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悪役令嬢にざまぁされないために、仲間は必要ですか?①



 

 その日のお昼には、私の噂に新作が追加されていた。


「私、授業中に男子生徒を(ひざま)ずかせて、ヒールで相手を踏みながら高笑いしてたらしいよ」

「高笑なんてしてたぁ?」

「してないし、そもそも跪かせてもなければ、踏みつけてもいないからね」


 どこの女王様だよ……と思いながらも、尾ひれしかついていないから、まだまともな噂だな……とも思う。


「ねぇ、カミレ? そろそろ本気で潰そうよぉ。噂、ひどいことになってるよね?」


 のんびりとした口調でレフィトは言う。

 表情は笑みを浮かべているのに、その瞳はちっとも笑っていない。むしろ、苛立ちが見え隠れしている。

 こんな風に言葉と雰囲気の乖離(かいり)が大きいのは、いつものことだけど、心配をかけてしまって申し訳ない。

 空になったお弁当箱をさっさと片付け、レフィトの手を握る。すると、優しい力でレフィトも握り返してくれた。


 さて、何て言葉を返そうか……。


 窓から見える空は暗く、雨が降っている。

 朝は晴れていたのにな……。なんて、まったく関係のないことを思いながら、私の方を見ているレフィトの瞳を見つめ返した。

 いつもの屋上ではない空き教室という閉塞した空間に、雨音だけが流れていく。

 

「カミレ?」

「うん。聞いてるよ」

 

 噂のことを定期的にレフィトは私に聞いてくる。この話をする時のレフィトは、いつも笑っているのに目が笑っていない。

 何時でも牙を剥けるように準備しながら、GOサインが出るのを待っているのだ。

 言葉を一つ間違えれば、瞬時にレフィトは噛みついてしまうだろう。


「噂ってすごいよね。どうやったら、人外になっちゃうんだろう。私と目が合うと、魂が吸い取られて、操られるんだってさ。完璧に人間の域を超えたよね」

 

 内容としては面白いと思う。

 場を和ませるために言ったつもりだったけど、効果は何もなかった。

 レフィトは、ずっと静かに怒ってくれている。私の分まで。


「不思議だよね。真実なんてなくても、噂は私の立場を悪くする。悪意を持って噂を流されたのは分かっていたし、こうなる可能性も考えなかったわけじゃない。それでも、時間が解決してくれるだろうって、楽観的に見ていたけどね」


 そう。時間が解決すると思っていた。だけど、急激に悪化している。

 もしかしたら、今が動き時なのかもしれない。


「カミレは、優しすぎるよ」

「そんなことないよ。関わりたくないだけ」


 放っておいてくれたら良かったのに。

 マリアンの邪魔をするつもりなんて、基本的にはないのだから。

 まぁ、目の前で理不尽なことが繰り広げられてたら、また首をつっこむかもしれないけど。


「それでも、好きにさせ過ぎだよぉ。実際、困ってることあるでしょ?」

「ないこともないけど、深刻ではないから」


 うん、ほんのちょっとだけしか困っていない。

 ……というか、迷惑をしているって言った方が正しいのかも。


 何がって言うと、噂が流れたからなのか、単に嫌われているのか、関わりたくないだけなのかは分からないけど、女子だけの授業で、ペアを作ってくださいとか、グループを作ってくださいって時に、誰も組んでくれないんだよね。

 だから、当然、私が余るわけなんだけど、そうするとマリアンが出てくるのだ。

 私としては関わりたくないのに、優しいマリアンと強制的にペアやグループを組まされてしまう。


 そして、優しい優しい女神のようなマリアン様の信者が増えて、信仰心も高まっていくのだ。

 上手く使われてるな……と思う。関わらないでと言ったこともあるんだから、追いかけて来ないで欲しい。

 マリアンとペアを組むなら、ひとりの方がマシなのに……。

 

 あと、困ってはいないのだけど、アザレアの行動が気になる。

 心配そうな視線が最近強くなっているのだ。お茶会のあとから、チラチラと心配そうに見てくるな……と思っていたのだけど、最近はチラ見の域を超えている。ガン見だ。

 今日はついに話しかけてきたけど、いつもは他の令嬢に止められているんだよね。

 そして、そんなアザレアなのだけど──。

 

「見てるよね?」

「見てるねぇ」


 本人はバレていないつもりなのだろう。

 けれど、空き教室のドアの影からこちらを覗いているのが、よく分かる。

 この前は、窓から双眼鏡を使って、私たちを見ていた。

 

「何がしたいんだろ」

「さぁ……。仲良くなりたいとかかなぁ?」

「それはないんじゃない? アザレア様って、マリアン様大好きっ子じゃん」

「カミレと仲良くなりたいって気持ちとマリアン嬢は関係ないんじゃない?」


 うーん。そんなことはないと思うけど。

 でも、それは私の考えなだけであって、アザレアは違うかもしれないしなぁ。


「呼んでみてもいい?」

「えー。まだ返事をもらってないよ?」

「返事は保留にさせて。アザレア様が気になって、考えがまとまらないから」

「分かったぁ」


 どこか不満そうだけど、レフィトは私の意見を優先して引いてくれた。


「それじゃ、呼ぶね」

「やっぱ、駄目」

「え?」

「カミレとふたりの時間を邪魔されたくないから、駄目」


 少し唇を尖らして、拗ねたようにレフィトは言った。

 その可愛さと、ふたりの時間を大切に思ってくれている嬉しさ、照れくささに、じわじわと顔に熱が集まっていく。

 赤くなった顔を隠したくて、ドアの方を向く。


「で、でも、気になるし……」

「カミレ、顔見せて?」


 甘さを含んだ声が私を呼んだ。

 こういう時のレフィトは、ドロリと溶けてしまうような、まるでハチミツのように甘い視線を私に向けることを、私はもう知っている。 

 その瞳に捕らわれてしまいたい……。そんな感情が湧き上がるが、まだ残っている理性が、アザレアが見ているぞ! とストップをかけてくる。


「今はちょっと無理かな」

「無理なの? ふふっ、可愛いねぇ。でも、オレのこと見ないなんて駄目だよぉ?」


 繋いでいない方のレフィトの手の平が、私の頬を包む。

 優しくレフィトの方を向かされ、少しかがんだことで距離が近くなった彼の瞳と視線が交わった。


 

この時のアザレアの心境

「んまーーーーー!! ラブですの? ラブですわ!! ハレンチですわ!! もっとやってくださいまし!! 行け行けGO GOですわ!!」

です。

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