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悪徳令嬢、ドバトになる  作者: カメメ
4章 人に戻った、わたくし
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1話 人に戻った、わたくし

 

 ハトになって、ピジン副隊長の部屋で迎えた初めての朝。


 わたくしは、自らの姿を見て、「ああ、夢ではなかった」と絶望していた。


 けれど、今は、その逆。


 ふかふかのベッドから上体を起こし、鏡を見る。


 すべすべとした白い肌、宝石のような赤い瞳、深みのあるワイン色の長い髪。


 その姿は、どこからどうみても、人間の女性であった。


 あの日、なぜかわたくしはハトから人間へと戻っていた。


 朝にはハトになると思っていたが、憶測は外れ、太陽が大地を照らし、鳥たちが元気にさえずっても、わたくしは人間のままであった。


 ハトになったあの時と同じように、なぜ人に戻ったのか、全く理解ができなかった。だが、戻ってしまったものは仕方ない。


 わたくしは木のかげから隠れ、自らの屋敷に帰らざるを得なかった。


 一か月以上も行方をくらませていたので、屋敷の者たちは驚き慌てた。義理の両親なんて、死人でも見るような目でわたくしをみていたほどだ。


 わたくしは「誘拐されかかったが、どうにか逃げ出した」「しかし迷子になり、帰る道も分からなかった」と話した。


 追及を避けるため、わたくしはこうも付け足した。


「ある宿屋にいって、わたくしの名前と、懇意にしていたトッキャ大臣の名を出したら、よくしてくれた。きっと、トッキャ大臣の商売でよくしてもらった人なのでしょう」


 トッキャ大臣は手広く仕事をしている。あまりに手広く仕事をしているため、どこの誰かまでは特定できまい。


 わたくしの嘘は誰にもバレなかった。


 トッキャ大臣からは「さすがはリルイア様。たまたま吾輩の取引先の宿屋を訪れるとは。幸運の女神がついておられますな」と嬉しそうにしていた。


 わたくしを取り巻く人たちが落ち着いたある日、わたくしは陛下に謁見を申し入れた。


 世間を騒がせてしまったことを謝罪した後、わたくしはこう切り出した。


「実は、わたくしが誘拐犯に連れてかれている道中で、ピジン・コルンバ副隊長が聞き込みをしていました。そのおかげで誘拐犯たちは動揺し、その隙をついて、わたくしは逃げ出すことができました。国王陛下、ピジン・コルンバ副隊長に、褒美をお与えください」


 一から十まで出まかせだ。


 しかし、わたくしに抜かりはない。


 わたくしはピジン副隊長の部屋にいて、彼の仕事ぶりを本人の独り言やバスさんとの会話から聞いていた。


 警備隊の誰もがわたくしの死を確信していたが、ピジン副隊長は丁寧に仕事を遂行し、わたくしを探してくれていた。


 そのどこかで、わたくしは逃げだせたということにした。


 これなら、わたくしの嘘だとバレやしない。


 さらに、わたくしが「ピジン副隊長がこのような素晴らしい仕事をできたのは、ひとえに、彼の上司たる警備隊隊長と、警備隊を管轄する大臣、トッキャ様のおかげでございます」と口添えした。


 おかげで、国王陛下は隊長とトッキャ大臣を呼び出し、お褒めの言葉を与えられた。


 立場上、二人は陛下のお言葉をありがたくいただき、ピジン副隊長を評価せざるをえなくなった。


 これで、彼らもピジン副隊長を「謀反の兆候あり」と訴えづらくなったに違いない。


 ピジン副隊長の暗殺計画は、無に帰すことができたのだ。


 わたくしにできることは、すべて終えた。


 ……そう、全て終わった。


 わたくしは普段着に着替えて、リビングに向かう。先に義理の両親がリビングにいたようだ。わたくしがまだ起きていないと思ったのか、彼らはひそひそと話す。


「まさか、リルイアが生きていたとは思わなかったわ」


 渋い声で言ったのは、義母だった。


「ああ。いっそのこと、死んだことにして、王家から見舞い金を頂きたかったな」


 義父は憤慨した様子で言う。


「ええ、本当に! あの子は否定しているけど、誘拐犯があの子に手を出さなかった証拠はないわ。まともな殿方は、穢れた女性を相手にしないわ」


 わたくしはわざとらしく足音をたてると、義両親は口を閉ざす。


 わたくしは笑顔で「おはようございます」と挨拶をすると、二人も笑顔で挨拶を返した。


 食事は、美味しかったと思う。


 味は、しなかったが。

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