貸しのつもりが、何故こんなことになったのでしょうか?③
おまたせしました。
遅くなり、申し訳ありません。
それから一週間が経った。
ログロスに試験対策ノートを渡してからというもの、勉強を教えろと突撃されることがなくなり、平和だ。
このまま、何事もなく一年生が終わればいいなぁ。
なんて思っていれば、廊下をバタバタと走る足音が聞こえてきた。
貴族の子息、子女が通うこの学園で、廊下を走る人は私が知る限り一人しかいない。
嫌な予感がして教室のドアに視線を向ければ、勢いよく開かれる。
「おい、カミレ! 全部合格したぞ!!」
ログロスが私の方に向かって、再試験用紙を自慢気に見せた。それと同時に、レフィトは私をログロスから隠すように立つ。
「ログロス、うるさい。カミレに話しかけないでくれる?」
「お前には関係ないだろ。なぁ、カミレのノートすげーな! 俺、こんなに高得点が取れたのはじめてだ!」
よほど嬉しいのか、興奮したようにログロスは言う。
けれど、ここは教室で人の目が多い上に、マリアンもいる。
ちらりとマリアンを見れば、にこにこと笑みを浮かべているにも関わらず、その赤い瞳は怒りに燃えている。
あぁ、やっぱり……。
ログロスの勉強をみたことがマリアンに知られたら、こうなるに決まってるって。
好きな女にかっこ悪いところを見せたくないって、こそこそ勉強を教わりにきてた意味って何だったんだろう……。
結果が出たから、もういいってことかな。
頼むから、勘弁してほしい。
「わぁ……、よかったですねー」
思わず棒読みになってしまった私に、ログロスは不満を隠すことなく眉間にしわをよせた。
「なんだその言い方は。心込めろよ」
「はぁ、すみません……」
これ以上、会話を続けたくなくて、とりあえず謝る。けれど──。
「カミレが謝る必要ないってぇ。ねぇ、さっさと自分の小屋に帰りなよぉ。だーいすきなご主人様が待ってるでしょ?」
「ちょっ……、レフィト!」
けんか売らないでよ! と思ったのだけど、ログロスは意味が分からないというように首を傾げた。
「何、意味の分からないことを言ってるんだ?」
「仕方ないから、馬鹿なログロスでも分かるように言ってあげるよぉ。マリアン嬢のところに帰れって──」
「うわぁぁぁぁぁぁ!!」
レフィトの言葉に被せるように叫ぶ。
「ど、どうしたのぉ?」
驚いたようにレフィトが振り向き、ログロスと私たちのやり取りを見てざわついていた教室がしーんと静まりかえる。
咄嗟のこととは言え、急に叫ぶとか……。
恥ずかしさに身を縮こませていれば、マリアンが王子とデフュームを連れて、私たちの方にゆったりと歩いてくる。
「ログロス、再試験、頑張ったのね。えらいわ。カミレさんもどうもありがとう。また、ログロスの勉強見てくれるかしら」
「…………え?」
「本当は私が教えてあげたいのだけれど、ほらカミレさんって試験で常に学年トップでしょう? きっとその方がログロスのためになるわ。ねぇ、ログロス?」
とても優し気に微笑まれ、ログロスは嬉しそうにマリアンを見る。
「そうだな! そうすることにする。さすが、マリアン。名案だな!」
にかっと笑いながら言うログロスは、きっと気付いてないのだろう。
自身に向ける視線が、こんなにも冷めきっていることに。
し、知らない方が幸せなこともあるよね……。
なんて考えながらも、困ったことになったなぁと思う。
「……申し訳ありませんが、勉強を見るのは今回だけにさせてください」
「何故? 現にログロスはカミレさんのおかげで再試験に合格し、進級できるのよ? カミレさんに教わるのが一番だわ。私からもお願いよ。ログロスのお勉強、見てあげてちょうだい?」
これ、断れないやつだよ……。
公爵令嬢の頼みを断れる子爵家なんて、いるわけない。
いったい、マリアンは何を考えているの? こうすることのメリットは何?
「それ、お断りするねぇ。オレとカミレの時間を邪魔しないでくれる?」
「レフィトには聞いてないわ。カミレさん、お願いできるわよね?」
マリアンの笑みにすごみが増した。
何が何でも頷かせたいらしい。
できることなら……というか、絶対に断りたい。だけど、私にはマリアンの命に逆らえる力はない。なら、折衷案に持ち込むしかないだろう。
「わかりました。なら、今回のように試験対策のノートを毎回お渡しします。そこから先はログロス様がご自分で頑張ってください」
「そのノートで分からないところがあったら、どうすんだよ」
「先生に聞けばいいじゃないですか」
「それで分からないから、カミレを頼ったに決まってるだろ」
威張って言うことじゃないと思うんだけど……。
「…………ログロスさぁ、今まで散々勉強を避けてきたからこうなったんだよねぇ。ただの自業自得なんだから、カミレを頼るなよ」
レフィトがそう言った瞬間、マリアンの口角がわずかに上がる。
けれど、それも瞬きの間に悲しげなものへと変わっていく。
「ひどいわっ! 仲間なんだから、助け合うのは当然でしょう?」
「なら、マリアン嬢が教えればいいよぉ。仲間なんでしょぉ?」
目に涙を溜め、マリアンはレフィトを見ている。
マリアンのヒロインムーブなら、今に始まったことじゃない。だけど、今回は明らかに今までと違う。
いつもならレフィトに自分のところへ帰ってくるように言っているはず。なのに、レフィトと対立している。
……何を考えているの?
「レフィトだって、私たちの仲間でしょう?」
「違うよぉ。オレはもう王子とも、マリアン嬢とも仲間じゃない」
「そう……なのね……。レオンハルト様とも私とも、レフィトはもう仲間じゃないの……」
あ、これはまずいかも……。
「レフィト、ちょっと待っ──」
「レオンハルト様! レフィトが、レフィトが……」
目に涙をため、マリアンは王子の胸に飛び込んだのだった。
❁お知らせ❁
3/13(金)にビーズログ文庫様より、
『好きです。騎士団長様の婚約者にしてください!! (あれ? 一方通行だと思っていたのに、最近視線が熱い気がします)』
の発売が決定しました!!
強面騎士団長と暴走令嬢の制御不能な恋を描いてます。
イラストレーターはぽぽるちゃ先生です!!
元の話は小説家になろうに投稿している
『好きです。騎士団長様の愛人にしてください!!〜公認ストーカー令嬢は、強面騎士団長様に執着される〜』
になります。
全改稿しているため、書籍では更にパワーアップしておりますが、Web版でも雰囲気はお楽しみいただけるかと思います。
好きです。騎士団長様もよろしければ是非!!
引き続き、ざまされもよろしくお願いいたします。




