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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
5章 嫌われていても
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1話 あの人の目

 義母は順調に縁談が進んでいると言っていたが、義母の言葉から察するに、ピジン副隊長は乗り気ではないらしい。


 けれど、家の力は恐ろしいもので、ピジン副隊長と顔を会わせずして、トントン拍子に話が進んでいった。


 さすがのピジン副隊長も焦ったのか、ある日、アポもなく屋敷を訪問してきた。


 わたくしを含め、義父と義母も屋敷にいたため、両親ともどもピジン副隊長と相対した。


 最高級の紅茶や菓子を用意したが、ピジン副隊長は口をつけず、きっぱりという。


「お嬢様との婚礼は、お断りさせていただきます」


 義母は悲しそうな表情を作る。


「ピジン・コルンバ様は、うちの子を好ましく思っていないのですか」

「いえ。違います」


 ピジン副隊長は言葉を続ける。


「ですが、お断りします」


 彼の決意は固い。ああなった彼は、梃子でも動かない。


 厳しい状況であるにもかかわらず、わたくしはピジン副隊長に嫌われていないという事実に、嬉しくなってしまう。


 ひそかな喜びを覆い隠し、わたくしは冷たい表情で伝家の宝刀を持ち出す。


「あなたは警備隊の副隊長と聞いております。それなのに、あなた方が警備すべき相手たる王族の人間の願いを、聞き入れないと?」


 ピジン副隊長は苦々しげに顔をゆがめる。 


「……私は、王家を守る職務も担っていますが、トッハ国トハエイの民たちを守る職務も担っております」


 同席していた義父が鋭く切り込む。


「だが、何よりも優先されるべきは、王家の守護だろう?」

「……」


 ピジン副隊長は、固まった。


 彼は職務として王家の護衛もこなしているだろうが、何よりも、民の安全安心を守ることを生きがいとしている。


 そんな彼に投げかける言葉としては、さっきの義父の台詞は最悪なものだった。

 

 しかし、義父はさらに意地悪な問いかけを投げかけた。


「最近のあなたは、逃げたペットのハトを探しているらしいが、それは本来の仕事ではない。そうだろう?」


 ぴくりと、ピジン副隊長の眉が上がった。


 わたくしもここ数日で知らされたが、ピジン副隊長はわたくしのことを、ハートフルレンジャーを探し回ってくれている。


 素直に、嬉しい。


 彼は、まだハトのわたくしを思ってくれているのだ。


 けれど、ピジン副隊長を助けるためには、昔のハトのわたくしを探すよりも、今のわたくしとの婚約を結ばなくてはならない。


 ……たとえ、本人が嫌がっていたとしても。


 ちくり、と胸が痛んだ。


 わたくしは痛みを無視して、堂々と言う。


「ピジン・コルンバ副隊長。わたくしは、あなたとの婚約を望んでおります。王家の血を引くわたくしの意志に従うのが、あなたの使命です。お分かりですか?」


 言い放った正論に、ピジン副隊長は、残酷な返答をする。


「ですが、私はあなたのことを愛していません」

「……っ!」

「愛していない人と、付き合うことはできません」


 義母は小ばかにするように鼻で笑う。


 貴族社会の常識では、愛し合う人同士での結婚はおとぎ話の中だけだ。


 結婚とは、お互いの家柄・地位に適した相手とするもの。見合った相手と子供を作り、家名を継いでもらう。ただそれだけだ。


 きっと、義母も義父も、「庶民の考えだ」と思い、ピジン副隊長を軽んじている。


 ……わたくしは、違う。


「……」


 分かっていた。


 彼が愛していたのは、ハトのわたくし。


 リルイア・ヘロデ・トバラワカのわたくしではないのだから。


 分かっていたのに、わたくしの心は、納得できなかった。


「なら、あなたはハトを愛していると? ふふっ、あんな穢れた動物を好きになるなんて、おかしいことですわね」


 言ってしまった。


 言ってはならないと分かっていたのに、理性が心をうまく抑えられなかった。


 わたくしの本音を聞いて、ピジン副隊長は、


「……」


 冷たい、憎悪に満ちた目で、わたくしを見た。

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