それぞれの恋②
「じゃ、オレとカミレは別行動するねぇ」
そう言いながら、レフィトはひらひらと手を振る。
「え? でも……」
「みんなで行ってもしょうがないよぉ。それに、込み入った話になるだろうから、ここで別れた方がいいかなぁって」
たしかにそうかも……。
最近、感覚が麻痺していたけど、身分が高い人たちのそういった話を聞くのって良くないよね。
「そしたら、俺たちも席を外すことにします。いいよな、レア」
「えぇ、そうですわね。ラムファ様、お大事になさってくださいませ」
アザレアとゼンダ様も、ここから別行動をするらしい。
「んじゃ、俺も……」
「カガチ様は、私のエスコート役だから、悪いがもう少し付き合ってもらうよ」
そう言いながら、カナ様がカガチ様の腕に手を添える。
「でも、俺も無関係だし聞くのは良くないと思うんだよね。またあとでエスコートさせてもらえれば──」
「カガチにもしてほしいことがあるから、一緒に行こうか?」
「そうですね、参りましょうか」
有無を言わせないリカルド様とネイエ様の圧に、カガチさんは顔を引きつらせた。
「いやいやいや! ちょっと待ってくださいよ」
「残念ながら、カガチに拒否権はないんだなー。ほら、ラムファ嬢が動けるうちにぐだぐだ言ってないで、行くよ」
どうにか逃れようとするカガチさんを半ば強制的に、リカルド様、ネイエ様、カナ様は連れて行ってしまった。
この場には私とレフィト、アザレア、ゼンダ様、そしてアグリオとなる。
「ねぇ、カミレ。もう一回、一緒に踊ろうよぉ」
「素敵ですわね! 是非行って来てくださいまし。私もあとでゼンダ様ともう一回踊りますわ!」
レフィトの言葉に目を輝かせてアザレアは言うけれど、婚約者同士で続けて踊れるのは二回まで。
時間が空いているとはいえ、私はレフィト以外の人とは踊っていないので、もう一回レフィトと踊ることはできない。
「レア、もう俺たち二回続けて踊ったから無理だぞ。踊りたいなら、間に他の人と踊らないと」
「それなら、一回だけアザレアちゃんたちとパートナーチェンジを──」
「「却下」」
私が言い切る前に、レフィトとゼンダ様の声が重なった。
えっと、そんなに拒否することなの? 名案だと思ったんだけど……。
「カミレに他の男が触れるとか、ありえないからね。オレ、そんなことになったらゼンダの腕、切り落としちゃうよぉ」
「嫉妬の塊のこいつが許すわけないだろ。勘弁してくれ!」
またもやレフィトとゼンダ様は同時に話すものだから、今度は何を言っているのかよく分からない。
「とりあえず駄目ってことは分かったけど、それならどうするの?」
「普通に踊れば良くない? 大丈夫だよぉ、誰にも文句言わせないからさぁ」
「いや、そういう問題じゃないからね」
「えー、踊りたいなぁ」
そう言うレフィトから、しょんぼりとした犬耳と、ペシャリと下がってしまったしっぽの幻覚が見える。
あぁ、レフィトが落ち込んじゃった。どうにかして、レフィトの望みを叶えられないかな。
うーん、人目のつかないところ平気かも? でも、そんなところって……。
「あっ! バルコニーは?」
「バルコニー?」
「うん、さっき行ったんだけど、あそこならふたりきりになれるよ」
これで、婚約者同士で続けて踊るのは二回までというルールをクリアできる。
「素敵ですわ! カミレちゃんとレフィト様で行ってきてくださいまし」
「え? アザレアちゃんたちは行かないの?」
二組が踊るのには少し狭いから、一緒に行って交代すればいいと思ってたんだけど……。
そういえば、アザレアちゃんはあとでゼンダ様と踊りたいって言ってたよね? 何であとでなんだろう?
「私たちはアグリオ様ともう少し一緒にいますわ。このまま放っておくわけには参りませんし」
呆然としているアグリオにちらりと視線を向けて、アザレアは言う。
そのことで、アグリオがまだここにいたことを思い出す。
えっと、これはどうすればいいの? アグリオ様って、いつもマリアンのそばにいたし、振られて当然な気がするんだけど。どうしてそんなにショックを受けてるんだろう。
まさか、どんな俺も愛してくれると思ってたとか言わないよね?
「放っておけばぁ?」
ものすごくどうでも良さそうに言うレフィトに思わず頷いてしまう。
事情はよく分からないから何とも言えないけど、普段の様子を見ている限り、同情する余地もないんだよね。
けれど、アザレアとゼンダ様はそうは思わなかったようで、アザレアは眉を下げ、ゼンダ様は困ったように笑う。
「そういうわけには、いかないだろ」
「えぇ、捨てられる原因を作ったのはアグリオ様ご自身でしょうけれど、さすがに放っておけませんわ」
「レア、こういう時に事実を突きつけるのは可哀そうだって。傷口をえぐるようなことを言うなよ」
「あら! 私ったら、アグリオ様ごめんなさいまし」
十分ゼンダ様も傷口をえぐっている気はするけれど、まぁいいか。
現実を見るのも大事だよね。
「とにかく、四人でアグリオ様を見守っていても仕方ないし、ハオトレ嬢は今日が社交界デビューなんだろ? 折角なんだし、楽しんで来いって」
「そうですわ! たくさん素敵な思い出を作ってくださいまし!」
そう言って、アザレアとゼンダ様が送り出してくれる。
自分たちだけ楽しむのが申し訳なくて、ちらりと振り返れば、アグリオを励まそうとして傷をがつがつとえぐり続けているふたりが見えた。
第三章は、残りあと1話です。
引き続き、よろしくお願いします!!




