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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
7章 あなたのことを、愛している
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2話 決意の飛行

 本当に霧はポポ山にまとわりついているようで、空高く飛ぶと、霧の影響は受けなかった。


「医者、医者がいるところ……。っ!あそこ!」


 患者が扉を開けたタイミングで、病院に滑り込む。


 鳩が入ってきたのだのと、患者たちは騒ぐ。


 騒ぎが気になったのか、医者が顔を出した。


 わたくしは、バスに書かせた手紙を渡す。


 医者は手紙を一読すると、さっと顔色がかわる。


「わかった。すぐにいこう。だが、手紙の通りだとすると、私が急いで頂上に向かっても間に合わないかもしれないな」

「そ、そんな!どうにか方法はないんですか!!」


 まるでわたくしの言葉が聞こえたように、医者は呟く。


「せめて、この薬剤だけでも届けられたら、話は違うんだが……」


 わたくしは薬剤を軽くつまみ、必死にアピールする。


「わたくしが運びますわ! お任せください!!」

「ふむ、君が届けてくれると?」

「ええ! わたくしなら、お茶の子さいさいよ」


 わたくしはハトだ。このくらいの薬の配達はできる。


 ぴょんぴょんと机の上を跳ねて訴えるも、医者はあまり乗り気ではない。


「しかし、彼らは頂上にいるのであろう? ポポ山の頂上は、昼時は霧が晴れるが、今の時間だと霧に包まれてしまっているが……」

「それでもやります!」


 ピジン副隊長を助けるためだ。


 霧の中を突っ込むくらいの危険は冒す。ハト胸を精一杯張ると、医者は心配そうにしながらも、薬の包みを足に括り付ける。


「分かった。頼んだよ」


 餞別にと、水と何粒かの豆を食べさせてくれた。


 窓を開けて、わたくしを解き放つ。


「ありがとう、あとで謝礼をお渡ししますわ」


 薬を持っているせいか、身体が重い。薬を落とさないように気を付けながら、翼を懸命に動かす。


 来た道を慎重にたどり、ポポ山の頂上と思える場所にたどり着く。


 なぜ「思える」なのか。


 霧に包まれていて、頂上がどこだか全く分からないのだ。


「どうしましょう……」


 悩んだのは一瞬だけ。血を流すピジン副隊長を思い浮かべると、わたくしの心の中から勇気があふれてきた。


 無謀だと分かっていた。分かっていたが、わたくしは霧の中に突っ込んだ。


 霧の中では、方向感覚さえも分からない。とにかく下へ下へと落ちていく。


 突然、目の前に地面が見えた。わたくしは慌てて体を起こす。ぎりぎりのところで地面に激突せずにすんだ。


「あ、危なかった」


 ほっとしていたのが、悪かったのだろう。


 太い枝が迫っているのに、気が付かなかった。


「っ!」


 咄嗟に薬をかばう。


 おかげで、薬は落とさずにすんだが、脇腹に枝が刺さる。


 わたくしは悲鳴を上げる。


 今にも力尽きて落ちてしまいそうだが、わたくしは懸命に耐える。


「ピジン副隊長も、耐えているのよ」


 嘴を上に持ち上げて、山を登る。


 途中、葉っぱが身体を傷つけ、飛んできた石にぶつかってしまう。


 それでも、わたくしは飛ぶ。


 飛ぶ。


 飛ぶ。


 わたくしは、開けた場所に出た。


 見覚えのある建物と、その周囲にいる大勢の人。


 そして、血だまりに倒れた、ピジン副隊長。


「……つい、た」


 わたくしはピジン副隊長のところへと飛ぼうとする。


 が、頂上について気が抜けてしまったのか、たどり着く前に地面に落ちる。


 バスが血相をかえて、わたくしを拾い上げてくれた。


「おい、しっかりしろ、ハートフルレンジャー!」


 懐かしい名前に、わたくしは目を細める。


「バス。お願い。この薬を、ピジン副隊長に……」


 バスはわたくしが持ってきた薬を受け取ってくれた。


「よかった、これで、」


 意識が、だんだんと薄れていく。


 抗うこともできず、わたくしは暗い闇の世界へと引きずりこまれた。

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