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[白の魔法使いの過ち]

それは、遥か昔の物語。

まだ、この大地が大きな大きな一つの大陸で【ガイア】と呼ばれていた頃の物語。


【ガイア】を統治するのは5人の偉大なる魔法使い達である。

彼らは【魔石エレメント・ドロップ】という6つの自然界の源を持っており、【ガイア】の成長を促している。


魔石エレメント・ドロップ】とは、何百、否、何千億年という長い刻をかけて結晶化した石であり、魔力を蓄積する力を持っている。この【魔石】に偉大なる魔法使い達は何十年かに一度、魔力を注ぎ、【ガイア】を育てている。


【魔石】はそれぞれ役割があり、また、偉大なる魔法使い達が何を育てるかは色によって決められる。


新緑のローブと帽子を身にまとう【緑の魔法使い】は、【風の魔石】を持ち【ガイア】に生命の流れを・・・

深紅のローブと帽子を身にまとう【赤の魔法使い】は、【炎の魔石】を持ち【ガイア】に生命を誕生させる・・・

紺碧のローブと帽子を身にまとう【青の魔法使い】は、【水の魔石】を持ち【ガイア】の大地に潤いを与え・・・

山吹のローブと帽子を身にまとう【黄の魔法使い】は、【土の魔石】を持ち【ガイア】の大地に基盤を築く・・・

漆黒のローブと帽子を身にまとう【白の魔法使い】は、【朝の魔石】と、【夜の魔石】を持ち【ガイア】に光と闇を与える・・・


一つでも【魔石】が欠けてしまえば、【ガイア】は均一を失い、闇夜が支配する【テラ】へとその姿を変える。


【テラ】では体を持たぬ影が世界を支配する。

彼らは【朝の魔石】に封じられ、【テラ】の中を徘徊する。

光を嫌い、封じられたことを怨む彼らは自我を持ち自由に生きる命在る者を呪う。

【朝の魔石】さえ無ければ・・・・彼らは【魔石】から抜け出し、【ガイア】を支配できる。




誰もが、起こりえないと思っていた矢先、それは現実のものとなった。




ある暖かな昼下がり。春の風が【ガイア】の草木をスルリと撫で、空高く舞い上がった。

太陽の真下にある高い塔・・・・【白の魔法使い】の治める【永遠の塔】である。


風は【永遠の塔】の一室へと悠々と入り込んだ。


ぐるりと部屋の中を泳ぐように回る・・・・真っ黒な床に真っ白な壁。中央には同じく白と黒の台座が二つ、並ぶように立っている。白い台座に置かれた黒い石【夜の魔石】と、黒い台座に置かれた白い石【朝の魔石】は、日の光を浴びてキラキラと輝きを放っている。


ギィ-・・・バタン・・・と、扉が開きすぐ閉まる音がした。

真っ白な長い髪に、長い髭。それと相反する漆黒のローブと帽子を身に纏った老人は中央の台座へと歩み寄った。どこか眠そうな虚ろな灰色の瞳はゆっくりと黒の台座に置かれた【朝の魔石】を手に取った。


『    』


ポツリとつぶやかれた言葉に【朝の魔石】は淡い色を発した。

老人の手から流れ出る白い煙のようなものが【朝の魔石】へと吸い込まれていく。


そう、今日は何十年に一度【魔石】に魔力を注ぎ【ガイア】を育てる日なのである。


【白の魔法使い】の周囲が青白い光で覆われ、あと少しで終わろうとしていたまさにその時であった。

ふぁ~あ・・・・と大きな欠伸をした彼の傍を風がサァァァァっと吹き抜けていった。

【白の魔法使い】のご自慢の白髭を巻き上げ、再びぐるりと部屋を回り外へとでていった風はこの後起こったことなど、知る由もなかった。




風でなびいた髭は、迷うことなく【白の魔法使い】の鼻を擽った。


「ぶぇっくしゅん!!!!!!!!!!」 パァ―――――――――ンッ!!!!





大きなクシャミと、大きな何かが砕けた音が同時に部屋に響き渡った。


二つの台座には、黒く輝く【夜の魔石】と、最早原型を留めていない白い粉が残っていた。

【白の魔法使い】はあまりの出来事に言葉を失った・・・・・。

彼は他の魔法使い達にその事実を知られぬよう【朝の魔石】だったものを隠し、事実を隠蔽した。


【朝の魔石】を失った【ガイア】の大地を、目には見えぬ何かが這い回りそれは各地へとむかった。


こうして、【テラ】の住人たちは【朝の魔石】の枷が外れ、外界へと姿を現したのであった・・・・。












《そちらはどうなのだ?》


沸々と煮えたぎる大鍋。中には何とも言い難い色の液体。積み上げられた様々な本という本の山。

怪しげな生物が入った瓶が並ぶ棚や、木箱に乱雑に入れられた薬草などで埋め尽くされた薄暗い部屋にそぐわぬ凛とした声が響いた。


声を発したのは口をパクパクと動かす大きなカメレオン。どうやら声は彼が発しているようだ。

机に置かれた新緑の帽子にぴったりとくっつきながら、椅子に腰掛ける黒髪の青年を見上げている。

このカメレオンは黒髪の青年の使い魔である。魔法使い達には必ず一匹は使い魔が付き従い、互いがどんなに遠くへ離れていても、使い魔を通してこうして会話をすることができるのである。


