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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
怪鳥との決闘編
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その願いをアタシは引き受ける。

隼に宛てられた謎のメモ書きとその意図。

「隼宛てにメモ書きだって? なんでそんなものが?」

「アタシだって分かんないよ。でも、もしかするとタケゾーを助けてくれた人のメッセージかな?」


 病室の引き出しに挟まっていた謎のメモ書き。しかもどういうわけか、書かれているメッセージはアタシ宛て。

 アタシが持っているデータにメッセージがあるとのことだが、そもそも何のデータのことだろう?

 状況から察するにタケゾーを助けてくれた人と同一人物な気がするが、もうちょっと具体的にメッセージを残して欲しい。




「……なあ、ここに書いてるデータって、もしかして隼が持ってるUSBメモリとマイクロSDのことじゃないか?」

「あっ……!?」




 そうして何を指してのことなのか悩んでいたが、タケゾーの言葉でその何かに勘付く。

 今はアタシの手の中にある、両親が遺したUSBメモリとマイクロSD――通称、パンドラの箱と鍵。

 アタシもその二つをポケットから出し、手に取ってみる。

 この中身はまだ全部を確認できていなかったが、何かしらのメッセージがあるということだろうか?


「それ、持ち歩いてたのか」

「中身が中身だけに、肌身離さず持っておかないと怖くてね。でももしタケゾーの言う通りなら、少しだけ中を覗いてみよっか」


 このパンドラの箱を開けるのは怖いが、残されたメッセージも気になる。

 今回パソコンはないが、この二つが一緒に揃っていれば腕時計型ガジェットでも起動できる。

 USBメモリの端子はないけど、それも大凍亜連合のフロント企業に潜入した時と同じように、アタシ自身が端子代わりになれば済む話だ。


 早速ガジェットにUSBメモリとマイクロSDを接続し、アタシは再びパンドラの箱を開ける。


「研究データも気になるけど、今回はメモに書いてあったメッセージを優先して探してみるよ」

「でも、メッセージなんてどこに入ってるんだ? これだけ見ても、かなりのデータ量だぞ?」

「こういう場合、一番上の階層にそういうファイルは置いてあるものさ。……あっ、もしかしてこれかな?」


 ガジェットから映し出されたホログラムを操作し、パンドラの箱の中身を確認していく。

 すると、一つの動画ファイルがアタシの目に留まった。

 他のファイルは文書形式なのに、これだけは何故か動画形式なのが引っかかる。


 なんだかこのパンドラの箱に誘導されるように、アタシはその動画ファイルを開いてみるが――




【……これでいいな。もしもし、隼か? お前ならこの動画を見てくれると思い、こうやって記録として残させてもらう】

【隼ちゃんがこれを見た時、あの子はいくつなのかしらね?】


「えっ……!? そ、そんな……!? こ、ここ、これって……父さんと母さん……!?」




 ――ホログラムのディスプレイに映し出された人物の姿を見て、アタシは思わず言葉を失う。

 そこに姿を見せたのはアタシの両親。二年前に事故で――いや、デザイアガルダの手によって殺された二人が映し出されていた。

 しかもその様子は、まるでアタシがこの動画データを見ることを予期していたようなもの。

 二人が生前に録画されたもので、当然こちらの言葉に返事があるわけでもない。




 ――それでも、こうして二人の姿を見れたために、アタシは思わず右手で零れる涙を抑えずにいられない。




【おそらく、隼ならこの動画と一緒に入ったデータを見て『パンドラの箱』とでも名付けるのだろうな】

「父さんったら……アタシのことを本当によく分かってるよね……」

【確かにこれらの研究データは非常に危険で、パンドラの箱という表現もあながち間違いではない。ここではどうしてこんなものを娘のお前に託したのか、訳を話させて欲しい】


 ホログラムに映る父さんへ、アタシはまるで本当に会話でもするかのように声を出してしまう。

 偽りのやり取りではあるが、どうしても楽しくなってしまう。


 ――そんなアタシの感慨とは関係なく、父さんと母さんはそのままデータ通りに、アタシへのメッセージを語り始める。


【こんな研究データを見たら、流石の隼ちゃんもびっくりしちゃうよね? だけど、ここにあるデータは今後のためにも、是非とも隼ちゃんに持ってて欲しいの。……ここにある研究データは言うなれば『万が一のための対抗手段』というものよ。これらのデータの基盤となった技術は、すでに様々な場面に存在してるわ】


