密会〜レフィトside〜④
「え? えぇっ!?」
目を白黒させているカガチにため息が溢れる。
そんなオレの様子を見て、カガチは満面の笑みを浮かべた。その表情が、心の底から嬉しそうなもので、思わず距離をとる。
「レフィトーーーっ!!」
感極まったように両手を広げて突進してきたのを避ければ、カガチは壁に突進していった。「イテッ」と声をあげつつも、振り返ったカガチはまだ笑っている。
「いきなり、何なのぉ?」
抱きつかれるなんて、カミレ以外はお断りなんだけど。
というか、何で壁に激突したのに笑ってるわけ?
「だって、これが感動せずにいられるか!? 今日は記念日だな! ケーキだ。ケーキを焼こう!!」
「意味分かんないから。それに、カガチ、ケーキ焼けたっけぇ?」
「今日から練習する! あ、それだと今日に間に合わないのか。カミレちゃんに頼も──いてててててて……」
何度もカミレを名前で呼ぶとか、ふざけてんのかなぁ?
オレ、注意したよね?
「落ち着きなよぉ」
「耳、取れるっ!! 取れるってぇ!!」
「名前で呼ぶなって言ったの、聞こえなかったぁ?」
「あっ!! 聞こえた! 聞こえてたっ!! お嬢さん。お嬢さんって呼ぶからぁぁぁぁあ」
あー、うるさい。
パッと引っ張っていた耳から手を離せば「ついてる? 俺の耳ついてる?」なんて言っている。
カガチの耳なんか、取るわけないのにさぁ。
「仲良くて羨ましいな。レフィト、僕とも仲良くしようよ。兄さんの方には、もう付かないんでしょう?」
空気を読むことのないリカルドの言葉に、再びため息が出てしまう。
散々喧嘩を売ってきて、何で仲良くなれると思っているのかなぁ。その説明すら、面倒でしかない。
「……耳、もいでもいいかなぁ?」
「耳をあげたら、仲良くしてくれるの?」
「オレ、リカルドのそういうとこ、嫌い」
うわぁ。分からないって、顔してるよ。
理解できないのは知ってたけど、この雰囲気だと、どこを嫌いと言ったのか説明させられそうだ。
うん、さっさと本題に入ろう。
「リカルドは、今日は何で呼んだわけぇ?」
そう聞くと、リカルドは真剣な表情になった。
どうやら大事な話らしい。まぁ、予想はついてるし、こっちもそのつもりで来てるんだけど。
「勧誘だよ。僕の味方になって欲しいんだ」
「こっちの利益は?」
「騎士団長になれるように確約するよ」
「それ、いらないかなぁ」
カミレと生きていくために金は必要だから、騎士として勤めるつもりはあるけれど、団長なんかになったらカミレのそばにいられる時間が減る。
オレは親父のように騎士団に人生をかけるつもりなんかない。むしろ、他人に押し付けられるものなら、押しつけてしまいたい。
まぁ、カミレが望めば話は別だけど。
「じゃあ、兄さんとマリアン嬢を地方に飛ばすとか、どうかな?」
「そうするために、リカルドは何ができるのか知りたいんだよぉ。それ、今すぐにはできないし、今後も確実にできる保証はないよねぇ? 味方になって欲しかったら、手の内を明かしてくんない? そうしないと、信用できないってぇ」
とは言っても、これですべてを話すようならアウト。
そんな馬鹿と組んだが最後、他の味方を得るためにオレまで売られる。
「うーん。そうだなぁ。あっ、父にネイエ嬢と婚約したいからカティール公爵家に打診したいって話してるのとかは?」
「……それ、うまくいったぁ?」
「ううん。でも、ネイエ嬢が頷いたら打診してくれるって言ったよ」
あぁ、頷くはずないって思ってるやつか。
それでもオッケーを出したのは、ネイエ嬢を表立って味方にできるなら、リカルドが王位を継ぐ可能性が高いと判断してかな。
「ネイエ嬢は、頷いてくれそうなのぉ?」
「いつも断られてるかな」
「だよねぇ」
いくらネイエ嬢自身がリカルド側につくと決めても、カティール家の当主は王子の方についている。
説得すると言っていたけど、相当難しいはずだ。それこそ、王子とマリアンが何かしでかすか、周りの側近が離れるかしないと。
「だから、アプローチを変えてまずはアグリオからこっちに引き込むことにしたんだ」
「はい?」
「ラムファ嬢、外国に行けば完治できるでしょう? それを、教えてあげたんだよ」
「…………は?」
「だから、ラムファ嬢の治療はアグリオの母が心優しい自分を演出するためにさせてないって教えたんだよ。あの時のアグリオの鬼気迫る感じ、すごかったな。僕が嘘をついてるって疑ってさ。少し調べれば分かることなのに。やんなっちゃうよね」
まさか親がそんなことをしているなんて微塵も疑っていなかったし、リカルドが嘘をついていると思いたかったんだろうな。
アグリオの性格上、すぐにでもラムファ嬢の病気のことを調べるはず。そうなったら、リカルドに恩を感じる可能性は十分ある。上手く行けば、仲間に引き入れられる。
問題は、リカルドが最悪の事態を想定しているか、なんだよねぇ。
カラコエ家からの支援がなくなれば、ラムファ嬢は今までどおり薬を飲むことは難しい。国外へと治療に行くにしたって、決して安い額ではない。
目的のためなら手段を選ばないところは共感できるけど、もう少し慎重に行動できないもんかねぇ。
「それで、アグリオとラムファ嬢の様子がおかしかったのか」
納得したようにカガチは言うけれど、アグリオの様子を少しも思い出せない。
同じクラスにいるけれど、興味のない相手のことなんか変な動きをしない限り見てないし、いちいち記憶なんてしていない。
「へぇ、そうなんだぁ。もしかしたら、アグリオはラムファ嬢に直接確認したのかもねぇ」
「ログロスじゃあるまいし、そんなことするか?」
「するんじゃないかなぁ。ラムファ嬢が真実を知っていたのかって。知らなければ、同情し自分を責めるだろうけど──」
「けど?」
「知っていたと聞けば、ラムファ嬢を責めるんじゃない?」
「……いくら何でも、そんなことはしないだろ。それに、ふたりの雰囲気は、ギスギスしてるけど、険悪なものではなかったぞ」
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