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【コミカライズ開始】悪役令嬢にざまぁされたくないので、お城勤めの高給取りを目指すはずでした(Web版)  作者: うり北 うりこ@ざまされコミカライズ開始
第三章

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33アグリオとラムファ⑤〜other side〜

アグリオsideです。

 

「ラムファ?」

 

 さっきまで微笑んでいた小さな身体がふらふらと揺れている。

 慌てて支えれば、前よりも更に細くなった肩に、胸がきしんだように痛い。

 

「つらいか?」

「……ぃぇ、そんなことは」

 

 顔を覗き込めば、目はとろんとして今にも閉じてしまいそうだ。

 

「眠い?」

 

 小さく頷いたラムファに、子どもの頃を思い出す。

 たしか、夜は咳がひどくなるからあまり眠れないと言っていた。

 もしかしたら、薬にも眠気の副作用があるのかもしれない。

 

「少し寝るといい」

 

 隣に座り、ラムファの頭を膝に乗せる。

 ラムファは、困惑と喜びの混ざったような瞳で俺を見上た。

 その視線に気付かないふりをして、さらりと細い髪をなでれば、気持ちよさそうに目を閉じる。


 あぁ、昔みたいだ。よくラムファの体調が悪くなると、こうやって休んでもらっていた。

 いつからだろう。それをしなくなったのは……。

 

 薬を飲むようになって、ラムファは健康とは言えなくても倒れることはなくなった。

 そうなった時、俺は、俺の役目がなくなったと思ったんだっけ。

 それで、俺のことを本当に見ていてくれるのか疑いを持った。

 

 ……そうだ、マリアンのそばにいるようになったのは、最初はラムファを試すためだった。

 まだ必要としてくれるのか。見ていてくれるのか。それを確かめたくて、マリアンに近付いた。

 さびしそうに俺を見続けているラムファに、たまに話しかけると嬉しそうにする姿に満たされたんだ。

 

 何も言われないことに不満を持ったこともあったけれど、都合が良かったのも事実。

 言わないのなら問題ないだろうと、ラムファとならずっと一緒にいられるのだからと、婚姻するまでは好きに過ごそうと決めた。


 実際、マリアンのそばは楽しかった。

 ほしい言葉をほしいタイミングで与えられて、兄への劣等感も、将来のことも、何も考えずにいられる場所は俺にとって楽だった。

 

「ごめんな……」


 また髪をなでる。

 スースーと寝息を立て始めたラムファの顔は不健康に痩せていて、いくらか良くなったと言っても青白い。

 

 弱くてごめん。

 ずっと約束通り見ていてくれることを当たり前だと思っていて、ごめん。

 だけど、俺はラムファがいないと駄目なんだ。

 ラムファが見ていてくれないと、俺が俺を保てない。

 優しいと言ってくれた俺でいられない。

 

「…………アグリオさぁ。もう、ラムファ嬢を解放してあげなよぉ」

 

 間延びした声で、へらりと笑いながらレフィトに言われる。

 その言葉が痛いのは、俺が自分勝手だったからだろうか。

 

「解放……か」

 

 たしかに、俺はずっとラムファを縛り付けていた。

 でも、それは俺だけか? ラムファだって、視線で俺を縛っていたじゃないか。

 それに、ラムファには俺が必要なんだ。

 誰がこんなに弱い令嬢と婚姻を結ぼうとする? 守ろうとする?

 ラムファは弱いから、守ってくれる人が必要だろ?

 

「それをして、どうなるんだい? ラムファは、俺のことが好きなんだから、俺といられた方が幸せだろ。これからは、守るし、病気だってどうにかする。何も問題はないさ」

「どうにかって、どうやって?」

「それは……、これから考える」

 

 大丈夫。いくらだって手段はあるはずだ。

 どうしても駄目なら、マリアンたちに相談すればいい。

 マリアンは優しいし、レオンハルトだって手を貸してくれるだろう。

 そうだ。俺はきっとこの日のために、マリアンたちといたんだ。すべて、ラムファを守るためだったんだよ。

 

「あは、あはははははははは」

「な、何がおかしい」

「だって、まさかのノープランなんだもん。笑う以外、どうしろって言うのさぁ。……本当、世の中をなめすぎだよねぇ」

 

 笑みはスッと消え、琥珀色の瞳は光を失い、侮蔑を含んだ視線を向けられる。

 

「アグリオには無理だよ」

「そんなことはないさ。……俺にはレオンハルトもマリアンもいる。力になってくれるはずだ」

「本当にぃ?」


 じっと見られ、大丈夫なはずなのに、何故か頷くことができない。


「もし、それが駄目ならどうするのぉ?」

「それは……」

「ほら、無理だよぉ。アグリオは、自分が一番可愛くて、大切だもんねぇ」

「何を言って……」

 

 たしかに少し前の俺はそうだったかもしれない。でも、今は違う。

 マリアンのそばにいたいという気持ちを捨てて、ラムファのために行動している。努力している。

 どう考えたって、ラムファを一番大切にしているだろ。

 

「ねぇ、何でアグリオは両親に、次期当主の兄に頭を下げてないの? 他人を当てにする前に、アグリオにできるのってそれだよねぇ。ラムファ嬢を救いたいって、口だけで、優しくする自分に酔ってるだけでしょぉ?」

「そんなことは……」

「え? 自覚なかったの? アグリオって、最低なクズなんだよぉ」


 レフィトの言葉に、腹が立つ。

 俺がクズ? そんなわけないだろ。


「俺はちゃんとラムファの体調を気にかけてたし、今だって心配してる。大切にしてるじゃないか」

「だーかーらー、そんな自分が好きなだけでしょ。もういいや、話になんないよぉ。ラムファ嬢もこんなクズのどこがいいんだか。帰れるように馬車を手配してくるから待ってて」


 レフィトは、興味を失ったように俺から視線を外す。

 今の俺は何も間違っていないはずなのに、何であんな風に言われないといけないなんだよ……。


 ラムファを見下ろせば、ふっとその瞼が上がる。


「起きたか……。今、レフィトが帰りの馬車を──」

「聞こえていたので、大丈夫ですよ」


 え? 聞こえていた?


「いつから起きてたんだい?」

「……最初からです」


 いつもの落ち着いた声なのに、何故かその声に温度を感じなかった。


 

思考がグラグラ揺れてますね、アグリオさん。

さて、次回はアグリオとラムファのラストです(たぶん)

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