タケゾー「俺が入院患者であることを考えて欲しい」
ここから幕間の新章。
タケゾー視点でお送りいたします。
後で聞いた話になるが、俺が牙島とか言うバケモノの毒で苦しんでいる時、隼はデザイアガルダと戦っていたそうだ。
そのデザイアガルダの正体も隼の叔父さんだったりと色々あった。隼にとって辛い真実も判明した。
そうした出来事が裏で起こっていた時、俺は病院で毒にうなされながらも、わずかに覚えていることがある。
「――将にも困ったものです。ですが――にもなるので、ここは――」
「うぅ……。だ、誰かいるのか……?」
俺が一人個室で横になっていると、誰かが物音も立てずに入って来た。
誰にも気づかれないようにしていたかと思えば、何か愚痴のようなことを述べる女の声。
向こうは俺のことに気付いていたのかいなかったのか、はたまたどちらでも良かったのか、俺に振り向くこともせずに繋がれていた点滴に何かを注入していた。
近くの机でも何かしていたが、俺が覚えているのはそこまで。
次に目が覚めた時、俺の体を巡っていた毒は嘘のように抜けていた。
後に隼とも話をしたが、その人物こそが俺を救ってくれた張本人ではあったのだろう。
――ただ同時に、隼が持つパンドラの箱という研究データをも狙っていた。
あの女性の目的も正体も分からない。もしかすると、俺を助けたことも含めて『隼にパンドラの箱を開けさせるためのシナリオ』だったのかもしれない。
それでも、俺はあの時の声にわずかだが聞き覚えがある。
――俺はあの女性を知っている。
■
「毒が抜けたと言っても、しばらくは入院生活か……」
そんな一幕もあったが、隼とも色々と話を終えて、いったんは落ち着いている。
パンドラの箱を狙った人物の正体は分からないままだが、今の俺にできるのは体を治すこと。そんな日々をあれから数日送っている。
ちょっとの間は入院して、万全の体調で復帰できるようにしよう。
――少し前に親父が亡くなって仕事を休んでたのに、また休む羽目になってしまったのは仕方ないとはいえ不甲斐ない。
「保育園の園児達、俺のことを忘れたりしないよな……?」
「大丈夫よ~。隼ちゃんも様子を見てくれてるけど、子供達も武蔵の帰りを楽しみにしてるみたいよ~」
そうは言っても退屈な入院生活の中で、俺も色々と考えこんでしまうものだ。
特に気になるのが、勤め先の保育園の件。一緒にいるおふくろとも話をするが、隼もよく様子を見に行ってくれている。
そうしてくれるのはありがたいし、隼の話を聞けば俺も復帰するための気力が沸いてくる。
それにしても、隼も俺のことをどうこう言えないレベルの世話焼きだ。
俺の方から惚れて告白した立場なのに、今では隼の方が色々と俺に気遣ってくれている。
――こう言ってしまうと惚気話にも聞こえるが、本当に俺には過ぎた恋人だ。
こうして俺が入院している最中にだって――
「ドーモ、赤原タケゾー様。病室のお掃除に参っちゃいました」
「なんでお前がここの清掃業務に入ってるんだよ……隼」
――何故か清掃用務員の格好で台車を押しながら、俺の入院している個室へとやって来た。
どうやら洗居さんのコネを使い、この病院の清掃業務を委託してもらったようだ。
そんなことまでできてしまう洗居さんのコネも凄いが、そこまでして俺の世話を焼こうとする隼の執念も凄いと言いうか、凄まじいというか。
――付き合ってから分かったけど、隼って想い始めたら一途なところがある。
まあ、こっちもずっと想い続けた立場だ。迷惑とも思えず、どこか嬉しさも感じている。
「いやー、アタシもちゃんとタケゾーのお見舞いとかしたいんだけど、仕事もあるからさ。そこで洗居さんになんとなく相談したら、こんな形でタケゾーの傍にいれるようになっちゃった」
