反社組織から脱出できた!
ムシャクシャしてムシャムシャしちゃうような狂人から逃げ切った隼と洗居さん。
【そうか……。そんなことがあったのか】
「うん。とりあえず、アタシも洗居さんも無事だから、そのことを伝えようと思ってね」
大凍亜連合のフロント企業から脱出した後、アタシは安全な場所で変身を解除し、タケゾーに電話を入れた。
今回の潜入捜査はタケゾーも知ってるし、その結末だって気になるはずだ。危険な目に遭っている彼女のことを、タケゾーが放っておく性格でもない。
そんなわけでまずは電話越しにだが、事の顛末をタケゾーにもあらかた伝えた。
【それにてもあの牙島って男、本当に狂った奴だな……。素顔を見られるのが嫌ってだけで人を殺すなんて、人間の思考とは思えないぞ?】
「しかもその殺し方が、相手の首根っこを噛みちぎるだからね。空色の魔女のアタシでも、あの狂気を前に相手はしたくないね……」
【隼も流石に疲れただろ。こっちも丁度仕事から上がったところだ。そっちに迎えに行ってやるから、少し待っててくれ。積もる話も直接したいからな】
「うん、ありがと。待ってるね」
全ての出来事を伝えるには、電話では物足りない。
アタシも精神的に疲れたし、今はタケゾーのお迎えバイクを待とう。
こういう時、支えてくれる人がいると本当に助かる。
「そういえば、鷹広のおっちゃんがどうして星皇カンパニーの社員と繋がってて、アタシに縁談なんて持ち込んできたのかは分からずじまいか」
色々と今回の潜入捜査で分かったこともあるが、その内容はどちらかというと本来の想定とは少々違うもの。
事の発端であった鷹広のおっちゃんが持ち出した縁談の件については、結局情報を掴むことができなかった。
「その件なのですが、私の方で少し調べてみました」
「え!? あ、洗居さんが!?」
「清掃業務の最中に、たまたまそういった資料を見つけましたもので。どうやらあの縁談相手も大凍亜連合に借金があり、その弱みつけ込まれて無理矢理話を進められたそうです」
「ベ、ベタな理由だな~……」
そう思っていたら、一緒にいた洗居さんが思わぬことを述べてくれた。
なんとアタシが潜入捜査をしている最中に、洗居さんの方で縁談相手のことを調べてくれていたようだ。
仕事もしながらそんなことまでしてくれるなんて、洗居さんには頭が上がらない。
ただ、アタシのイメージでは洗居さんはそんなことをする人ではない。
今回の潜入捜査も手助けはしてくれたが、自身はあくまで業務優先。つじつま合わせの嘘をつくために、一時間も練習したぐらいの真面目人間だ。
「でもさ、本当にそんなことしてよかったの? それって、洗居さんの流儀に反するんじゃ……」
「確かに清掃魂を抱く者として、このような勝手な行いは許されるものではありません……が、私も清掃用務員である前に人間です。慕っている人が困っていれば、そちらに手を貸したくもなります」
「あ、洗居さん……!」
気になってそのことを尋ねてみると、洗居さんらしからぬ言葉が返って来た。
アタシも洗居さんの『超一流の清掃用務員』という肩書に惑わされていたが、この人だってれっきとした人間だ。
プロ意識の塊で上司としても頼れるのに、アタシの個人的なことにここまで協力してくれるなんて、人間として素晴らしいじゃん。
――ヤバい。涙出てきた。
どなたか、ハンカチ持ってませんか?
「そ、空鳥さん? 泣いておられるのですか? 私のハンカチを使いますか?」
「あっ、本当にハンカチ貸してもらえた。いや、大丈夫。ちょっと感動しちゃっただけだから」
「……? 今のやり取りのどこに、感動する要素があったのでしょうか?」
「うん、そうだよね。そっちの方がいつもの洗居さんっぽいよね」
思わず本当に涙し、本当にハンカチを洗居さんが取り出してくれたが、やっぱり洗居さんは洗居さんだ。
こうやってどこか鈍感ないつもの様子を見ると、奇妙な安心感を覚えてしまう。
――洗居さんの意外な一面も嬉しいけど、こうやって不器用でないと洗居さんじゃないよね。
さて、洗居さんが調べてくれた縁談相手については、アタシが特に気にするほどでもない話なのは分かった。
そうなるとこれから考えるべきことは、今回の調査内容から何になるだろうか?
鷹広のおっちゃん? 大凍亜連合? 噛みつき狂人牙島? 幹部っぽいジャラジャラ男?
アタシとしては、GT細胞の件が気になってしまう。
あのクソバード、デザイアガルダも関わっている一件だ。敵を知りてこそ、百戦危うからずってね。
あんな危険なものを大凍亜連合なんていう危険な組織が持ってるなんて、技術者としても見過ごせない。
GT細胞についてはもっと調査が必要だろう。
――ちょっと怖いけど、パンドラの箱をもう一度開ける必要もあるかもね。
トゥルルル
「あれ? 電話? タケゾーからだ。もっしもーし」
色々考えていると、アタシのスマホにタケゾーから着信が入った。
まさか、もう着いたとかじゃないよね? それはいくらなんでも早すぎるでしょ。
もしそうだとしたら、流石に速度違反だよ。アタシのことが心配なのかもしれないけど、交通ルールの鬼なタケゾーらしくない。
ここは一つ、アタシも彼女として注意して――
【じゅ、隼! 大変だぞ! デザイアガルダの野郎が出て来やがった!】
「えっ!?」
――そう思ったのだが、全く別の用件だった。
ただ、その内容を聞いてアタシはスマホを耳に当てながら目を見開く。
デザイアガルダと大凍亜連合の関係性が見えた直後に、当のご本人ならぬご本鳥の登場。
どこか嫌な予感を覚えてしまうが、あいつが出てきたならばこちらも動かざるを得ない。
――タケゾー父を死なせ、タケゾーをジェットアーマーで苦しめた元凶を、今度こそアタシの手で討伐してみせる。
「ごめん、洗居さん。先に帰ってて」
「どうやら、私が関与できる話でもないようですね。かしこまりました。空鳥さんもどうかお気をつけて」
「うん、ありがとね。――それでタケゾー。デザイアガルダは今どこにいるの?」
ここからはアタシの戦いだ。洗居さんにも帰ってもらい、アタシは空色の魔女としてデバイスロッドに腰かけて空へと舞い始める。
スマホでタケゾーとの会話も続け、まず知るべきはあのクソバードの居場所だ。
どこにいようとも、今度こそ逃がしはしない。
タケゾーもバイクでデザイアガルダを追ってくれているようだが、果たしてどこに――
【お前が住んでた工場だよ! どういうわけか、あいつはそっちの方角を目指して飛んでやがる!】
忌まわしき仇敵、隼の思い出の場所を狙う。




