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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
5章 嫌われていても
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2話 もう一つの、選択

 しばらく、記憶がない。


 ふと気が付くと、風呂も終え、自室のベッドにいた。


「……」


 わたくしは自分自身の身体を抱きしめる。


 あの目が、


 ピジン副隊長の冷たい目が、忘れられなかった。


「……」


 わたくしは、間違ってはいない。


 ピジン副隊長を救うためには、婚約をしないといけない。


「……」


 本当に。


 本当に、間違っていないのだろうか。


 わたくしの前に、例の魔法使いが現れたのは、自身に猜疑心を抱いていた、そんなときだった。


「お悩みのようですね、お嬢様」


 わたくしはパチパチと瞬きをする。


 夢ではない。


 続けて扉を見ようとすると、魔法使いは含み笑いをする。


「歩いてきやしませんよ。テレポートでこちらに参りました」


 わたくしは大声を出す。


 いや、正確には出そうとした。


 しかし、声が出なかった。


「っ……!」

「あらあら、そう怒らないで」


 魔法使いはウインクする。


「あなたにとって、いい話よ」

「……っ!!」


 何がいい話だ。


 わたくしがハトになったのも、心身ともに苦痛を抱いているのも、この女のせいだ。


 絶対にこの女を警備の人に突き出す。ありとあらゆる権力を用い、この女を極刑に処す。

 

 声がだせないのなら、行動するまでだ。


 立ち上がろうとするが、動けない。指一本も動かせないではないか。


「だから、怒らないでっていっているでしょう」


 魔法使いは呆れている。


「私はあなたと話がしたいだけです」


 声も封印し、動きも封印し、それでいて話したいだなんて、何を言っているのか。


「大丈夫。あなたの利益になる話ですよ」


 魔法使いは、哀れみを帯びた目でわたくしを見る。


「あなたは、私の呪いを解いた。愛を理解できたのです。だから、あなたは人に戻りました」


 この女は何を言っているのだろうか。


 わたくしに愛なんて理解できるわけない。女性の知人たちも、義理の両親でさえも、わたくしは愛されていなかったのだから。


 怒りを込めて睨むが、魔法使いは動じない。


「あなたは人に戻って、悩んでいるようですね。そこで、私からの提案です。もしもあなたが望むのなら、あなたをハトに戻してあげましょう」


 ……ハト、に?


 わたくしは目を大きく見開く。


 魔法使いは、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。


「ただし、条件が二つあります。一つ。二か月たつまでにハトに戻りたいと願わなければ、一生ハトにはなれない。もう一つ。一度ハトに戻れば、もう二度と人には戻れない」


 魔法使いは、蠱惑的に微笑む。


「それでも、あなたはハトに戻りたいですか?」


 魔法使いというのは、ひどく勝手な生き物だ。


 挑戦的な台詞だけを残して、魔法使いは影も形もいなくなった。


 金縛りが解けたわたくしは、警備の者を呼ぼうとして、すぐに諦める。


 どうせ、あの女はテレポートなんて訳の分からない術を使って、どこか遠くへ逃げている。今更、捕まえられまい。


 わたくしは魔法使いの言葉を頭の中で反響する。


「……二か月たつまでに願えば、ハトに戻れる……」

 

 今から二か月後だと、ちょうどピジン副隊長との結婚式を開く日だ。


「……」


 鳩になってしまうと、ピジン副隊長を救うことはできない。


 けれど、人のままだと、わたくしはピジン副隊長に嫌われ続けることになる。


 普通に考えたら、人のままで生きていくべきだろう。

 

 だけど、

 

 ……だけど……。


 その日、わたくしは迷いで頭がいっぱいで、眠ることができなかった。


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