悪役令嬢にざまぁされないように、協力した方がいいですか?⑧
…………ん?
幻聴? 今、潰すって言ってたような?
「マリアン様を潰すの、協力してもらえませんか? お願いします」
真剣な瞳を向けてくるネイエ様。
その表情が、視線が、冗談なんかじゃないと言っている。
うひゃーー。幻聴でも、空耳でもなかった!
物騒だ。物騒だよ?
確かに、マリアンと戦う気持ちはあるよ?
でも、潰すって……。守り……というより、積極的に攻めていくスタンスですよね? いや、私もそろそろ反撃しようとは思ってたよ? でも、潰すって過激すぎないかな……。
「えっと……、どうして潰したいんですか?」
とりあえず、理由を聞こう。
色々と出てきそうな気しかしないけど。
「レオンハルト王子がマリアン様の手のひらで転がされるどころか、マリアン様の下僕に成り下がっているのはお気づきですよね? レオンハルト王子だけではなく、重鎮の子息はほぼマリアン様の信者です」
わーぉ。下僕って……。言い方がすごい。
まぁ、そう見えるよね。私にも、そう見えるし。
言い方に棘があるのも、当事者だから当然だよね……。
「マリアン様が国を治められるだけの器があれば、まだマシだったのですが、このままレオンハルト王子が国王になれば、国が傾きます。第二王子であられるリカルド様もいらっしゃいますが、彼が王位を継承するとなると、国が混乱するでしょう」
「何で混乱するんですか?」
第一王子が継ぐことが多いとは言っても、第二王子だといけないわけじゃないよね。
人格的に問題があるなら駄目だろうけど。
あれ? 人格的に問題があるパターンなの?
それは、内部事情にはならない……のか? 貴族の常識? 知らなくていいことは、知りたくないよ?
「高位貴族は、ほぼレオンハルト王子を支持していますから。政治的な問題が多いんです。それと……」
「それと?」
「リカルド王子は、レオンハルト王子より優秀ではありませんから」
政治的な問題は困るだろうけど、個人の問題はそれだけ?
レオンハルトより優秀じゃないから、駄目なの?
優秀なら、それに越したことはないと思うけど、必ずしもトップが優秀である必要はないんじゃないかな?
足りないところは、周りが補えばいいだろうし。
周りが補っても問題があるレベルってこと?
わっかんないなぁ。聞いちゃおうかな。
どうしたもんかとレフィトの頭をつつけば、レフィトはゆるりと顔を上げた。
「なーにぃ?」
「どこまで聞いても平気なやつ?」
「どこまででも大丈夫だよぉ。聞かないほうが良さそうな話題になったら止めるからぁ」
「ありがとう」
「どういたしましてぇ」
そう言うと、レフィトは再び私の肩に顔を埋めてしまった。
会話には、やっぱり入らないつもりらしい。
すりっ……と甘えるような仕草が可愛い。
撫で回したい衝動を抑え、ネイエ様に視線を戻す。
「本当に仲が良いのね……」
そのため息混じりの呟きに、ネイエ様はデフュームとうまくいっていないんだよなぁ……と思う。
マリアンの取り巻きの婚約者って時点で、苦労が尽きないことは容易に想像がつく。私の想像以上に大変なんだろうけど。
ネイエ様ほどの方なら、他に良いお相手がいそうだけど、家格的にも年齢的にもデフューム様なんだろうなぁ。
家同士の利害が一致しているって、レフィトも言ってたし。
正直、マリアンを潰したい理由は、デフュームや友だちが関わってるのかと思ってた。
国のためだったとは……。失礼な勘違いをしちゃったな。
「聞きたいこととは、何でしょうか? 答えられることなら、何でもお答えしますよ」
先ほどの言葉は独り言だったのだろう。ネイエ様は、既に気持ちを切り替えている。
背筋を伸ばし、たおやかに微笑んでいる。
美しい人だな、と思う。色々と毒はあるけれど、ネイエ様も努力を重ねてきた方なのだと、座っている姿勢一つからでも伝わってくる。
「ありがとうございます。あの、どうしてレオンハルト王子より優れていないといけないんですか? 周囲がサポートすれば問題ないのであれば、大きな問題にはならないと思うんですけど……」
所詮、素人考えだ。
問題がある可能性の方が高い。
けれど、私の質問にネイエ様は真剣な顔で考えてくれている。
「……確かに、そうですよね。完璧である必要はない……ですよね」
「カバーしきれないような方じゃなければ、問題はないかと思いますけど……」
何となく、今のレオンハルトの方がリカルド王子より問題がありそうな気がする。
それなら、リカルド王子の方が、良いんじゃないかと思ってしまう。
「国民への影響は、どう思いますか?」
「誰が国を治めても、政策に大きな変化がなければ、私たちの生活に変わりはないですよ」
「そう……ですか。そうなると、政治的な意味合いを除けば、レオンハルト王子が後継である必要はないですね」
そう言ったネイエ様の目が怖い。
もしかして、余計なことを言ったんじゃ……。
「固定観念って怖いですね。優秀であった方が良くても、必ずしも優秀でなくてはならない、というわけじゃない。常に完璧を求められ過ぎて、忘れていました。両親の説得は難航しそうですから、少しずつ崩して行こうと思います」
「…………崩す?」
「王位継承をリカルド王子にするために、動こうかと思いまして」
「えっ!!??」
この短時間に決めたの? まさか、私が原因で!?
「自分の利益のために他者を貶めるような人が国を治めたら、この国は傾き、衰退しますから。マリアン様を婚約者からおろして、別の人を立てるという手もありますが、それではレオンハルト王子も納得しないでしょう。それなら、一緒に落ちていただくしかないですよね?」
いつもお読みいただき、ありがとうございます。
こちらのお話 (ざまされ)の書籍化&コミカライズ化が決定しました!!
たくさんの方に読んでいただき、応援していただけたからです。
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今後とも、カミレやレフィト、ざまされメンバーをよろしくお願いします!!
カミレサイドの人たち
カミレ:守り
レフィト:攻め
ネイエ:攻め
アザレア:守り
ゼンダ:中間
カガチ:?
という感じです。
攻めの人たちは、過激です。
アザレアは、攻めのようでいて守りです。