「超一流の清掃用務員は伊達じゃないってか……。その提案を本当に飲んで、こうして俺の個室の掃除に来る隼も大概だけどよ」
「感謝しなよ~? 愛しい彼女様が健気にも、入院してる彼氏様の病室を掃除してやってんだからさ~」
「確かに感謝するが、お前も一応は仕事でここにいるんだろうが……」
そんなわけで、入院しているはずの俺の日常は普段とほとんど変わらない。
おふくろだって傍に付き添ってくれるし、隼も部屋を掃除しながら話を交えてくる。
――それにしても、隼の奴の清掃スキルがいつの間にかかなり上がっている気がする。
洗居さんのようにとんでもない動きで掃除するのではないが、自作の清掃道具で手際よくこなしていく。
もう最近は技術屋と言うより、清掃用務員の方が板についてきてるようにさえ見えてしまう。
「隼ちゃんはお掃除もできるのね~。結婚したら、いいお嫁さんになるよね~」
「いやいや~、アタシなんてまだまだだよ。洗居さんなんて、清掃関係の身体能力が凄まじいから、パパッと終わらせちゃうけど」
「空色の魔女さんでもびっくりするほど、あの洗居さんって人は凄いのね~……」
おふくろも隼と笑顔で軽く話をするが、どうやら隼はおふくろに自らの正体を明かしたようだ。
俺はもちろん、玉杉さんや洗居さんも隼が空色の魔女であることは知ってるし、結構身近な人間には知れ渡ってき始めている。
ただ、隼はおふくろに対してだけは『自らの意志で』正体を明かしたとのこと。
それが意味するところは、隼自身がおふくろのことを信じ、また知って欲しいと思ったといったところか。
最初は周囲への迷惑から自身の正体を明かすことをためらっていた隼だが、その心も少しほぐれてきたように見える。
パンドラの箱の件も含めて、俺にも改めて協力を要請してくれるぐらいには打ち明けるようになってくれた。
たとえどんなに強いヒーロー、空色の魔女であっても、一人でその業を背負いきることなどできない。
日々の治安維持、大凍亜連合の暗躍、パンドラの箱の存在。考慮すべき問題は山ほどある。
――それでも隼の傍にいて、少しでもその力になってやりたい。
「ところでね~。武蔵と隼ちゃんはいつ結婚するのかしら~?」
「お、おふくろぉぉおお!? いきなり何を言ってんだぁぁああ!?」
とまあ、そんな決意を俺も胸に抱いていたわけだが、そんな空気を一瞬で吹き飛ばすおふくろの爆弾発言。
俺も思わずベッドの上で飛び上がり、おふくろに物申さずにはいられない。病み上がりとか知ったことか。
「結婚かぁ……。タケゾー、いつする?」
「なんでお前もおふくろの話を真に受けてんだよぉぉお!? 隼んんん!?」
さらに追い打ちと言わんばかりに、隼までもがおふくろの話に乗ってくる。
掃除する手を止めて、俺の顔を見ながら尋ねてくる。しかも、結構本気で真に受けてる感じで。
――どうやら、ここは俺の入院する病室ではあれど、俺の味方などいない敵地のようだ。
「何よ~? 武蔵は隼ちゃんのことが嫌いなの~?」
「そ、そうだったの? 確かにアタシも無理に付き合わせてることがあるし、タケゾーの負担にはなりたくないから……」
「ちょっと待て! 急に話をどんどん進めるなと言いたいだけだ! 隼のことは好きだから!」
おふくろと隼の天然攻撃のせいで、俺も恥ずかしい言葉混じりに反論に転じてしまう。
ここは病院で俺は患者なわけなのだが、もうそんなことはお構いないといった様子。
――なんだか、胸が苦しくなってきた。別に毒が残っているとかじゃない。
どう考えてもおふくろと隼の突飛な発言攻撃のせいだが、体調が悪いのは事実だ。
こうなったら仕方がない。本来の用途とは違う気がするが、あれを使わせてもらおう。
――そう思い、俺はナースコールを押してその場を凌いだ。
体調が悪くなったのは事実だからね。仕方ないね。




