1話 それはそれは美しいわたくし
わたくしは、それはそれは美しい女性であった。
元がいいのは当然、美しくなる努力も惜しまなかった。
宝石のような赤い瞳を強調させるため、立体感を意識した化粧をしている。ワインのような赤紫色の髪の毛は、高級なオイルを丹念に練りこんでいる。
真っ白な肌を傷つけないよう、日焼け止めは丁寧に、保湿は完璧にしている。
みなは私の努力を称え、私を愛している。
しかし、今のわたくしは、いつものわたくしと一変していた。
豆のような小さな赤い瞳。
汚い灰色の翼。
首元には赤や緑の色が入っているが、チープな模様としか思えない。
「な、なんですの、この格好は……!」
いつものわたくしが、花畑で光に照らされた、宝石のバラと称するのなら、今のわたくしはゴミ溜めの中のバナナの皮。
いや、それ以下かもしれない。
なぜなら、わたくしの姿は。
「どうして、わたくしはドバトになっているのよ!!!!」
ドバトになっていたのだ。
○○○
わたくしの名は、リルイア・ヘロデ・トバラワカ。王族しか名乗れないミドルネーム、「ヘロデ」を持つ。
王になる可能性は極めてゼロに近いものの、悲しいとは思わない。
むしろ、こんなに美しいわたくしが王様になってしまったら、男性たちがわたくしをめぐって争ってしまう。
無用な争いを起こさないために、わたくしは王になってはいけない。わたくしの役目は、美貌を維持すること。実績も家系も確かな男性を魅了し、爵位持ちの方と縁戚関係にある女性に尊敬されることだ。
皆から愛される女性でいるためには、例え些細なことでも、努力を惜しまない。
舞踏会での話の種を探すため、わたくしは自室の安楽椅子に座って、上位の女性が好む雑誌をめくる。
今の流行を頭に入れていると、あるページが目をつき、手を止める。
「あら、美味しそうなカヌレね」
トッハ国初出展のお店らしい。
女性たちは、他国で有名なお店に目がない。
次のお茶会では、必ず、このカヌレの話になる。
その席で「食べてない」「知らなかった」といえば、流行に疎い女と蔑まれてしまう。
わたくしはパンパン、と手を叩く。
瞬時に、使用人が飛んでくる。
「い、いかがなさいましたか、お嬢様」
使用人に雑誌を渡す。
「このお店のカヌレを買ってきなさい」
使用人たるもの、主人の命令には絶対、すぐにでも飛んでいくべきであるのに、そいつは動かなかった。
「どうしたの?さっさと行きなさい」
「で、ですが、こちらのお店は本日定休日でございます」
わたくしはため息をつく。
きっと、彼は新人に違いない。あとでメイド長をきつく叱りつけねば。
「それがどうしたの?定休日なら、店長に金を握らせて、作らせるのよ。」
「ですが、」
二度もわたくしの命令を否定した。
こんな無礼、久々に味わった。
わたくしが睨み付けると、彼は怯えた子羊のように震える。
頭の悪い使用人に、わたくしは最後の指導をしてあげる。
「命令よ。いきなさい」
「は、はい!!」
ようやく出ていった。
わたしはすぐさまメイド長を呼び、彼の解雇と責任者たるメイド長への減給を命じる。
罰は素早く、厳しく与えなくては、王家の血が流れる者として示しがつかない。
半泣きのメイド長と入れ換えに、義理の両親が入室する。
お義母様は、わたくしに慈愛の眼差しを向ける。
「リルリア様。本日も美しゅうございます」
お義父様も、満面の笑みで頷く。
「今日の庭園散策は、あのトッキャ・ネイクス・クロウ大臣たちも参加なられるのだろう?いやはや、リルイア様はこの私よりも顔がお広い」
「ええ、仲良くさせてもらって、ありがたいですわ」
トッキャ大臣は、王家の値こそ引いていないが、母方は代々大臣職を担う家系、父方は国で五本の指に入る有名商会のトップだ。
家系も素晴らしく、実績もある。人を見る目もあり、わたくしに好意を寄せている。
小太りで顔も整っていないが、仲良くしておく分には差し支えない。
「では、皆様を迎える用意をしてきますわ」
お義父様は、すぐに使用人を呼び、わたくしの身支度を手伝うように指示をだす。
お義母様も、宝石を持ってきて、「これが似合いますわ」「こちらもぴったりですわ」と勧めてくる。
物語のなかでは、義理の両親は意地悪な例が多い。
しかし、わたくしの場合は違う。
義理の両親には、男の子には恵まれたものの、娘は一人もいない。
そこで、わたくしを養子にとってくださった。
王家の血を引くわたくしを、義理の両親は愛を込めて育ててくれた。
むしろ、わたくしにあれこれ文句を言うのは、実の両親の方だ。態度が偉そうだ、服装が派手すぎるとぶつぶつ説教をする。
だから、わたくしは実の両親より、義理の両親のことを好いていた。
わたくしは微笑み、この家で一番高価なネックレスをつける。
爛々と輝くダイヤモンドは、わたくしの美しさをさらに引き立てていた。