カメレオンは未だ声を発しない青年を見ていた。

目元まで覆う黒く長い前髪。表情は伺えないが、どうやら彼は視線だけ此方へむけているようだ。

暫くして、彼は分厚い焦げ茶色の本を閉じた。


「こっちは至って普通だよ・・・・今は、ね。ただ、猫人族ワーキャット達やオラトリオの様子が最近おかしい。どこかで【何か】あったのは確かだね。ロンド爺はなんて?」


黒髪の青年は帽子にくっつくカメレオンを撫でながら返答をまつ。


《ロンドからは何の返答もない。シンフォニエッタとパッションが様子を見に【永遠の塔】へと向かっている》


「おや?・・・・・ついに?」


緩む口元と楽しげな笑い声を上げる青年に、カメレオンから発せられる声の主は咳払いをする。


《縁起の悪い事を言うな。エトワール》


エトワールと呼ばれた青年は、悪びれた様子もなく肩を窄め、適当に相槌を打った。

彼にしてみれば、何があろうと、たとえ、ロンドという白の魔法使いが寿命でこの世を去ろうとも興味が無い。

彼は自身の街とその住人、そしてこの家が無事であればあとはどうでも良いのだ。


《他の2人の所も異常は無い。と、すれば・・・考えたくはないが【朝の魔石】と【夜の魔石】に何かあったに違いない》


その言葉にエトワールは小さな溜息をもらすと手を大鍋へとむけた。

すると、ゴォゴォと燃えていた炎は次第に小さくなり最後には消えてしまった。


「朝と夜に何かあったなら急いであちらに向かったほうが良いでしょ?僕も・・・・君も。あちらで会おう」


《あぁ》


声が止まると同時にエトワールは机に置いた帽子を手に取り、深く被る。

二つの魔石に何かあれば【ガイア】の平和は脅かされ、その脅威はいつかこの【不思議な街】へとやってくる。エトワールはこちらを見上げているカメレオンのオラトリオを帽子に乗せた。


「さて、急に忙しくなりそうだよ、オラトリオ。周囲に変化はない?」


エトワールの問いにオラトリオは小さく頷くと、彼はニッと口元を緩めた。

腰に巻いている石が所々についているロープをしゅるりと解き、床に円をつくった。

その円の中に足を踏み入れるとエトワールはこう言った。


【永遠の塔】へ・・・・・と








空間を移動する感覚は極めて言い表しにくい。


と、彼は思った。空間移動など滅多にしない彼らにしてみれば、複雑に曲がりくねったトンネルを超高速で走り抜ける感覚というのは誰だって、一生体験したくはないだろう。



ザァァァァァと風が吹き、円形に草花が分かれると、淡い緑色の光共に、新緑のローブがフワリとその中に降り立った。


ローブを纏った青年の眼前には空高く聳える塔。

エトワールは帽子を被りなおすと、迷うことなく塔の中へと入っていった。


ぐるぐると続く螺旋状の階段の中央には一本の太い柱が天井近くまで伸びており、螺旋階段の途中途中には木々のように枝分かれした通路がある。その通路の先にはエルフという不老長寿の一族が住んでいる。この中では空間が歪んでいる為、一つ一つの階がとても広く、街のようなつくりになっているのだ。


「あっ!新緑の魔法使いだ!!」


と、どこかのエルフが声を上げた。

柱に沿って最上階へと続く螺旋階段を上がっていたエトワールは足を止め、声のほうへと振り返る。



どこもかしこも自分を見る数多の瞳。

彼らは大の噂好きだ。皆、コソコソと話をしては、エトワールをちらりと盗み見てはまたコソコソと話をする。



「やれやれ・・・まるで珍獣扱いだね」


後で文句のひとつでもロンドに言ってやろうと相方のカメレオンのオラトリオに言葉を投げると、彼はいい案だといわんばかりに

長い尻尾を左右に大きく振った。


どの階のエルフ達も皆コソコソ ヒソヒソ。


今日は何かあった?


さっきは紺碧の魔法使いがきていたよ?


コソコソ ヒソヒソ 


彼らの噂が絶えることはない。

そんな彼らの会話など聞こえていないかのように、エトワールは最上階へ辿り着いた。

そこには真っ白な扉がひとつ、ぽつんと立っていた。


華美な装飾などひとつも無く、古びた金色の取ってと同色の鍵穴だけだついた質素な扉である。

エトワールは取っ手に手を伸ばし、オラトリオの尻尾にくくりつけた取っ手と同じ色の鍵を鍵穴へと差し込んだ。


キィと小さな音を立てて扉が開き、エトワールは再び足を進めた。


読者様へ

この小説は三部作の第一部連載です。

長編になるかと思いますが、楽しんで読んでいただければと思います。


エトワールともどもどうぞよろしくお願いします^^



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