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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
6章 結婚式、本番
24/28

4話 悪い大臣の、悪い企み

 

 今まで全く気づかなかった。いつの間にか、たくさんの足音が地を響かせている。


 どうして見つかってしまったのか。


 悠長に話していたから?


 怯えているわたくしに、ピジン副隊長は耳打ちする。


「心配しないでください。彼らは僕たちを見つけていない」

「で、ですけど」

「大丈夫です。落ち着いて、口を閉ざしていてください」


 不安だったが、わたくしは彼の言う通りにする。


 暫く耐えていると、トッキャ大臣は舌打ちをする。


「ちっ、ここにもいないか……」


 警備隊隊長はおどおどと言う。


「あの二人は霧のなかを走っていました。やはり、谷にでも落ちてしまったのでは?」

  「そうだな……」


 トッキャ大臣は、驚くべきことを口にする。


「ならば、国王陛下には、ピジンがリルイア様を拐かし、ポポ山で無理心中を図ったと報告しよう」


 隊長はすぐさま賛成する。


「いいですね!それなら、どちらか生き残っていたとしても、言い訳がしやすい」

「ピジンのやつがノコノコ出てきたら、リルイア様暗殺の罪で処刑すればいい。もしリルイア様が生きていれば、精神の病と偽ればよい」


 トッキャ大臣はふう、とため息をつく。


「しかし、なぜリルイア様はピジンを逃がしたのか。あの人らしくない。誘拐されて変わってしまったのだろうか」


 過去のわたくしは、結婚相手の候補にトッキャ大臣を入れていたが、こんな人間のそばにいなくてよかった。


 わたくしは心のなかで呟く。


 確かに、昔のわたくしはひどい女だったけど、さすがに殺しをする人を好意的に見ない。


 まるで、わたくしの怒りを反映するかのように、誰かが、声を荒げる。


「さっきから見てたら、お前らふざけたことを抜かしやがって!」

「そうよそうよ!!あの人がいるおかげで、わたしたちは安心してトハエイで暮らせているのよ!」


 老若男女問わず、人々が声をあげる。


 彼らは、教会の周囲にいた、一般市民に違いない。


 警備隊たちは市民たちを抑えようとするが、彼らは怯まず抵抗する。


「ピジンさんを牢屋にいれるなら、俺たちを倒してからだ!」

「ええい、うるさい!」


 トッキャ大臣は癇癪を起こしたように怒鳴る。


 その直後、


「きゃあ!」


 殴打の音と、女性の悲鳴が響く。


「まさかっ!」


 わたくしの脳裏に嫌な予感がよぎり、血の気が引いた。


 わたくしの横にいる、ピジン副隊長は、


「……リルイア様。絶対に動いてはいけませんよ」

「え?」


 聞きなおす暇もなかった。気が付いたら、ピジン副隊長は飛び出していた。


「お待ちください」


 わたくしたちがいた場所は、ポポ山の頂上付近だったらしい。あんなに周囲を漂っていた濃い霧が嘘のように晴れた。


 まぶしい太陽の光が、ピジン副隊長を照らす。


 彼は倒れている女性に手を差し伸べる。


「どこかお怪我はありませんか」

「ピジンさん……! ありがとうございます」


 その光景は、まるで物語で出てくる勇者のようだ。市民たちも口々にピジン副隊長の名を呼び、安堵のため息をつく。


 一方のトッキャ大臣と隊長は顔を見合わせて、にやりと笑う。


 市民にばれないようにか、トッキャ大臣はすぐに真面目な表情に戻る。


「ピジン。リルイア様をどこにやった」

「……」


 ピジン副隊長は黙って、近くの枝を拾う。


 警備隊隊長は耳障りな笑い声を上げる。


「そんなもので勝てると思っているのです? 笑わせないでください」


 隊長が合図をすると、警備隊の人たちは無言でピジン副隊長を囲む。


 彼らは一斉にサーベルを抜いて構える。


 五十以上のサーベルが、ピジン副隊長を狙う。


「ひ、卑怯だぞ!」「そうよそうよ! 正々堂々と勝負しなさいよ!」


 市民たちの当然な意見だが、トッキャ大臣は一喝する。


「黙れ! 奴は王族の血を引く者を亡き者にしようとする犯罪者だ。奴を庇うのなら、お前らも無罪ではすまない!」


 トッキャ大臣の脅しに、多くの市民は怯えて口を閉ざす。


 それでも、ピジン副隊長のためにと、抗議しようとする勇気ある人もいた。


 だが、ピジン副隊長は片手をあげて、彼らの蛮勇を制止する。


「心配しないでください」


 彼は微笑む。


「私は、負けませんから」


 冷静に宣告した勝利発言を、警備隊隊長は一笑に付す。


「ふん、強がっていられるのも今のうちです。皆の者! やっておしまい!!」


 警備隊の人たちは、一斉に襲い掛かった。


 サーベルと枝では、どう考えても前者が圧倒的に強い。そのうえ、向こうは複数、ピジン副隊長は一人だ。


 勝てっこないと、わたくしは青ざめる。


 だが。


 ピジン副隊長は強かった。


 とんでもなく強かった。


 たった一本の枝が、まるで名のある剣と錯覚してしまうほどに、彼は次々と隊員たちを倒していく。


 おそらく、一分程度で、五十人もの隊員全員が地に伏せる。


 呆然と見つめるトッキャ大臣と警備隊隊長だが、ピジン副隊長は勝ち誇ることもなく冷静で、マイペースだった。


 彼は曲がってしまった枝を愛おしそうに撫でる。


「助けてくれてありがとう。次に会うときは、違う形で会いたいな」


 違う形とはどういう意味か、転生したら友達になりたい的な意味なのか、相変わらずよく分からなかったが、ひとまず彼は枝を優しく地面に転がし、トッキャ大臣たちを睨む。


「……あなたは、罪のない市民を威圧しました。例え大臣であったとしても、この行いは許すことはできません。逮捕させていただきましょう」


 隊長は悲鳴のような声をあげて怒鳴る。


「な、何を言っているのかね君は! トッキャ大臣を捕まえるなんて、ありえない。ありえない!」


 隊長は近くに落ちていたサーベルを手に持ち、ピジン副隊長に突っ込んだ。


 結果は、語るまでもなく。


「ぐえっ!」


 カエルのように潰れた。


 わたくしは思わず笑ってしまって、慌てて口を塞ぐ。けれど、ばれる心配はなかった。市民たちも「いいぞ!」「さすがお飾りの隊長さん!」と歓声をあげ、拍手をしていた。


 警備隊の隊長職は、実績なぞ必要ではなく、大臣からの推薦のみで決まる。その事実は、トハエイの市民たちは百も承知なのだ。


 ……にしても、ここまで弱いとは思わなったが。


 トッキャ大臣も、さすがに顔をしかめて怒鳴りつける。


「何を簡単に転がされている!」

「す、すみません……」


 さすがのこの状況に、トッキャ大臣は冷や汗をかいている。ピジン副隊長は淡々とトッキャ大臣を説得する。


「大臣。これ以上の争いは無意味です。大人しく投降してください」

「……」


 トッキャ大臣は目玉をぎょろぎょろとさせて、辺りを見渡し、ある一点を見つめる。


 わたくしは視線をたどる。


 そこには、警備隊の誰かしらが落としたサーベルがあった。


 トッキャ大臣が微かに微笑んだのに気が付いた。

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