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[朝の魔石]

「さぁ、話してもらおうかしら?ロンド」




彼女を怒らせてはいけないと、誰が知っていただろう。

火を司る赤の魔法使いは、その背後に炎を纏うかのような怒りに満ちており、傍で見ていたレクイエムは内心不安で仕方がない。


そんな彼女の正面で縮こまっている師であったロンド。

彼は聡明で素晴らしい魔法使いであったと、レクイエムは過去の姿を思い浮かべていた。

それが、まるで怒られた犬のように頭を垂れ、シンフォニエッタからの説教を受けているではないか…。


「黙っていないでなんとかおっしゃったらどう!??」


「シンフォニエッタ、私が聞こう。ロンドも話しやすいだろう?」


あまり時間をかけてはいられない。

結界を張ったとはいえ、今後の対策を考えなくてはいけないが、なによりもパッションに任せたエトワールが気がかりだった。

レクイエムからすれば、エトワールは弟子の時代を共に過ごした弟のようなもの。

あの時、相方から発せられた彼の苦しみに満ちた叫びが、どれほどのものか……。


「レクイエム……」


「お久しぶりです。我が師であり、白の魔法使いロンド。話してください、何があったのですか?」


少しやつれた表情を窺うように話しかけるレクイエム。

ロンドはぽつりぽつりと言葉を漏らし始めた。


「まさか、あのような事が起こるとは考えもせんかった……。魔力を注ぐ作業も、間違ってはおらんかった」


「そうでしょうとも。貴方が間違うなんてありえない」


「風じゃ…。風がわしの前を吹き抜けていった。そして、わしの髭を巻き上げたのじゃ……」


「髭…ですか…??」


レクイエムが首をかしげた背後でシンフォニエッタの口元が僅かに引き攣った。

彼女が脳裏に描いたものは彼がこれから話すであろう真実とぴったりと重なった。


「髭がわしの鼻をくすぐり、くしゃみが出た。その時力が入りすぎ、魔石に魔力が多く注がれてしまったのじゃ。急に魔力が増幅してしまった為魔石が耐えきれず破裂した……」


ロンドは袖から紫の紐で縛られた茶色の包みを取り出すと二人の前へと差し出した。

二人はありえないという表情で互いの顔を見合わせると、包みを受け取り、紐を解いた。

中には輝く粉末が入っていた。


「…どうやら【朝の魔石】で間違いはないようだ」


「何で早く言わないのよ……。これなら時間はかかるけど戻せるじゃない」


ぺたんと力なく床に座り込んだシンフォニエッタにレクイエムが寄り添う。

どのような形であれ、【朝の魔石】はここにある。

希望は残っているのだ。

レクイエムはロンドへと向き直る。


「ロンド、エトのところへ行きましょう。彼に謝らなければ…」


「…そうじゃな。彼には、すまないことをしてしまった……。許してもらえぬかもしれん……………口もきいてもらえなかったら…どうしよぅ」


「「……」」


レクイエムにとって弟のようなエトワールは、ロンドにとってみれば孫のようなもので、彼が弟子入りした当時は、えらく可愛がり、アリアの傍を離れないエトワールを

見ては、アリアに文句を言っていたのを思い出し二人は何も言えない。



と、いうか……あんた今年で何歳だよ。

当然口なんか聞いてもらえないだろうが、自業自得なのだから泣かないでほしい。

ハンカチで目頭を押さえる老人に頭が痛くなる二人であった。





数時間後

結界を施した永遠の塔を離れ、三人は不思議の街へと降り立った。

街の入り口へ出た彼らは静まり返った街の中をあるいた。


アリアが通った道を、今はエトワールが進んでいるのだ。


彼が住人と選んだ猫人族ワーキャットプシューケーに取り込まれてしまった…。


「・・・静かね」


ぽつりとシンフォニエッタが漏らした言葉にレクイエムとロンドは力なく頷いた。


エトワールが街を治めた時に行われた宴の華やかさは今でも覚えている。


淡い色とりどりの花が舞う中、軽快な音楽が響きわたった。

猫人族ワーキャット達が白の衣装を身にまとい、曲に合わせて軽やかなステップを刻む。


空には輝く大輪の光の花が咲き誇っており、宴には人間、エルフ、ドワーフ、ホビット…ウサギのような長い耳を持つアルナブ族、海精達ネレイデスと、【大地ガイア】に住まう

様々な種族が集まり、新たな緑の魔法使いを祝福した。


「まるで、あの時の宴が嘘のよう…」


「そうだな。我々のところと違い、ここは…奪われてばかりだな」


「……すまない、街の民達よ……」


地に膝まづき謝罪の言葉を述べるロンドをレクイエムが立たせる。

彼は静かに首を横に振り、街の先を振り返った。


「ロンド、その言葉はエトワールへ伝えるべきだ…。民もそれを望んでいる」


民は領主あってのもの。

領主の悲しみは民の悲しみ。


「そうじゃな……行こうかのぅ」


「ええ」




















「オッラトッリオーーー」


ごろんっとノイは自室でオラトリオと一緒にベッドの上で遊んでいた。

オラトリオは嫌がる様子もなくノイの腕の中に納まる。


ここ数日はこうしてノイと共に過ごすことが多くなった。

主の帽子の上が少し恋しいが、家族のいないノイを独りにするのも気が引ける為、彼は大人しくノイにくっついていた。


エトワールは書庫に籠り文献をあさっているし、パッションはのんびりトゥッティと毎日を過ごしている。

【朝の魔石】を失ったというのに、彼女は危機感というものがない。


「ねぇ、オラトリオ。僕でも魔法使いになれるかな?」


ノイの言葉にオラトリオは顔を上げた。

緑青色の瞳はじっと天井を見ているようにみえたが、きっとノイは違うものをみているのだとオラトリオは感じた。


あぁ、なんでこんなにも似てしまうのだろう・・・・?

