お願いだから、アタシの傍からいなくならないで。
大凍亜連合の牙島が用意した、邪悪なる策略。
「え……!? そ、それってどういうことだよ!?」
「まあ、ちょいとした毒やな。なんやったら、近くで見てみたらええわ」
牙島の話を聞いて、アタシは冷や汗を垂らすどころか、全身から血の気が引いてしまう。
罠の可能性だってあるが、そんな話を聞かされてしまうと、アタシも動揺と心配をせずにはいられない。
牙島の言葉に従う形で、アタシはすぐさまその足元で横たわるタケゾーのもとに駆け寄る。
「ハァ、ハァ……。じゅ、隼……」
「な、何これ……!? 凄い熱だし、この顔色ってチアノーゼ……!?」
タケゾーの体を抱え上げて容態を確認するが、牙島が言っていることは事実だ。
所見だけでも毒物による拒絶反応が体に現れているのが分かり、息も絶え絶えになっている。
腹部をよく見ると、まるで指でも突っ込んだかのような傷口がある。
ここから毒物を注入したと見えるが、今はそんな方法云々なんてどうでもいい。
――アタシはただ、タケゾーをこんな目に遭わせた牙島をどうしても許せない。
地面に座り込んでタケゾーを抱えながらも、アタシは顔を上げて牙島を睨みつける。
「何でこんなことをしたのさ!?」
「こないなことをする理由なんざ、そっちがこっちの邪魔するからに決まっとるやろ?」
「そうだとしても、このままじゃタケゾーが死んじゃうよ! 一体、どんな毒を仕込んだのさ!?」
「まあ、普通の毒ではないわな。ワイのお手製の毒ってところや。常人なら丸一日もすれば、確実にお釈迦やろなぁ……!」
もうアタシの頭はパニック状態だ。牙島への怒りを吐き出さずにはいられない。
そんなアタシを牙島は見下しながら、左手の手袋をいじっている。
相変わらず顔を隠して表情は見えないが、わずかにサングラスの奥の目が光ったように見えた。
「あんた、本当に何者なのさ……!?」
「そないキツイ顔で睨むなや。せっかくのベッピンさんが台無しやで? それより、一つワイとゲームでもせえへんか?」
「ふざけんなよ! こっちはタケゾーの命がかかってるんだ! あんたと遊んでる暇なんてない!」
「まあまあ、まずは話を聞けや。それにこのゲームに勝てば、その坊主を助けられるかもしれへんで?」
「え……!?」
恐怖と憎悪が入り混じりながらも、アタシは牙島への問答を続ける。
その中で出てきた『ゲーム』という言葉と『タケゾーを助ける方法』という言葉。
アタシも思わず思考を戻し、牙島の話に耳を向ける。
「その坊主に打ち込んだ毒やが、このビンに入った解毒剤があれば治すことができる」
「だ、だったら、今すぐそれを――」
「アホか。そない簡単に渡すわけないやろが。これを姉ちゃんが手に入れるために、ゲームをしようって話や」
牙島はタケゾーに打ち込んだ解毒剤のビンをちらつかせ、アタシにゲームという名の挑戦状を叩きつけてくる。
今すぐにでも解毒剤のビンが欲しくて思わず手を伸ばすが、牙島がそれを制してくる。
こちらとしてはタケゾーのためにも、今すぐ解毒剤のビンを奪いたい。
――ただ、その隙さえもない。
こうなったら不本意ではあるが、牙島の挑戦を受けるしかなさそうだ。
「……どうすれば、その解毒剤を渡してくれんだい?」
「ほぉう? ワイのゲームに乗る気になったか」
「不満はいっぱいだけどね。こうなったら、あんたのゲームをさっさとエンディングまで進めて、その解毒剤をいただくとするよ」
「キハハハ! やっぱ、おもろい姉ちゃんや! なーに、ルールは簡単や。今日の日付が変わる真夜中に、ちょいとそこにある山の展望台まで来てくれや。姉ちゃんならひとっ飛びで行けるやろ?」
牙島は離れた場所にある山を見ながら、そのゲームの内容を述べ始める。
少々離れてはいるが、確かにアタシならば問題ない。
「そこの展望台に、こっちの刺客を送りこんどくわ。勝負の内容は一対一のタイマン。そいつに解毒剤を渡しとくから、勝利して奪ってみろや」
「その口ぶりだと、相手はあんたじゃないってことかい?」
「まあ、ワイも今回は傍観者とさせてもらうわ。ワイが勝手に戦闘の場に出ると、ラルカの奴がうっさいねん」
ゲームの内容は単純で、アタシが牙島の用意した相手を倒せば勝利とのこと。
話しぶりからなんとなくだが、こいつらの立場はラルカというスナイパーがトップと言うことだろうか?
それにしても、対戦相手が牙島でないなら、一体誰が――
「ほんなら、ちゃーんと時間通りに来るんやでぇ。ワイもそろそろ、退散させてもらうわぁ!」
「あっ!? ま、待て! ……って、あれは!?」
――相手のことを牙島が語ることはなく、突如近くを通りかかったトラックに飛び乗り、その場から逃げ去ってしまった。
その時の牙島の動きだが、まるで蛙か何かのように大きく飛び跳ね、荷台へと飛び乗っていった。
思ってはいたが、とても人間の動きではない。どちらかというと、爬虫類とかそっちの動きだ。
――もう一つ目に入ったのは、そのトラックの荷台に乗っていたデザイアガルダの姿。
どうやら、牙島との話の間に他の仲間――おそらくはラルカというスナイパーにより、ダウンしたデザイアガルダを助け出されてしまったようだ。
せっかく追い詰めたと思ったのに、アタシとしたことがとんだ失態だった。
――だが、今はそんなことを考えている場合でもない。
「タケゾー! しっかりして! 今、病院に連れて行くから!」
「わ、悪い……隼。俺……足手まといにばっかり……」
「そんな馬鹿なことを言ってる場合じゃないっての! 絶対に助けるから、今は意識だけをもたせるようにしといて!」
アタシは弱り切ったタケゾーを抱え上げ、デバイスロッドに乗ってひとまず病院を目指す。
牙島の解毒剤がなくても、うまくいけば病院の治療で確かるかもしれない。
もう余計なことを考えてる余裕なんてない。アタシはただひたすら、病院目がけて陽が暮れた空を駆ける。
――もうアタシの周りから、大切な人を失う悲しみはうんざりだ。
ヒーローはいつも何かを失う可能性を背負ってしまう。




