タケゾー「ようやく退院できた」
タケゾーの毒も問題なく完治して退院へ。
「先生、お世話になりました」
「無事に退院できるようになってよかったわ。彼女さんにもよろしくね」
おふくろや隼のせいで騒がしい入院生活となったが、そこまで長期入院を必要とすることなく俺は退院の日を迎えられた。
主治医の女医さんとも病院前で挨拶を交わし、荷物を持って家路へと向かう。
「先生も言ってたけど、武蔵が受けた毒の正体は分からずじまいよね~」
「その件は隼も――空色の魔女も関わってくる話だからな。こっちも迂闊に余計なことは言えないし、言ったところで信じてもらえないさ」
俺は退院に付き添ってくれたおふくろと、今回の俺の入院の件について話もしてみた。
医者の方でも俺が受けていた毒は結局解明できず、かといって俺の方から説明できることもない。
一説には蛇などの爬虫類が持つ類の毒らしいが、俺も詳しいことはよく覚えていない。
俺に毒を打ち込んだのは間違いなく大凍亜連合の牙島なのだが、そもそもどうやって毒を打ち込まれたのかも曖昧だ。
確か牙島の左手が俺の腹に打ち込まれた時には、もう体に毒が回り始めていて――
「あー! タケゾーせんせーだー!」
「お? 奇遇だな。今日は保育園も休みだったか」
――そうやって毒のことを考えながら歩いていると、前方から俺が勤める保育園の園児が手を振って来た。
この子の家は近くだったし、保育園が休みなところで偶然出くわした感じか。
なんだかんだで保育園を抜けることが多かったが、こうやって俺のような新人保育士を覚えていてくれると素直に嬉しい。
毒のことで悩んでいた分、こういった触れ合いはいい薬になる。
――隼の言ってた通り、俺も一応は先生としてやれているようだ。
「タケゾーせんせー、ビョーキなおったのー!?」
「ああ。心配かけて悪かったな。明日からまた、先生と一緒に色々学んだり遊んだりしような」
「うんー!」
近寄って来た園児に対し、俺も腰を落として頭を撫でながら言葉をかける。
俺は隼のようなヒーローにはなれないが、それでもこの園児達の面倒を見る責任がある。
隼が自身の両親から託され、空色の魔女として背負う使命に比べればちっぽけだが、俺にとっては一つの誇りだ。
元々は幼い頃に見た隼の背中を追ってのことだったが、今は俺もこの仕事に満足してる。
こうやって園児が俺を慕ってくれていると、こっちも元気をもらえる。
「おい、そこののんびりした姉ちゃん! そんな子供に甘ぇ優男じゃなくて、俺と遊ぼうぜぇ!」
「あ、あれ~? もしかして、私にナンパ~?」
俺が少し園児と戯れていると、後ろの方から男の大声が聞こえてきた。
思わず振り返ると、そこにはガタイのいい大男にナンパされるおふくろの姿。
――それを見て最初に思ったことが『その人、俺の母親でお姉さんって歳じゃないですよ』という少々おふくろに失礼なもの。
確かにおふくろは見た目は若く、とても一児の母には見えない。むしろ、そのほんわかした空気のせいで幼くさえ見えてしまう。
ナンパ男の目の付け所がいいのか悪いのか。
――いや、そうじゃない。
「おい! おふくろに余計な手を出すな!」
「え? おふくろだって? は、母親だったのか……。いや! 見た目が良ければ、なんでも構わねえなぁ!」
思わず変な方向に思考が飛んでしまったが、おふくろが変な輩に絡まれているのに放っておくことなどできない。
どうにかおふくろから気を逸らせようと親子関係を明確にするが、そんなことは関係ないとばかりにナンパ男はおふくろの体を強引に抱き寄せてくる。
ナンパした相手の息子の前で、よくそんな大それた行動に出れるなと感心してしまう。