まるで、誰かの陰謀なのではないかと思ってしまう程、ノイとエトワールが被ってしまう。


エトワールを苦しめないで。

君は魔法使いにはならないで。

オラトリオは思うが口にはしない。

決めるのは主であるエトワールだから。


「僕ね、マァムが大好きだった。もう居ないのがすごく悲しい、すごく辛い…会いたい……マァムに会いたいよ…」


腕で顔を覆うノイにオラトリオは俯くしかできない。

あの時は彼もよく泣いていた。

アリアと僕だけがそれを知っている。


コンコンッと控えめなノックにオラトリオが扉を見る。

この気配は主であるエトワールのもの。

返答せずにそのままでいると小さな音を立てて控えめに扉が開いた。


「オラトリオ、ノイは寝ているのかい?」


何時もより小さな声音でベッドで丸くなるオラトリオに問うと彼は首を横に振る。

エトワールは不思議に思い近づいた。


「泣いているのか…」


ノイの頭を優しく撫でると、ノイは顔を上げた。

エトワールは何も言わない。


「っ…エトっ…僕はっ、マァムを連れてったやつを倒したい…」


「うん」


「僕はっ…このまま何もしないで待つなんて嫌だ!僕を魔法使いにしてよ!エト!!」


ボロボロと大粒の涙を流しながら訴えるノイにエトワールはオラトリオを見た。

彼はぷぃっとそっぽを向いた。

賢いオラトリオのことだ…やめておけとそう言いたいのを堪えているのだろう。


でも、僕は…この感情をよく知っている。


「オラトリオ…僕のわがままばかりでごめん。これで最後だからきいてくれるかい?」


オラトリオはむすっとした眼でエトワールを見た。

そんな言い方はずるいとでも言っているようでエトワールは苦笑した。


「ノイ、魔法使いになるには辛いことを沢山乗り越えなくてはいけない。楽なものではないよ?それでも君にその覚悟はある?」


「……ある」


ノイの強い意志を察したエトワールはオラトリオをノイの膝へと置いた。

オラトリオはノイの膝の上でエトワールの言葉を待った。

結局、主の頼みには弱いのだ。


『汝、ノイ・ジ・ソレイルはこの時より【大地ガイア】へその命を捧げ、この時より生命の時を我、エトワール・ラ・メールへと捧げることを誓うか?』


「誓います」


『【大地ガイア】よ、新たなる生命を受け入れよ。名をノイ・ジ・ソレイル。緑の魔法使いエトワール・ラ・メールの弟子として此処に契約する』


エトワールの手のひらがノイのおでこへと置かれるとオラトリオの額が光だした。

その様子をいつからいたのかパッションがずっと見守っていた。


「おめでとう、ノイ。今日から君は僕の弟子だ」


「エト」


パッションが何かに気づき彼を呼んだ。

エトワールも気づいたようで深いため息をついて立ち上がる。


「やっと来たのか…あの爺さん遅いにもほどがある」


「ほどほどにしてあげなよ?おじいちゃん歳だから泣いちゃうよ?」


「そんなことになったら追い出すまでだ」


パッションとノエトワールの会話を聞いてノイとオラトリオは顔を見合せた。

クスクス笑うノイにオラトリオは尻尾をふって答える。



