悪役令嬢にざまぁされないように、静かにするのは無理でした④
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。
「次、デフュームと対戦なんだぁ。ネイエ嬢はさぁ、どうやって負けるデフュームが見たい? 一瞬で何もできないまま、負かしてあげようかぁ? それとも、ヘロヘロになるまで遊ぶのがいい?」
ヘラリとレフィトは笑うが、その目はまったく笑っていない。
「両方素敵ね。あの馬鹿みたいに高くなった鼻っ柱を、公衆の面前でへし折ってくれるなんて、ありがたい話だわ」
ネイエ様もレフィトと同じく笑みを浮かべている。だが、その目は、やはり笑っていない。
止めたほうがいいの……かな。でも、どうやって?
ふたりとも怖すぎるんだけど。
アザレア、帰ってきて……。癒やしが欲しい。
なんて思っていたら、私の雰囲気を察してくれたのか、レフィトに頭を撫でられた。
大丈夫だよ、と言うかのように微笑まれ、大きな手が私の手に触れた。そのまま指を絡ませ、繋がれた手。
レフィトの手の温かさが、じわりじわりと伝わってくる。
「オレね、王子たち全員の鼻っ柱を折るよぉ。普通になんて、負けさせてやらないつもりなんだぁ」
「それは、楽しそうね」
「うん。だからね、ネイエ嬢には、デフュームの負け方を選ばせてあげるねぇ」
手は温かいのに、この場の空気は極寒だ。
ふたりとも目は笑っていないのに、楽しそうなのだ。
まるで、悪役サイドにいるみたい……。って、私自身が悪役ヒロインなんだけどさぁ。
「じゃぁ、遊んでもらうのでお願いするわ。剣術をサボっているみたいなのよ。自分は文官になるから、武術は必要ないなんて言ってるらしくって。寝言は寝て言えって感じよね」
「行く行くは宰相になりたいなら、守る力は必要なのにねぇ。あれじゃ、盾にも、時間稼ぎにもなれないからさぁ」
「まったくよね。本当に自分に甘いんだから」
その話を聞きつつ、私も鍛えた方がいいのかな? と思う。
有事の際は、私も戦えた方がいいよね。大したことはできなくても、足を引っ張ることはしたくないし。
あとでレフィトにお願いしてみよう。レフィトは戦闘のプロだもんね。基礎練習のやり方を教えてもらおう。
「オレがもう、あいつ等の誰一人として守らないって公言したの気づいてないのかなぁ」
「えっ!!??」
「気づいてないんじゃないの?」
私とネイエ様の声が重なった。
「どういうこと!?」
そんなことして大丈夫なの?
謀反を疑われない?
「さっきカミレに剣を捧げたでしょぉ? オレの剣はカミレのためだけだよぉ」
えっ……。
かっこよくて、頷いちゃったけど、もしかして頷いたら駄目なやつだったんじゃ……。
琥珀色の瞳が嬉しそうに細まっているけれど、ヤバそうな気配しかしない。
「レフィト様がレオンハルト王子にもマリアン様にも忠誠は誓わないっていう意思表示、どれだけの人が気が付いたのかしらね。気付いたとしても、パフォーマンスだと思っている人がほとんどでしょうけど」
「本気なんだけどねぇ」
のんびりした口調で言うレフィトの口を思わず塞いだ。
ネイエ様が言った通り、パフォーマンスだと思ってくれているなら、それに越したことはない。
「ファミヘー」
モゴモゴと手のひらの下でレフィトに名前を呼ばれ、そっと手を離す。
「レフィトの気持ちは分かったから、今は言わないでね?」
「何でぇ?」
「何でって、目をつけられちゃうでしょ?」
「もう既に、つけられてるよぉ?」
確かに。
あれ? それなら、気にする必要ってない?
いやいやいや!! 付け込まれる可能性のあるものは少ないに越したことはない。
「あとで、さっきのことを責められたら、困るでしょ?」
「困んないよぉ。国王にも、王子のためには剣を握らないって伝えてあるし、大丈夫だよぉ」
「……そうなの?」
未来の騎士団長がそれだと困るよね。
国王様、本当に許してくれたのかな……。
「うん。伝えた時、特に何も言われなかったよぉ」
「えっ!?」
本当に? 何も言われなきゃ、大丈夫になるの!?
「今まで通り働けば平気だよぉ。オレ、騎士団長になりたいわけじゃないしさぁ」
「そうなの!!??」
「そうだよぉ。そんなのになったら、有事の時にカミレを守れなくなるでしょぉ? カミレを守れないなら、国を守っても無意味だしさぁ」
いや、無意味じゃないでしょ。
騎士団長云々の前に、騎士としてもマズイんじゃない?
「それ、騎士としても駄目なんじゃ……」
「えー。仕方ないから、騎士辞めるかなぁ」
「辞めて、何かやりたいことでもあるの?」
「カミレのそばにいたい」
うん? 可愛いけど、それは駄目でしょ。
「私は働きに行くから、レフィトはお留守番になるよ?」
「え、それは嫌だなぁ」
「互いに自立した大人になるためにも、仕事はきちんとした方がいいと思うんだ」
私の言葉に、レフィトはキョトンとした顔をした。
もしかしなくても、女性も自立するって前世の考え方……だよね。
貴族令嬢は、身体的自立はもちろんのこと、経済的にも、社会的にも自立をすることが難しい面が多い。
この世界の考え方ではない。
それでも、尊重し合って生きていくために、互いの自立は必要不可欠だと思う。
「カミレは、騎士のオレのこと、好きぃ?」
「うん。好きだよ。騎士のレフィトも、いつものレフィトも両方好き」
「そっかぁ。両方、好きなのかぁ」
琥珀色の瞳が、嬉しそうに私を見る。
何となくだけど、騎士のレフィトだけではなく、両方好きだということを喜んでいる気がする。
「レフィトなら、国を守りながら、私のことも守れると思うんだけど」
「…………そうして欲しいのぉ?」
頷けば、レフィトはため息をこぼした。
「分かったぁ。国を守りながら、カミレを最優先に守るよぉ。もっともっと強くならないとだねぇ」
困ったように笑っているけれど、琥珀色の瞳は輝いている。
「戦ってたレフィト、かっこよかったよ」
言うタイミングを逃して伝えられなかったことを伝えれば、耳を赤く染め、はにかむようにレフィトは笑った。