「武蔵~、見て見て~。お母さん、ナンパされちゃった~。キャ~」
「なんでおふくろは少し嬉しそうなんだよ……」
そして肝心のおふくろなのだが、こんな状況でもどこか呑気だ。
自分が若く見られて嬉しかったのか、どこかナンパされていることを楽しんでさえいる。
そうは言っても、おふくろはかなり強引に体を引き寄せられてもいる。普通に考えて警察案件だ。
「タケゾーせんせー! せんせーのママがたいへんだー!」
「いや、まあ、大変なのは事実なんだけど、どうしたものか……」
「ソライロのマジョさんにおねがいしよー! マジョさんなら、せんせーのママをたすけてくれるよー!」
俺と一緒にいた園児も一応の危機感を感じ取り、俺のズボンを掴みながら慌てている。
そして口にして願うのは正義のヒーロー、空色の魔女の登場。
確かに空色の魔女がいれば、いくらガタイのいいナンパ男だろうが一網打尽だろう。
かと言って、あいつもそう簡単に姿を見せられるはずが――
「誰かがアタシを呼ぶ声がする! 不届きなるナンパ男に制裁を加えろと、内なる魂が轟き叫ぶ!」
――などと考えている時に限って、本当に当人の声が聞こえてくるから逆に困る。
俺も声がした上空を見てみるが、そこには確かに当人の影が見える。
しかも上空から急降下し、ナンパ男の眼前目がけて落ちて来て――
スタァアン!
――片膝を地面に着け、もう片膝は伸ばす姿勢で着地。
見た目的にはカッコイイ。だけど、あの着地は膝に悪そうだ。
「麗しき未亡人に手を出すマニアックナンパめ! この正義のヒーロー、空色の魔女が成敗してやんよ!」
「え? この人って、子供がいるだけじゃなくて未亡人なの? だったらさ、別に本人の合意があればナンパしても不倫とかじゃないし、いいんじゃないか?」
「うぐぅ!? い、言われてみれば……!?」
そうして本人なりにはカッコよく登場したつもりらしいが、開幕早々ナンパ男のちょっとした疑問により、何故か狼狽えてしまう。
そんな簡単に言い負けていいのか? 隼の奴、正義感は強いんだけど、妙なところで抜けてるとでも言うべきか。
――よく分からないが、俺も口を挟んだ方が良さそうだ。
「なあ、おふくろ。おふくろはこのナンパに対し、全面合意なのか?」
「お断りね~。私は今でもお父さん一筋よね~」
「……だってさ。ナンパ男に空色の魔女さん」
無駄に悩む空色の魔女に助け舟とばかりに、俺は被害に遭っているおふくろ本人の意見を聞いてみた。
分かってたけど、おふくろはこういう人だ。これが分かれば、隼も心置きなくナンパ男に挑めるだろう。
「やっぱり無理矢理じゃないか! こいつはアタシも見逃せないね!」
「ま、待ってくれ! ほら! この未亡人さんはもう解放したし、見逃してくれないかぁ!?」
「いーや! ダメだね! ここは軽く、アタシの新技でお仕置きさせてもらうよ!」
俺の言葉を聞いて隼は調子を戻し、それを見たナンパ男も観念したようにおふくろを解放する。
かといって、これで隼が止まるわけではない。一応はおふくろも乱暴に扱われたわけだし、隼も知人として許せないのだろう。
後、その言葉を聞くと新技の試し打ちもしたいようだ。
色々と言いたいことはあるが、おふくろも解放されたし、もうここからは空色の魔女の分野に任せておこう。
新技にしたって、どうせいつものように格闘術のようなもので――
「電撃魔術玉ぁぁああ!!」
ビュゴォォオオン!!
「ヤダバァァア!?」
――と思っていたら、突如隼の両手から放たれる電気ボール。
いや、何だその技は?
空色の魔女。魔女っぽい(?)技を発明する。




