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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
怪鳥との決闘編
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もう奇跡を信じるしかない。

仇敵デザイアガルダは倒せたが、最大の目的は果たされず。

 デザイアガルダを警察に任せた後、アタシは再びタケゾーの入院する病院の屋上へと降り立った。

 本来の目的であった解毒剤は手に入らずじまい。それでも、アタシはどうしてもタケゾーの傍にいたい。


 ――今はもう奇跡を信じて、タケゾーの容態を見守るしかない。




「じゅ、隼ちゃん! 戻って来たのか!?」

「玉杉さん……?」




 アタシが屋上に降り立つと、玉杉さんが血相を変えて駆け寄って来た。

 もしかして、アタシが戻るまでずっとここで待っててくれたのかな? 玉杉さんも律儀なものだ。


 ――もっとも、今のアタシにはその期待に応える報告ができない。


「ごめん、玉杉さん。実は――」

「急いで武蔵の病室に向かってくれ! と、とにかく大変なことになってんだ!」

「えっ……?」


 空色の魔女の変身を解除し、ことの一部始終を話そうとするも、玉杉さんは言葉を被せてくる。

 この慌てようは尋常じゃない。タケゾーの身に何かあったのなんて一発で分かる。


 ――アタシの予期していた最悪の事態が、頭の中に浮かんでしまう。


「タ、タケゾー! タケゾー!!」


 玉杉さんを屋上に置き去りにして、アタシは一目散にタケゾーのいる個室へと走り出す。

 もう余計なことなんて考えられない。願うことなど一つしかない。


 ――お願いだから、タケゾーが無事であって欲しい。

 それしか頭に浮かばない。


「タケゾー!!」

「そ、空鳥さん……。実は――」

「ごめん、洗居さん! そこどいて!」


 個室に入ると、まずは洗居さんが不安そうな表情でアタシの方に尋ねてきた。

 でも、今はそんな言葉を聞く余裕すらない。洗居さんを腕で押しのけながら、アタシはタケゾーのベッドに近づく。


 ――そんなタケゾーの周りでは、タケゾー母や女医さんが静かに様子を見守っている。

 その背中はどこか神妙で、アタシの嫌な予感を加速させる。


「ねえ! タケゾーは!? タケゾーはどうなったの!?」

「隼ちゃん……」


 アタシはベッドに寄り添っていたタケゾー母も押しのけ、横たわるタケゾーの顔を覗き見る。

 無礼は承知だが、そうせずにはいられない。


 そして肝心のタケゾーの様子だが、アタシがここを出る前の苦しそうな表情から一転、静かに目を閉じている。

 それは眠っているように見えて、まるで全ての苦しみから解放されたような表情。

 アタシにも反応しないし、まさか本当にもう――




「ううぅ……。じゅ、隼か……?」

「タ、タケゾー……? タケゾー!!」




 ――悪寒が身に走り、心が絶望に塗り替えられようとした時、眼前で眠るタケゾーから声がした。

 その声はまだ弱々しいく、点滴も繋がれている。だが、毒を受けた時の苦しさはもう感じられない。

 タケゾーは確かに生きている。アタシはただそれが嬉しくて、思わず泣きながら胸元に顔をうずめてしまう。




 ――この嬉しさを例える言葉も見つからないぐらいに嬉しい。




「彼氏さんなのですが、突如として容態が安定し、峠を越えることができました。ただ、こちらでも何故こうなったのかが分からず、奇跡としか言いようがありません……」


 タケゾーの胸元で泣き崩れるアタシに対し、女医さんも説明をしてくれる。

 奇跡でも何でもいい。タケゾーが無事だという事実だけがあればいい。


 ――もう嬉しすぎて、それ以上のことを考えられない。


「隼ちゃん。しばらくの間、武蔵と二人だけでお話してるといいわよ~」

「え? で、でも、タケゾーのお母さんだって、一緒に傍にいたいよね?」

「私のことは遠慮しなくていいわよ~。ささ~、皆さんも少しの間、若い二人に任せましょうね~」


 そんなアタシの様子を見て気遣ってくれたのか、タケゾー母はアタシとタケゾーだけを個室に残し、洗居さんや女医さん達と一緒に部屋の外へと出て行った。

 息子のタケゾーとも一緒に居たかっただろうし、アタシに聞きたいことだってあったはずだ。

 それなのにこうして気遣ってもらえるなんて、アタシは本当に周囲に恵まれている。

 申し訳なさを感じつつも、ここはその厚意に甘えさせてもらおう。


「隼にも心配をかけて悪かったな。とりあえず、俺も大丈夫そうだ」

「本当にタケゾーが無事でよかったよ……。でも、解毒剤もなかったのに、どうして助かったんだろ?」


 タケゾーもまだ体は起こせないが、アタシの手を握りながら返事をしてくれる。

 それに安心感を覚えながらも、そうすると気になってくるのはタケゾーが無事だった理由だ。


 解毒剤を注入するどころか、デザイアガルダが持っていた解毒剤はとっくに破棄されていた。

 それなのに助かったというのは、医学的な観点で納得できない。


 ――もしかして、アタシの愛の力が奇跡を起こしたとか?

 いや、流石にそんなファンタジーな話はないか。自分で言ってて恥ずかしくなってくる。


「俺もずっと意識が朦朧としてたけど、ちょっとだけ気になることがあったんだよな……」

「へ? 何があったの?」

「先生やおふくろ達が部屋にいなかったとき、誰かがこっそりとここに入って来た気配がしたんだ。俺もよく見れなかったけど、点滴に何かを仕込んでるようにも見えたが……」

「まさか、その人が解毒剤を打ち込んだってこと?」

「可能性としての話だ。俺もハッキリとは覚えてない」


 アタシの愛の奇跡のはずはないが、タケゾーが言うには誰かが関与していた可能性が見えてくる。

 話を聞く限り、その誰かが解毒剤を持ってきてくれたってこと? でも、それって誰よ?

 タケゾーしかいない病室に潜入したことといい、どうにも怪しすぎる。

 まあ、結果としてその人のおかげでタケゾーが助かったのだから、文句を言うつもりはないけど。




「……あれ? こんなところにメモ用紙?」




 そうこう考えていると、病室にあった机の引き出しに、一枚のメモ用紙が挟まっているのが見えた。

 なんだか『どうか見てください』って感じの挟み方だ。凄く気になる。

 思わず引き出しから取り出し、椅子に座りながらメモを見てみると――




「『空鳥 隼様がお持ちの大切なデータにメッセージが残っております』……って、どゆこと?」

怪しいことする人、多いな~。

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