2話 決意の飛行
本当に霧はポポ山にまとわりついているようで、空高く飛ぶと、霧の影響は受けなかった。
「医者、医者がいるところ……。っ!あそこ!」
患者が扉を開けたタイミングで、病院に滑り込む。
鳩が入ってきたのだのと、患者たちは騒ぐ。
騒ぎが気になったのか、医者が顔を出した。
わたくしは、バスに書かせた手紙を渡す。
医者は手紙を一読すると、さっと顔色がかわる。
「わかった。すぐにいこう。だが、手紙の通りだとすると、私が急いで頂上に向かっても間に合わないかもしれないな」
「そ、そんな!どうにか方法はないんですか!!」
まるでわたくしの言葉が聞こえたように、医者は呟く。
「せめて、この薬剤だけでも届けられたら、話は違うんだが……」
わたくしは薬剤を軽くつまみ、必死にアピールする。
「わたくしが運びますわ! お任せください!!」
「ふむ、君が届けてくれると?」
「ええ! わたくしなら、お茶の子さいさいよ」
わたくしはハトだ。このくらいの薬の配達はできる。
ぴょんぴょんと机の上を跳ねて訴えるも、医者はあまり乗り気ではない。
「しかし、彼らは頂上にいるのであろう? ポポ山の頂上は、昼時は霧が晴れるが、今の時間だと霧に包まれてしまっているが……」
「それでもやります!」
ピジン副隊長を助けるためだ。
霧の中を突っ込むくらいの危険は冒す。ハト胸を精一杯張ると、医者は心配そうにしながらも、薬の包みを足に括り付ける。
「分かった。頼んだよ」
餞別にと、水と何粒かの豆を食べさせてくれた。
窓を開けて、わたくしを解き放つ。
「ありがとう、あとで謝礼をお渡ししますわ」
薬を持っているせいか、身体が重い。薬を落とさないように気を付けながら、翼を懸命に動かす。
来た道を慎重にたどり、ポポ山の頂上と思える場所にたどり着く。
なぜ「思える」なのか。
霧に包まれていて、頂上がどこだか全く分からないのだ。
「どうしましょう……」
悩んだのは一瞬だけ。血を流すピジン副隊長を思い浮かべると、わたくしの心の中から勇気があふれてきた。
無謀だと分かっていた。分かっていたが、わたくしは霧の中に突っ込んだ。
霧の中では、方向感覚さえも分からない。とにかく下へ下へと落ちていく。
突然、目の前に地面が見えた。わたくしは慌てて体を起こす。ぎりぎりのところで地面に激突せずにすんだ。
「あ、危なかった」
ほっとしていたのが、悪かったのだろう。
太い枝が迫っているのに、気が付かなかった。
「っ!」
咄嗟に薬をかばう。
おかげで、薬は落とさずにすんだが、脇腹に枝が刺さる。
わたくしは悲鳴を上げる。
今にも力尽きて落ちてしまいそうだが、わたくしは懸命に耐える。
「ピジン副隊長も、耐えているのよ」
嘴を上に持ち上げて、山を登る。
途中、葉っぱが身体を傷つけ、飛んできた石にぶつかってしまう。
それでも、わたくしは飛ぶ。
飛ぶ。
飛ぶ。
わたくしは、開けた場所に出た。
見覚えのある建物と、その周囲にいる大勢の人。
そして、血だまりに倒れた、ピジン副隊長。
「……つい、た」
わたくしはピジン副隊長のところへと飛ぼうとする。
が、頂上について気が抜けてしまったのか、たどり着く前に地面に落ちる。
バスが血相をかえて、わたくしを拾い上げてくれた。
「おい、しっかりしろ、ハートフルレンジャー!」
懐かしい名前に、わたくしは目を細める。
「バス。お願い。この薬を、ピジン副隊長に……」
バスはわたくしが持ってきた薬を受け取ってくれた。
「よかった、これで、」
意識が、だんだんと薄れていく。
抗うこともできず、わたくしは暗い闇の世界へと引きずりこまれた。




