うん。何で、敬語なのぉ?」
「気分です」
背筋をピンと伸ばし、キリっとした表情でカミレは言った。
そして、大きく深呼吸をすると意を決したように、一撃必殺の面を上にして、渡してくれた。
受け取りつつ、カミレの様子に首を傾げてしまう。
何で真っ赤なのに、裁かれるの待ちみたいな雰囲気なんだろう。
「ひと思いにやちゃってください!!」
そう言われると、見づらいものがある。
だけど、オレが絶対に喜ぶと言ったネイエ嬢の言葉が、カミレがオレに書いた言葉への興味が、勝った。
「────っっ!!??」
見た瞬間、目を疑った。
文字とカミレを何度も見比べてしまう。
「笑わないでって、言ったじゃん!!」
「オレ、笑ってたぁ?」
「今だって笑ってる!!」
そう言われても、にやけてしまうのが抑えられない。
裏返したら『私の騎士様になって』と書かれていたのだ。
これって、剣を捧げたことへの返事だよね?
あの時、頷いてくれて嬉しかった。言葉で返してくれたから、今はもっと嬉しい。
「ありがとぉ」
ありがとう、オレを受け入れてくれて。
ありがとう、言葉にして伝えてくれて。何度でも、伝え続けてくれて。
「オレ、カミレに愛してもらってるんだねぇ……」
何度伝えてもらっても不安だった。
正直、今だって不安はある。
カミレのことを、信じてないわけじゃない。オレが、オレを信じられなかったんだ。
オレが幸せになる未来が、想像できなかったんだ。
「やっと気づいたの? それと、愛してもらってるんじゃないよ。私が勝手に、レフィトを愛してるんだよ」
「そっかぁ……。愛されてるのかぁ……」
この幸せがなくなる日を恐れてた。いつも怯えていた。
人の気持ちは変わってしまうものだから。
悪い方に考えることで、気が付かないふりをすることで、自分の心を守っていた。
オレって、本当に情けないなぁ……。
「ねぇ、カミレ。あとで、これくれる?」
「えっ⁉ えっ……と…………」
視線をさ迷わせ、カミレは言葉を詰まらせた。
それでも、少しの沈黙の後「いいよ」と言ってくれる。
それが嬉しくって笑えば、カミレも顔を真っ赤に染めたまま笑ってくれた。
お願いを一つ叶えるというのは、第一章のエピソード11『悪役令嬢にざまぁされたくないので、敵じゃないとアピールしようと思います②』のネタ回収になります。