 母さんが語るのは、このパンドラの箱が遺された理由。

 確かにGT細胞にしても、両親が関わるより前から大凍亜連合の手元にあったように見える。

 両親はこれらのデータが悪用されるのを避け、さらには万が一のための対抗手段としてこんな回りくどい隠し方をしていたのが見えてくる。


【片方の鍵となるマイクロSDは赤原警部に託してあっただろう? もしもの時はそれを隼に託すように頼んでいたのだが、この動画を見れているならばうまく行ったということか。この場で赤原警部にも礼を言わせてくれ】

「隼の親父さん、俺の親父のことまで……」


 そしてこのデータをアタシ以外が見れないよう、鍵となるマイクロSDの方はタケゾー父に託してくれていた。

 もしもタケゾー父が生きていれば、いずれはマイクロSD(パンドラの鍵)もアタシの手元に渡っていたのだろう。

 タケゾー父がアタシの両親に関係する手帳に隠していた意図も次第に見えてきた。

 息子であるタケゾーも動画を見て、感慨深そうに声を漏らしている。


【父さんと母さんは若い頃から、様々な分野の研究分野に関与してきた。だが、それは発展と同時に大きなリスクを抱えることにもなり、その責任が常に付きまとう結果となった】

【隼ちゃんがこの動画を見てるってことは、お母さん達はもう傍にいないってことのはずよ。娘にこんなお願いはしたくないけど、隼ちゃんにはもしもの時にお母さん達が残してしまった研究データを使って、対抗策を講じて欲しいの】

【無責任な親の願いなのは分かっている。だが、これは父さん達が信じる人間――愛娘である隼にしか託せないんだ】


 動画の中で父さんと母さんは頭を下げ、娘のアタシに必死に願い出てくる。

 こうして両親がパンドラの箱を残した意味も、アタシはようやく理解できた。


 父さんも母さんも心のどこかで感じていた、自分達の研究が世界にとってどれほどまでのメリットとデメリットを伴うのかという可能性。

 きっと、二人とも自らの研究に誇り以上の不安と後悔を感じていたに違いない。感じていたからこそ、こうやって娘のアタシに託してくれた。


 ――アタシにとっては、その想いだけで十分だ。

 アタシも一人の技術者として、父さんと母さんの娘として、その責任を背負う覚悟はある。

 偉大な技術者でもある両親の願いは、アタシが必ず聞き入れる。




 ――それは空色の魔女というヒーローとしてだけでなく、アタシのことを愛して信じてくれた両親の願いだからこそだ。




【もちろん、隼に何か優先すべき幸せがあるなら、そっちを優先してくれ。父さんも母さんも、お前の幸せを一番に願ってる】

【無理はしちゃダメよ? 赤原さんの武蔵君とも仲良くして、隼ちゃんの望む道を選んでね】

【まあ、隼だったら意地でもこの願いを聞き入れてしまうかもな。あの子は本当に責任感の強い子だから】

【ウフフ、本当にね。でも、これはちょっと親馬鹿かしら?】

【ハハハ、そうかもな。……それじゃあな、隼。幸せに生きてくれ。……愛してる】


 父さんと母さんが最後に仲睦まじいやりとりをすると、動画はそのまま終了した。

 いまだに止まらない涙を右手で拭いながらも、アタシは決意を新たにすることができる。

 背負うものも増えたが、今のアタシは胸がいっぱいでどこか心を強く持てる。




 ――もしかすると、アタシが空色の魔女となったのは、この両親の願いから来た運命だったのかもしれない。




「……隼、やるんだな? お前の両親の託した願いのために、これからも空色の魔女としてさ?」

「人の心を読まないでくれるかねぇ? まあ、ご名答って奴さ。こんなメッセージがあることを教えてくれた人だって、アタシにそうして欲しくて――あれ?」


 タケゾーもアタシの気持ちを読んで微笑んでくれるが、ふとホログラムディスプレイに目線を向け直すと、OSが妙な動きをしていることに気付く。

 パンドラの箱がプログラムしたものかとも思ったが、それとは別だ。

 何か別のプログラムがバックグラウンドで動いているが――


「ッ!? マ、マズい! これってもしかして……!?」

「ど、どうしたんだ、隼!? 何か問題でもあったのか!?」


 ――その処理の正体を察し、アタシはすぐさまディスプレイの操作を始める。

 間違いない。今このOS上で行われているのは、アタシ達以外の第三者が意図して行っているものだ。




「この端末……ハッキングされてる!」

隼にメモ書きを残した人物の本当の目的は――

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