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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
4章 人に戻った、わたくし
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4話 あの人を守るための、わたくしの策略

 ピジン副隊長からひょんな贈り物をもらってから、一週間があった。


 贈り物のおかげか、わたくしは多少立ち直った。甘いものならどうにか食べられるようになり、一時期よりは寝れるようになった。


 おかげで、トッキャ大臣からの食事のお誘いを断らずにすんだ。


「いやー、来てくれてありがとう」


 トッキャ大臣は肥えたお腹をさすり、豪快に笑う。


「心配していたんだよ。さあさあ、沢山食べて」

「ありがとうございます」


 わたくしは礼儀正しくステーキを口にする。


 砂のような味がする。


 吐き出しそうな衝動を抑え、にっこりと笑顔を作る。


 トッキャ大臣のつまらない話に相槌を打ち、内心で早く終わってほしいと願う。


 前はトッキャ大臣の関心を買おうと企んでいたが、ピジン副隊長の暗殺を計画していたと知った今では、あまりお近づきになりたくない。


 適当に相槌を打って、適当にお話をして、適当なところで切り上げる。


「本日はお招きいただき、誠にありがとうございました」


 丁寧に頭を下げ、わたくしは席を立つ。


 帰ることばかり考えていたせいか、わたくしはうっかり鞄を忘れてしまった。帰る途中で気づき、わたくしはトッキャ大臣の家に引き返す。


 詫びる台詞を頭の中で繰り返しながら、トッキャ大臣の屋敷で使用人に一声かける。


「少々お待ちください。すぐに探します」

「申し訳ありません。お願いしますわ」


 使用人はぱちりと目を瞬かせる。


「……承知しました」


 さすがのトッキャ大臣の使用人といえども、その表情からは、動揺が見え隠れしていた。


 わたくしは思わず苦笑する。


 わたくしは自らの家の使用人にも、よその使用人にも、「申し訳ありません」なんて謝罪の言葉を投げかけたことはない。


 わたくしも、ハトになって随分変わったものだ。


 その変化がいいものかどうなのか、自分自身ではよく分からないが。


 わたくしは使用人に連れられ、来客用の部屋に通される。


 礼儀的に紅茶を一口二口飲み、窓の外を眺める。


 外には、トッキャ大臣がいた。


 軽く挨拶でもした方がよいかと腰を浮かすが、もう一人の人影を見て、わたくしは固まった。


 あのひょろっとした身体に、大きなメガネをかけた男は、トッキャ大臣の腰巾着、警備隊隊長ではないか。


 二人は険しい表情で話し合っている。


 嫌な予感がした。


 扉を開け、廊下を確認する。鞄は妙なところに入り込んでいるのか、使用人はまだ来ていない。


 わたくしは忍び足で部屋から出る。


 トッキャ大臣のお屋敷には、よく招かれている。家の構造は何となく頭に入っていた。断片的な記憶を頼りに、わたくしはトッキャ大臣がいる場所に忍び寄る。


 二人の死角となる物陰に潜む。


 トッキャ大臣たちは、わたくしのことに気づかず、話を続ける。


「ピジンの暗殺計画は進んでいるか?」


 わたくしは息をのむ。まだ彼らはピジン副隊長を暗殺しようと企んでいるらしい。


「ええ。陛下を利用する策は潰されてしまいましたが、まだ手はあります。荒っぽいですが、無法者を装った暗殺者を雇いましょう」

「金ならいくらでも出そう」

「ありがたいです」


 トッキャ大臣はニヤリと笑う。


「あの男なら、暗殺者であろうと声をかけるだろうな」

「お人好し気取りですからね」


 二人は満足そうに頷きあう。


 あの二人に同意なんてしたくないが、ピジン副隊長がお人好だという事実は正しい。彼は、自らの命を奪う暗殺者であっても、気を使ってしまうだろう。


 わたくしに優しくしてくれたように。


「……」


 わたくしはその場から去る。


 二人は自分たちの話に熱中してくれているおかげで、バレずにすんだ。


 部屋に戻って少しすると、使用人が鞄を持ってきた。ソファの下に落ちていて、見つからなかったらしい。


 馬車に揺られる道すがら、わたくしは一人考える。


 わたくしが陛下に進言したことで、トッキャ大臣らが抱いていたピジン副隊長への憎悪は有耶無耶になったと考えていた。


 しかし、彼らは諦めていなかった。


 ピジン副隊長をどうしても消してしまいたいのだ。


「……」


 どうすれば。


 どうすれば、ピジン副隊長を救えるのか。


 陛下の力を使っても駄目だとすると、もう他に手は……。


 悩みながら帰宅すると、義理の母がわたくしを待ち構えていた。


「ピジン・コルンバ副隊長からご連絡がありましたよ。あなたを思って、カウンセラーを紹介してくださるんですって!」

「あら、カウンセラーですか」


 わたくしなんぞを気にする前に、まず自身の安全を守ってほしい。こちらの複雑な気持ちを知ろうともせず、義母は満面の笑みを浮かべる。


「素敵な人よね。市民からの評判もいいし、あなたの命の恩人でもある! 家柄こそ貴族の家系ではありませんが、おかげで世間からの評判も良いのかもしれませんね」


 義母はなぜかご機嫌だ。


 その理由は、思ったよりも早く判明した。


「そうだわ。ピジン副隊長とお見合いをしてみたらどうかしら?」


 義母は、傷がついた使えぬ娘を、どこかの誰かに押し付けたいのだ。庶民出身なら、多少の傷物でも寛容だという判断に違いない。


 ……わたくしは、考えた。


 ピジン副隊長を殺めようとするトッキャ大臣と警備隊隊長を、いかにして諦めさせるか。


 方法はないと思っていた。


 けれど。


 王族の血筋に入ってしまえば、トッキャ大臣と言えども、手出しはできないかもしれない。


 火に油を注ぐ結果になるおそれもある。嫉妬に狂ったトッキャ大臣が、なりふり構わず、ピジン副隊長を抹殺する可能性もある。


 しかし、血はつながっていないとしても、王族の立場であれば、ある程度の警備はできる。それに、わたくしも妻として、彼を監視することができる。


 ……トッキャ大臣たちの思惑を回避できる可能性がある。


 わたくしは、決意した。


「そうですね。分かりました。縁談を進めてくれませんか」

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