求める関係⑤
「はぁ?」
レフィトの低音が響く。瞳から光は一切失われ、とても家族に向けるものとは思えない視線を、フィラフくんに向けている。
「寝言は寝て言え」
「えー、寝言じゃないよ。ほら、ばっちり起きてるの見えるでしょ? 兄上は馬鹿だなぁ」
レフィトはフィラフくんを睨むけれど、当のフィラフくんはまったく気にした様子はない。
むしろその目は輝き、とても楽しそうだ。
「冗談だってー。真に受けないでよ。それにしても、いつも俺のことは無関心だったのに、カミレが関わるとこっちを見るんだね」
「名前で呼ぶな」
「あはは、ケチだなぁ。ねぇ、カミレ。俺に乗り換えたら? 兄上って面白くないでしょ。剣握るのとへらへら笑うことしか能がないしさ」
挑発するようにフィラフくんは言葉を重ねていく。
その姿に違和感を覚える。
レフィトへの悪意もないし、からかって楽しんでいる感じもないんだよね……。
フィラフくんは、何がしたいんだろう?
「フィラフ、お前夜遊びしてるらしいね。背後には気を付けなよ?」
「ちょっ、レフィト!」
「うん? 悪いけど、カミレは黙っててくれる?」
「え、普通に嫌だけど? 私に向けられた言葉くらい、自分で返すよ。それに言いたいこともあるし」
そう言うと、ギョッとした視線を二つ感じた。
何だろう。兄弟だからなのかな、ちょいちょい似てるんだよなぁ。
うーん、カマかけてみるか。
「フィラフくん、乗り換えることは絶対にありえないから、ごめんね? 大好きなお兄ちゃんを奪っちゃって」
たぶんだけど、これなんだよね。
私のことはちらっと見ただけで、ずーっとレフィトのこと見てるんだよ。
「な、何を言ってるんだよ! そんなわけないだろ‼」
あー、図星か。慌てちゃって、可哀そうに……。
だけどね、私は怒ってるのよ。レフィトにあんなこと言ったのもだけど、その前から。
「そう? 私には、やっとお兄ちゃんが自分のことを見てくれて、嬉しそうにしているようにしか見えなかったわよ」
「ちげーよ! 馬鹿‼」
「あ、そうなの? じゃ、もういいわよね。レフィトと話したかったのなら、もっと早くできただろうし、今更だもんね。お兄ちゃんの婚約者を見たかったってのは、もう叶ったでしょ? あ、もう一回、挨拶しようか? はじめまして、フィラフくん。夜遊びやら、女の敵やら、噂は聞いていたからどんな子かと思っていたけど、ただのわがままな坊ちゃんで安心したわ」
フィラフくんにも事情があるのかもしれないけどね、それはそれなんだよね。
私にとっては、レフィトを害するものは敵だから。
最後にネイエ様の真似をして、にっこりと笑う。
レフィトを攻撃する人は、許さないわよ! という気持ちを込めて。
「お前、生意気だぞ!」
「フィラフ、生意気なのはお前だよぉ?」
真っ黒な笑みを浮かべ、レフィトは言う。
けれど、私の方を見た琥珀色はキラキラを通り越して、ピカーンと輝いている。
「カミレカミレ! フィラフからオレのこと守ってくれて、ありがとぉ。もう、カミレの愛がばんばん伝わってきたよぉ。カミレがかっこよすぎて、オレずーっとドキドキしちゃったぁ」
あ、犬耳としっぽが現れたや。嬉しかったのが言葉と表情だけじゃなくて、大きく揺れているしっぽの幻覚からも伝わってくる。
そんな姿が可愛くって、柔らかな黒髪をよしよしと撫でれば、レフィトはくふくふと笑う。
「この悪女め! 兄上はな、へらへら笑ってたけど、そんな屈服した姿を見せる人じゃなかったんだよ。前の兄上の方がかっこよかったのに! どんな姑息な手を使って取り入ったんだ⁉ さては、人の姿をしているが、悪魔か何かだな!」
「えっと……、フィラフくんは中二病なの?」
レフィトの方を見れば、すごく痛い子を見るような目でフィラフくんを見ていた。
「中二病が何だか分かんないけど、たぶんそれだよぉ」
「そうなんだ……」
レフィトと一緒になって残念なものを見るような視線を向ければ、フィラフくんが吠えた。
「中二病ってなんだよ! 悪魔用語か⁉」
「違うよ。中二病って、独自の世界観に没頭したりすること……かなぁ? たぶん……」
「何だよ、たぶんって!」
そう言われても、前世の用語だから、確認のしようがないんだよね。
「フィラフ、お前、友だちのところに行ったらぁ?」
「な、何でだよ!」
「だって、邪魔だし。オレ、カミレとふたりがいいんだよねぇ。お前、邪魔」
レフィトの言葉に、フィラフくんにギッと睨まれる。
「マリアン様なら納得できたのに、なんでこんな女なんだよ! 兄上には、ふさわさいくないだろ! 顔か? 金か? 名誉か? どれに吸い寄せられてきたんだよ。お前と兄上が釣り合えるわけないだろ!」
「……殺す」
うそーん。もう一回闇落ちなの? レフィトの情緒が乱高下し過ぎだよ。
フィラフくんもお兄ちゃん大好き! をこじらせると、大変なことになるんだなぁ。でもね……。
「そっくりそのままお返しするわ。フィラフくんの方こそ、レフィトの弟に相応しいの?」
ハッと鼻で笑ってやれば、フィラフくんの目にみるみるうちに涙が溜まっていく。
「うるせー。カミレなんか、兄上に振られちゃえばいいんだ!」
そう言いながら、フィラフくんは走り去っていった。
……いったい、何だったの?
いつもお読みいただきありがとうございます。
フィラフくん、出てきました!!
はい、拗らせ系ですね。ふふっ……、拗らせは私の大好物です。
さて、今回も2巻の宣伝をさせてください。
2巻の電子書籍での特典ssについて、少しお話したいな……と。
2巻の電子書籍限定ssは『カミレ&レフィトと、アザレア&ゼンダのダブルデートss』になってます!!
Webでも、いつかダブルデートしてみたいな……とカミレが言っていましたが、電子特典で現実となりました。
よろしければ、読んでいただけますと嬉しいです。
発売は、11/1(土)になります。
よろしくお願いいたします。