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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
6章 結婚式、本番
22/28

2話 副隊長の味方と敵

 ピジン副隊長と別れ、わたくしは会場の控室で待機する。さすが新婦の控室なだけあって、部屋の中は絢爛豪華、窓にはトハエイの美しい街並みが見える。


 ピジン副隊長の言葉の意味を考えながら窓の外を眺めていると、ふと、わたくしは違和感を覚えた。


 なぜか、会場の周りに人が多いのだ。


 招待客ではない。服装は普通の一般市民のようだ。ピジン副隊長を狙う暗殺者かと疑ったが、彼らのまとう空気感は朗らかで、殺しをやりそうには思えない。


 わたくしの視線に気づいたのか、式場のスタッフが少し困った表情で言う。


「彼らは、お世話になったピジン副隊長をお祝いしようと集まっているようです。何度か追い払ったのですが、言うことを聞かなくて……。大変申し訳ありません」


 スタッフは懸命に頭を下げる。


 叱られると思っているのだろう。昔のわたくしの評判を聞いているのなら、怯えるのも仕方ない。


 もちろん、今のわたくしは一切怒りもしない。むしろ、ピジン副隊長はこんなにも色んな人から愛されていると知って、嬉しくなった。


「別にいいわよ。招待客ではないにしても、祝ってくれるのはありがたいわ」


 楽しそうな市民たちを見つめ、わたくしは改めて決意する。


 わたくしは、わたくしなりの力で、あの人を守ろう。

 

 式場のスタッフが声をかける。わたくしは覚悟をきめ、立ち上がった。


 華美なウエディングドレスを身に着け、わたくしはチャペルの扉をくぐる。招待客の視線がわたくしに降り注ぐ。

 

 産みの両親も来てくれていて、嬉しそうに目を細めている。

 

 二人の隣に、義理の両親が座っている。彼らはうまく婚約をとりつけられ、喜んでいるのか、ニタニタと笑っている。


 どこからか突き刺す視線を感じる。


 ちらりとそちらを見ると、警備隊の服装を着たバスがいた。


 わたくしは王族の人間だというのに、彼はピジン副隊長を無理やり結婚させたわたくしに嫌悪の感情をこめて睨んでいた。


 それほどまでに、ピジン副隊長は愛されているのだろう。


 悲しい気持ちが全くないとはいえない。


 けれど、決意をしたわたくしは、動揺することはなかった。


 わたくしは顔をあげる。


 ポポ山は、正午に霧が晴れて、光がさす。


 チャペルでは、その光景を表現しようとしてか、太陽の光が神父様のおわす場所にさしている。


 彼、ピジン・コルンバ副隊長も、光の下にいる。


 わたくしは一歩、また一歩と彼のもとへと近づく。


 穢れた虫が、光に誘われてまとわりつくかの如く。


 彼と向かいあう。


 ピジン副隊長は仏頂面で、何を考えているのかさっぱり読めない。嫌悪の感情を見出したくなくて、わたくしは目をそむける。


 その間にも、神父様は定型文をつらつら述べる。


「新郎、ピジン・コルンバ。あなたはここにいるリルイア・ヘロデ・トバラワカを、病める時も健やかなるときも、富める時も貧しき時も、妻として愛することを誓いますか」


 ピジン副隊長は、答えない。


 前もって金をつつんでいたため、神父様は返事を得られた前提で進める。


「新婦、リルイア・ヘロデ・トバラワカ。あなたはここにいるピジン・コルンバを、病める時も健やかなるときも、富める時も貧しき時も、夫として愛することを誓いますか」


 わたくしは顔をあげて、決意を言葉にする。


「誓います」


 わたくしの声は、固い意志に満ちていた。ピジン副隊長は驚いて顔をあげ、わたくしを見つめる。


 神父様も意外そうにわたくしを眺める。わたくしが睨むと、慌てて続きの台詞を口にする。


「そ、それでは、永久の愛をこめまして、誓いのキスを交わしていただきましょう」


 わたくしは一歩踏み出す。


 本当は、唇にキスを落としたい。


 彼に唇を奪ってほしい。


 ……わたくしの願いは、現実にはならない。絶対に。


 わたくしは彼の手を取る。

 

