悪役令嬢にざまぁされたくない令嬢の婚約者は、守りたい〜レフィトside〜②
「城勤めって、王子の下で働くことだよ」
「そうだね。王家の下で、国のためにお勤めできるよう頑張るよ」
「そうじゃなくて! 王子妃になったマリアンの下で働くかもしれないんだよ」
「…………あ」
気付いてなかったのか。いや、そうだと思ってたけど……。
「でも、大丈夫だよ。マリアン様とは学園生活中にケリがつくはずだから」
「そんな保証ないよね?」
「うーん、そうなんだけどね。私の野生の勘がそう言ってるから!!」
何だ、その当てにならないものは。
頭も良いし、勘も悪くない。むしろ良い方なはずなのに、時々カミレはおかしい。そこが面白いんだけど、今はそれどころじゃない。
文官になるなら、騎士団勤めにさせないと……。
「騎士団だって城勤めだから安定しているし、高給取りだよ」
「それは知ってるよ。でも、気まずいじゃない……」
「気まずい?」
何で? 騎士団の方がメリットあるよね? というか、メリットしかない。
騎士団なら、冤罪かけられそうになっても守れるし、互いの予定を把握しやすいし、休憩中にも会いやすいし、カミレの仕事を盗み見れるし、変な男が寄ってこないか監視できるし、いざとなったら相手の男を左遷できるし、カミレが無理なく働けるようにもでき──中略──のに、どうして?
「うん。恋人とか、旦那が同じ部署って、周りの目が気になるんだよね。私が気になるだけで、気にしない人がたくさんいるのは分かってるよ? でも、レフィトの奥さんだーって目で色んな人に見られながら仕事をすると思うと照れるじゃん」
「照れるの? 騎士団じゃなくても、文官になればそういう目で見られるよ?」
うーん。違いが分からない。やっぱり、メリットしかないよね。
「照れるよ! それに、部署の違いは大きいから!! 同じお城勤めですら照れるのに、仕事中にしょっちゅうレフィトと顔合わせるんだよ!? 私も、周りも、余計に意識するでしょ?」
「そうかなぁ。あまり変わらないと思うけど……」
「私も周りも、同じ空間に私たちがいるのといないのとじゃ、違うよ。今だって、レフィトの婚約者だって見られると、お尻がムズムズするのに。レフィトを意識したら、仕事に集中できないよ。お金もらって仕事をするのに、それじゃあ駄目でしょ? お金の分はきっちり働きたいの。だから、同じ部署じゃない方が助かるんだよ」
顔を真っ赤にして、カミレは言い切った。
オレのことを婚約者ではなく、恋人と呼び、結婚を想定して旦那と呼んでくれることが、照れるからという予想外な理由が、じわじわとオレの中で広がっていく。
「照れるって、嬉しくてってことだよねぇ?」
「当たり前でしょ」
ギロリと睨みつけられたが、それが照れ隠しなのは明らかだ。
はぁー、可愛い。可愛すぎるよ、オレの恋人。
「カミレの気持ちは分かったぁ」
悪い意味で、オレと働くのが嫌だと思っているわけじゃない。それに、多分だけど、城勤めにこだわっている訳でもない。給料の多さと安定性を求めているみたいだ。
それなら、いくらでも誘導できる。最悪、城勤めじゃなければいい。本当は同じところがいいけど、妥協はできる。
「でも、やっぱり心配なんだ。本当にケリがついてればいいけど、野生の勘なんでしょ? 城で冤罪をかけられる可能性だってあるよね? 下手したら、牢屋行きだよぉ?」
そんなこと、オレがさせない。だけど、リスクは避けるに限る。少しでも危険なことは、排除しないと……。
「いくらなんでも、そんなことはしないでしょ……」
「ううん。やるよぉ。自分の利益のためになら、他人の人生を壊してもいいって奴、案外多いんだよねぇ」
「物騒すぎない?」
「そんなもんだよ」
うん。そんなもんなんだよ。あり得るんだ。
あそこには、カミレを陥れて、王子とマリアンに気に入られたい人間なんて、腐る程いる。自分の欲望のために、簡単に人を蹴落とす人間がさぁ。
「…………もし、ケリがつかなそうなら考えるよ」
「うん。そうしてぇ」
どう考えても、ケリはつかないと思うけど……。
本当に何でそんなに自信があるのか、分からないんだよなぁ。
最悪、オレが内定をもみ消すか……。カミレが嫌がることはやりたくないけど、仕方ない。
「待たせた」
部屋の扉が開き、カガチが台車に箱をいくつも乗せて戻ってきた。
中身を手際よくハンガーラックにかけ、テーブルに並べていく。
「あの……、私、サイズ言ってませんよね?」
ハンガーラックにかかっているワンピースを見て、カミレは顔を引きつらせた。
「問題ない」
「またぁ!?」
何で……、どうして……とカミレは呟いている。
「レフィト、やっぱりその能力はおかしいと思う」
「おかしい?」
「何で、はじめましてなのに、私のサイズが分かるのよ!」
そういえば、カミレのドレスを用意したって話した時も、納得いかないって顔をしてたっけ……。
「服のサイズはオレが先に伝えてたから、問題ないんだよぉ」
「俺も見れば分かる」
「ややこしくなるから、カガチは黙っててくれるぅ?」
「練習したから、問題ない」
あー、これは譲らないやつだ。合わせてくれたらいいのに。実際、先にサイズを伝えていたのは本当なんだしさぁ。
ほら、カミレが難しい顔しちゃってるじゃん。
「カガチは、オレが一瞬でサイズが分かるのを知って、特訓したんだよ。それで、最近になって習得したらしいんだぁ。そのせいで、最低限しか学園に通わないもんだから、出席日数ギリギリだけどねぇ」
カミレが、普通は見ただけで寸法は分からないって言ってたから、カガチに確認したら、こうなっちゃったんだよね。
いやー、習得できて良かった。やり方とかコツとか聞かれても分からないから、説明しようがないし。そのうち出席日数が足りなくて留年したとか、阿呆過ぎて笑いたいけど、さすがに笑えないよなぁ。
「普通、習得もできないんだけど……」
カミレの言葉に、こっちのカガチにしては珍しく勝ち誇った顔をした。
多分、俺はできるようになったけどな! って、思っている顔だけど、スルーしようっと。
お、ちゃんと眼鏡がある。
「カミレ、眼鏡があるよぉ」
「知ってる! 意識しないようにしてるから、言わないで!!」
え、何で? 好きなんだよね?
露骨に眼鏡から視線をそらす姿に、いたずら心がむくむくと大きくなった。
次からは、カミレsideに戻ります。
次回はシリアスゼロです。




