3話 いなくなった、あの子
ピジン・コルンバは、今日も街を歩き回っていた。
建物の隙間、公園のベンチ、農地や山間部まで、入念に調べる。
けれど、あの子、ハートフルレンジャーはどこにもいない。
「まだ見つかっていないのか」
公園のベンチでハト一羽一羽チェックしていると、ピジンの友人、バスが隣に座り、気遣ってくれる。
「……ああ。見つからない」
「そうか……。俺のところにも来ていないぞ」
ピジンは肩を落とす。
あの日、ピジンは急な呼び出しを受け、警備隊本部に出勤した。
仕事中は目の前の職務に集中していたが、事務的な作業を残すだけになると、ピジンの頭の中はハートフルレンジャーのことで頭がいっぱいになった。
ピジンは、昔から動物が大好きだった。道端で見かける猫や犬、馬だけでなく、カラスまでも彼は愛していた。
けれど、移民として貧しい暮らしをしていた彼は、動物と共に暮らすことができなかった。
出世していくにつれ、動物を守れるお金は手に入れたが、今度は時間的な余裕がなくなった。
いつか動物と一緒に過ごしたい。
ぼんやり考えていたとき、ハートフルレンジャーと出会った。
寮の近くで、気を失っているハトを見つけたとき、ピジンは「猫かカラスにやられたか」と半ば諦めていた。
しかし、ハトは生きていた。気づいたピジンは、慌てて看病をした。
目を覚ましたハートフルレンジャーは、最初こそ怯えていたが、段々とピジンを信頼してくれるようになり、ちょっとした仕事までやってくれるようになった。
ピジンにとって、ハートフルレンジャーは家族にようで、恋人のように思っていた。
ところがある日、ハートフルレンジャーは姿を消した。
あれは確か、ハートフルレンジャーがバスに手紙を配達してくれたときのこと。
珍しく興奮する彼女に戸惑いながらも、絶対に外せない仕事があったため、仕事に出ていた。
きっと、彼女は疲れて怒っているのだと思って、彼女の大好きなドライフルーツをたんまり買って帰宅した。
……部屋に帰った彼を待っていたのは、空っぽの鳥かごと、半分空いていた窓だった。
あの日から、彼はあの鳩を探し回っている。
窓の鍵も、鳥かごもしっかりと閉めたはず、なんて言い訳を彼は口にしなかった。
仕事中は勤務に差し障りない範囲で、休日は一日中、鳩を探した。
けれど、見つからない。
彼の頭によぎるのは、猫やカラスに襲われてしまった、ハートフルレンジャーの姿だった。
「……ほれ、ピジン。これやる」
落ち込んだ彼を励まそうと、バスがそっと紙袋をくれる。
「お前、好きだったろ?」
ピジンは思わず笑った。
「お菓子が戻ってきたな」
バスがくれた紙袋は、さっき自分が手放したお菓子屋の袋だった。
事情の知らないバスに、ピジンは軽く説明する。
「さっき、リルイア・ヘロデ・トバラワカ様がいたんだ」
「ああ、誘拐されかけたけど、お前のおかげで助かったんだっけ。お褒めの言葉でも頂いたのか」
「いや、違う」
「だろうなあ。リルイア様って、王家の血筋だけど、悪い評判しか聞かないからな」
「けど、カヌレをあげた」
「なんで!? え、お前、ああいうタイプが好みだったの?!」
「いや、なんとなく」
ピジンは、リルイア・ヘロデ・トバラワカを思い出す。
彼女との初対面は、付き合いで嫌々ながら彼女のお茶会に出席したときだった。
初対面の印象は、最悪だった。
何に対しても鼻にかけ、立派な腕を持つ庭師に敬意を持たない。さらに動物を嫌悪し、過度に痛めつける。
ピジンが一番嫌いなタイプの人間だった。
けれど、お菓子屋さんの前で見かけた彼女は、ピジンが嫌っていたリルイア・ヘロデ・トバラワカではなかった。
彼女は、まるで抜け殻のようだった。
従者こそついていたが、淡々と歩くその様は、孤独の二文字を表していた。
捨てられた子犬のような彼女に、ピジンはいつもの癖で声をかけ、いつもの癖で手元にあるお菓子をあげていた。
口ではあれこれ言っていたが、リルイアは顔を綻ばせて、嬉しそうにしていた。
笑みを浮かべる彼女は、年相応の女の子のように思えた。
だからこそ、彼はリルイアが苦しそうにしていた姿が気になった。
その傷の原因は分からないが、誘拐されかかった被害者ゆえの悩みかもしれない。ならば、誰かしらカウンセリングの先生を彼女の両親に紹介した方がよいか。
ぼんやりと考えながら、ピジンはハトを目で追った。