 せめて、手の甲に唇を落とさせてほしい。


 それだけは許してください。


 ピジン副隊長からの抵抗はない。


 彼の気が変わる前にと、わたくしは瞳を閉じて、唇を落とす、


 その寸前。


 教会の周辺が騒がしくなったかと思ったら、突如、教会の扉が開くと、警備隊の人間が何十人も入ってきた。


 剣呑な雰囲気に、列席の人たちは驚き困惑する。


 警備隊の人間は、みな一様に、ある方向を、ピジン副隊長の方を睨んでいた。


 なぜ突然警備隊が現れたのか。


 説明してくれたのは、彼らを率いる彼、トッキャ大臣であった。


「ピジン副隊長。いや、ピジン・コルンバ」


 走ってきたのか、トッキャ大臣の額には汗がついている。犬のようにハアハアと息を吐き、彼は鋭い視線をピジン副体調に向ける。


「お前を誘拐未遂の罪で逮捕する」


 その言葉に、最初に反応できたのはバスだった。


「は、はあ!? 何言っているんだお前!」


 いつの間にやらいた警備隊隊長が甲高い声で叫ぶ。


「これバス! トッキャ大臣に対して失礼であるぞ!」

「そっちが失礼だろ! 適当なこと言ってんじゃねえよ!」


 トッキャ大臣はギロリとバスを睨む。


「黙れ。ピジン・コルンバは、王家への妬みから、リルイア・ヘロデ・トバラワカを誘拐した罪に問われている」


 わたくしは息をのんだ。


「わたくしを、誘拐……!」


 トッキャ大臣は嫌らしく微笑む。


「ええ、その通りです。我ら警備隊は改めて調査を行い、リルイア様の誘拐犯があの男だと判明いたしました」

「……そんな、」

「ショックでしょうが、事実でございます」


 事実なわけない。


 そもそも誘拐なんてものはでっち上げだ。事実でない出来事をどう調査したというのか。


 わたくしは、トッキャ大臣の企みに気が付いた。


 ピジン副隊長を偽りの罪で逮捕し、違法なやり方で処刑するか、牢獄の中で病気とみせかけて殺すつもりなのだ。


 王族の人間になってしまえば、逮捕も容易ではないが、まだ婚約の儀式が終わっていない今なら、やりたい放題できる。


 トッキャ大臣たちは、そこまでしてピジン副隊長を亡き者にしたかったのだ。


「ち、違います! ピジン副隊長は、誘拐犯ではありません! むしろ、わたくしは彼に助けていただいたのです!」

「トリックですよ、リルイア様」


 トッキャ大臣は、哀れみを込めた目をする。


「リルイア様を油断させるために、わざわざそんな手を使ったのですよ」


 訳の分からない理論に呆然としている内に、トッキャ大臣はニヤリと笑う。


「さあ、ピジン・コルンバ。取り調べを受けてもらおうか」


 警備隊の人間は手錠と警棒を手にかけてきた。


 捕まってしまっては、ピジン副隊長は何をされてしまうか分かったものじゃない。わたくしは咄嗟にピジン副隊長の手をとった。


「ピジン副隊長! こちらへ!」


 わたくしは強引に手を引き、走り出した。


 教会の中を走り回っていては、絶対に捕まってしまう。わたくしは裏口を通り、外へと飛び出した。


 教会の外には、ピジン副隊長目当てに集まった市民たちが集まっている。みな、この状況をよく分かっていないらしく、ざわめいていた。


 そんな状況で、大人気なピジン副隊長と、ウエディングドレスを引きずって走るわたくしを見て、彼らはひどく驚いていた。


「すみません、どいてください!」


 後ろから、警備隊の人間が迫ってきた。


「待て!! そいつを捕まえろ!」


 絶対に捕まってたまるものか。


 わたくしは意を決して、霧に包まれたポポ山を降りて行った。

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