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悪役令嬢にざまぁされないように、協力した方がいいですか?④


「レフィト様は頼みたかったら、ご自分でどうぞ」

「言われなくても、そうするからぁ」


 笑みを浮かべたまま、ネイエ様は冷たく言い放ち、レフィトもまた、口にだけ笑みを貼り付けて言う。

 この部屋に入ってから、ずっとこんな感じだ。


 何だろう。これはこれで、仲が良く見えてきた。

 ふたりだけの関係性というか……。犬猿の仲……ではなく、じゃれ合い……みたいな?

 ケンカするほど仲が良いって言うし……。

 気が合うんじゃないかな。私とは、こんな風な気軽なやりとりしないもんなぁ。

 いつも、どことなく様子をうかがっているというか……。


「カミレ、戻っておいでぇ?」

「……え?」

「今、自分の世界に入ってたよぉ。可愛いけど、敵の前だから、もう少し緊張感を持ってねぇ?」

「ご、ごめん……」


 話しながらも、レフィトは小さな紙に私が注文するローズティーとパンケーキ、それから自分用のコーヒーを記入し、それをネイエ様に渡した。


「あら! 敵だなんて、失礼しちゃうわ。カミレさんも、そう思いません?」


 そう言いながら、ネイエ様も紙に注文を書くと、ベルを鳴らしてから、小さなポストにそれを入れた。

 そのポストの隣には、使用用途不明の縦横四十センチ程の真四角な扉がついている。


「すみません……」


 確かに、失礼だったよね。

 まだ敵かも味方かも分からないわけだし。


 だけど、だけどさぁ……。すごく、モヤモヤする。

 ふたりだけの世界っていうか、関係性があるのは、仕方がないとは思う。

 ふたりは子どもの頃からの知り合いで、私は出会ってから半年ちょっと。比べることが間違ってる。

 それでも、どうしても疎外感を感じてしまう。

 子どもみたいだな……と自分に呆れつつ、既に帰りたい。


 ふたりで話し合って、結果だけ教えてくれればいいんじゃない?

 そうされたらされたで嫌なくせに、心の中はすっかりふてくされている。


「カミレ、どうしたのぉ?」

「何でもないよ」

「そんな風には見えないよ?」


 そう言われても、ネイエ様の前で不満をぶちまけるわけにはいかない。お願いだから、引き下がって欲しい。

 レフィトからの問いには、笑顔一つで答え、ネイエ様を見る。

 切り替えろ。このモヤモヤは、今は不要だ。


「今日、私を呼んだのは、マリアン様に関してですか?」

 

 私の言葉にネイエ様は、イエスともノーとも取れる笑みを浮かべた。


 ネイエ様が口を開いた時、壁にあった使用用途不明の扉がノックされた。

 開けるとそこに注文した飲み物やパンケーキが届いている。


 ここまでして店員を含め、他者に会わないようにされているのか……。

 出迎えだけ人がいたのは、利用する人の確認と、部屋を間違えないようにするためなんだろうな。


 

 優雅に香りを楽しみつつ、ネイエ様はローズティーを飲んだ。

 私と同じものを注文したらしい。

 ネイエ様の所作の美しさに思わず見惚れていれば、くすりと笑われた。


「冷めないうちに、カミレさんも飲んでみて? いい香りですよ」


 その言葉に、少し緊張した。

 だって、私の所作は美しくないどころか、貴族の令嬢のまねをする庶民みたいなものだ。

 実際、家で使用しているのはマグカップ。お客さん用にとソーサー付きのカップはあるけれど、それもレフィトが家に来始めた頃に出していただけで、今ではレフィトにもマグカップで飲み物を出しているくらいだ。


 ネイエ様みたいには無理でも、せめて音を立てないようにしよう。

 そう決意して、カップに手をかけたその時──。


 カチャン……。


 私のすぐとなりで音がした。


「ごちそうさまぁ」


 ヘラリとレフィトは笑う。

 レフィトの所作は完璧だ。木のテーブルにマグカップを置く時も、食事をする時も、まったく音を鳴らさない。

 ここで音を鳴らすわけがないのだ。


 だから、今のは絶対にわざとだ。私のためにやってくれたんだ。やらせてしまったんだ。

 ……ごめん。こんなことをさせちゃって。貴族としての所作もきちんとできないなんて、情けない。努力する時間はあったはずなのに……。


 くそぅ……、絶対に貴族令嬢としての所作もマスターしてやるからな!! 同じように庇わせないためにも。

 でも、その前にお礼だ。あとで勝手にモヤついたことも謝らないと。


「ありがと……」

「何のことぉ?」


 そう言って笑うレフィトの瞳が優しい。

 優しさに後押しされて、カップを手にとれば、ふわりと甘くやわらかな香りがした。

 あれ? 何だか嗅いだことのある香りな気がする。どこで嗅いだんだっけ? 

 最近、こんなんばっかだな……と思いつつ、そっとカップに口をつける。

 口に含んだ瞬間──。


「これで、共犯……ということでしょうか?」


 穏やかに微笑んだネイエ様に言われ、思わず眉間にシワが寄った。


「……どういう意味ですか?」

「バラを食らったからですよ。マリアン様のお名前は、真っ赤なバラのマリアンデールが由来ですから」


 それを聞いて、どこかで嗅いだ香りは、マリアンの香水の香りに似ていたのだと思い出す。

 マリアンはいつもバラのようないい匂いがしていた。

 だけど、こんなことで何故、共犯になったのだろう。……というか、何の共犯なんだろう。

 この間、マリアンと言い争った件に関しては、既に共犯だけど……。


「そうなんですか。でも、ローズティーと共犯は関係ないですよね?」


 いくら何でも、無理矢理過ぎる。


「マリアン様を食らう。そのような宣言じゃなかったのですか?」

「ただお茶をいただいただけですよ」


 そう言った私に、ネイエ様は小さく首を傾げた。


「ローズティーを選んだ意図は特にないんですか?」

「リラックス効果があるから、選んだだけですよ。あと、香りが良さそうだったからですね」

 

 

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