広間には既に三人の魔法使いが来ていた。

ふとエトワールは外をみた。

庭には木下で休む白馬のシルメリア―赤の魔法使いの相方で主と違って大人しくて従順。

その傍で眠る銀狼シルバーウルフのガルフィード―青の魔法使いの相方で気高い。飼い主に似てる。

近くで丸なっている白狐のアレス―白の魔法使いの相方でやや臆病な面がある。トゥッティが大の苦手(食べられるから)


「で?何しに来たわけ?連絡も寄こさずに」


「おつかれ、シンフォニエッタ、レクイエム。久しぶりだね、ロンド」


対照的な二人にシンフォニエッタとレクイエムは苦笑する。

パッションをエトワールの元へ行かせたのは間違いではなかったようで、エトワールが元気なことにホッと胸を撫で下ろしたのだった。


そして後ろで入るか入らないかを迷っている小さな存在を見つけたレクイエムとシンフォニエッタは目を丸くした。


「いいよ、入っておいでノイ」


「う、うん」


「エトワールの弟子だよ」


「「「!?」」」


「役者は揃った。話をしに来たならさっさと話して、さっさと永遠の塔に帰ってくれ」


エトワールはどかっとソファに腰掛ける。隣にちょこんとオラトリオを抱えて座るノイ。

パッションも真実を聞きたいのかうずうずした様子でソファへと座る。


シンフォニエッタとレクイエムも腰を下ろす。

ロンドは座らず床に膝をついてエトワールへと深々と頭を下げた。


「本当にすまなかった…」


「謝罪を聞きたいんじゃない。【魔石】について話してくれない?」


ロンドはこれまでの経緯を話し始めた。

心なしか、エトワールの目つきが鋭さを増している気がしてならないレクイエム達。


「…そんな、くだらない事で【朝の魔石】が壊れて、事実隠蔽ってさ、ほんと何考えてたわけ?」


大体、そんな大事な時に窓を開放していること自体間違いじゃないかと散々説教されたロンド。

パッションはちょっとロンドが可哀そうになった。


「エト、それくらいにしなよ。【朝の魔石】だって一から創り上げていくわけではないし」


「甘やかすな」


ぴしゃりと言われてパッションは肩を窄めて苦笑する。

ロンドが思っていた通りにはならなかったが、しばらく彼の説教からは逃れられそうもない。

泣きながら謝るロンドもどこかホッとしているのか嬉しそうで、またそれが彼の逆鱗に触れてしまったのは言うまでもない。


「それにしても、弟子いりとはな…」


レクイエムの視線にノイは緊張したように背筋をピンと伸ばす。

緑青色の瞳はきょろきょろとさ迷って最終的にエトワールでとまった。


「僕が誰を弟子にするか関係ないだろ。さ、話は終わったんだ。帰ってくれ」


「残念だけど、まだ帰るわけにはいかないわ。今後の事を話さないとね」


「その為には、プシューケーの事を知らねばなるまい……」


ロンドはゆっくりとソファに腰掛けて5人を見た。

3人は既に知っているがエトワールとノイが知らないプシューケーの秘密を………




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