母親には全てを伝えよう。
隼の正体を知らないタケゾー母の登場に、隼がとった選択とは。
「タケゾーのお母さん……」
「隼ちゃんも皆さんも、こんなところにいないで武蔵の傍にいてあげてくれないかしら~? ど、どうか……あの子の傍で……ううぅ……!」
アタシが空色の魔女に変身しようとした矢先、タケゾー母が屋上に顔を見せに来てしまった。
この人はアタシの正体を知らない。急ぎたいのに、これでは変身して向かうこともできない。
「武蔵のおふくろさんよ~。隼ちゃんは夜風に当たりたいらしくってな~。悪いんだが、俺らと一緒に先に中に入ってようや」
「ご安心ください。空鳥さんも少しすれば、病室に戻ってきてくださります」
「そ、そうは言っても~……ううぅ……!」
玉杉さんと洗居さんが空気を読んでタケゾー母を促してくれるが、泣きながらも引く様子はない。
仮にもアタシはタケゾーの彼女なわけだ。そんな人にこそ、こういう時には傍にいて欲しいというのが親心というものか。
アタシだって本当はそうしたいが、そうも言ってはいられない。
――もうこの際だ。アタシのもう一つの姿を見て、タケゾー母にも納得してもらうしかない。
「タケゾーのお母さん。アタシはタケゾーを救うために、これからどうしてもやることがる。今はただ、この姿を見て納得してくれないかな」
「え? じゅ、隼ちゃん?」
「空鳥さん……。まさかここで……?」
玉杉さんと洗居さんも驚くが、アタシは構わずに生体コイルを稼働させて、変身ブローチにも電気を流し込む。
どうせタケゾーとの交際を続けていれば、この人に正体を明かす機会は遠からず訪れていた。
それが早くなっただけと思えば、アタシも自然とその姿を見せられる――
カッ
「タケゾーのことは彼女であるアタシが必ず助ける。この正義のヒーロー、空色の魔女を今は信じて欲しいんだ」
「え……? じゅ、隼ちゃんが……空色の魔女……?」
――そうして空色の魔女へと変身したアタシの姿を見て、タケゾー母も目を丸くしてしまう。
急な話になってしまったのはアタシも分かってる。それでも、この人には同時にこの場でしっかり納得して欲しかった。
――それはタケゾーをこんな目に巻き込んでしまったことと、タケゾーを愛する者としての責任でもある。
「アタシはこれから空色の魔女として、タケゾーを治せる解毒剤を手に入れてくる。アタシだってタケゾーの傍にいたいけど、今はそれよりも優先することがある。だからさ、アタシの分までタケゾーの傍にいて欲しいんだ。……唐突なことだけど、信じてもらえるかな?」
「……そうなのね~。分かったわ~。私は隼ちゃんを信じるわね~」
そんなアタシの唐突な暴露も、タケゾー母はいつもの笑顔で受け入れてくれた。
こうも簡単にアタシの言うことを信じて大丈夫かとも思う。だけど、タケゾー母との付き合いが長いアタシには自然と分かる。
――この人は確かな信頼の上で、アタシの言うことを全て信じてくれている。
「隼ちゃんが武蔵にはもったいないぐらいの女の子なのは分かってたし、こうやって私に正体をさらしてくれた以上、疑うことなんてないわね~。むしろ、隼ちゃんがあの正義のヒーロー、空色の魔女さんだったことには、昔からの隼ちゃんを知る身としては納得よね~」
「タケゾーのお母さん……。アタシ、絶対にタケゾーを助けるから」
「ええ、信用してるわよ~。武蔵のことは私が母親として、しっかり責任を持って見ておくからね~。隼ちゃんは空色の魔女さんとして、できることをお願いね~」
決して多くを語ったわけではない。タケゾーが毒を受けた経緯についても説明していない。
それでも、タケゾー母はこれ以上にないほどアタシのことを信用してくれている。
――この人に認めてもらえていることは、アタシに言いようのない自信を与えてくれる。
「玉杉さんも洗居さんもお願いね! そいじゃ、空色の魔女! 出撃だい!」
「隼ちゃん……」
「空鳥さん……」
屋上にいた三人に手を振りながら、アタシはロッドに腰かけて夜空へと舞い上がる。
心配そうに見つめられもしたが、もうアタシがやることは決まっている。
――牙島のゲームに乗り、なんとしてもタケゾーのために解毒剤を手に入れてみせる。
■
「……あそこだ。話の通りなら、あそこに牙島の刺客がいるはず……!」
空色の魔女として飛行を続け、アタシは言われていた山の展望台付近までやって来た。
牙島はここにアタシへの刺客を用意したと言っていたが、一体どこにいるのだろうか?
もうここは敵のテリトリーと見ていい。こちらも慎重に様子を探りたいが――
「報告を受けてやってきたが、あれはどういうことだ!?」
「い、一体、誰があんな真似を!?」
「警察官が……揃って慌ててる?」
――どうにも、目線の先にある展望台の様子がおかしい。
パトカーと警察官が集まり、近くにある鉄塔を懐中電灯で照らして見上げている。
まさかとは思うが、この警察官達が牙島の刺客ってことはないよね? 一瞬そう思っちゃったけど、流石にそれはなさそうだ。
警察官も慌てふためき、現状を飲み込めていない様子。
ともかく、鉄塔に何かがあるのは確かだ。
アタシも近づきながら、目を凝らして確認してみるが――
「だ、誰かぁあ! 助けてくれぇえ! ここから降ろしてくれぇえ!」
「え……!? あれって、鷹広のおっちゃん……!?」
――アタシの目に映ったのは、乗っている車ごと鉄塔に乗せられた、鷹広のおっちゃんの姿だった。
鷹広のおっちゃんまで巻き込まれ、悪魔のゲームが始まる。




