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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
怪鳥との決闘編
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パンドラの箱は開かれた。

隼が手にしてしまった、極秘研究データというパンドラの箱。

「……うぅ!? ご、ごめん! ちょっとこれ以上の閲覧は勘弁するよ!」


 パンドラの箱とも言うべき、アタシの両親が遺した秘密の研究データ。

 ヒトゲノム解明の項目を読んだだけで、アタシは異様な息苦しさを覚えてしまい、続きに目を通すことができない。

 思わずパソコンからUSBメモリとマイクロSDを抜き取り、画面にデータが表示されるのを無理矢理止める。


「だ、大丈夫か、隼? 顔が真っ青だぞ?」

「う、うん。なんとかね……。正直ここまでの技術となると、関心よりも恐怖が勝っちゃうよ……」


 タケゾーの心配の言葉への返答も、今回ばかりは強がり交じりに返してしまう。

 アタシの両親は確かに凄い人だった。ここまでのレベルのヒトゲノム解明なんて、アタシには到底できそうにない。


 ――いや、やりたいとも思わない。

 人体の設計図に手を加え、その構造そのものさえも作り変えてしまう技術。アタシには恐ろしくて手が出せない。


「父さんも母さんも、どうしてこんな技術を……?」

「その理由は分からないが、今の話を聞く限り、俺も一つの可能性を感じてきたな……」

「え? 何を感じたのさ?」


 娘のアタシでさえ不明な、両親がこんなものを研究開発した理由。

 タケゾーも流石にそこまでは分からないが、アタシの説明を聞いて別の何かを考え付いたらしい。




「親父も殺したあの巨大怪鳥――デザイアガルダ。まさか、あいつもそのヒトゲノム解明の果てに生まれた怪物なんじゃ……?」

「え!? そ、そんな!?」




 その可能性はアタシも一度は考えたが、技術者として避けていた可能性。

 確かに両親が研究していたヒトゲノムの原理があれば、人間の細胞を鳥のように変異させることさえも可能となる。

 でも、それはまさしく神への挑戦。生命の冒涜。


 ――アタシの両親がそんな禁忌に手を出していたかと思うと、どうしても恐怖心ですくんでしまう。


「……安心しろ、隼。お前の両親だって、何もデザイアガルダみたいな奴を生むことを目的にはしてなかったはずだ。そんな事態を避けたかったからこそ、こうやって研究データを簡単には見れないようにしたんだろうよ」

「タケゾー……。うん、そうだよね。それに今は、鷹広のおっちゃんと大凍亜連合の件が先決だ。このパンドラの箱みたいなデータについては、また今度続きを確認しとくよ」


 アタシが自分の体を両手で抱きかかえて軽く震えていると、タケゾーが優しく肩に手を当てながら語り掛けてくれる。

 こういう不安な時、支えてくれる人がいるありがたさというのを身に染みて感じられる。

 このパンドラの箱は後々読み解く必要はありそうだが、今やるべきことは別にある。


 ――大凍亜連合のフロント企業に潜入し、鷹広のおっちゃんとの関係性を調べ出す。

 両親の死の真相も含めて思うところはあるが、まずは目の前のことに集中しよう。





「本日はよろしくお願いします。清掃用務員の洗居です」

「どうも~。洗居さんの部下の空鳥でーす」


 そして翌日、アタシは予定通り洗居さんと一緒に大凍亜連合のフロント企業へとやって来た。

 表向きにはイベント企画会社となっているが、その実態は反社組織。いかにもそれっぽく、どうにもいかつい男の人がうろついてるのも見える。

 まあ、こっちも表向きには清掃業務ってことになってるけど、アタシはちょっと潜入捜査をさせてもらうわけだ。お互い様という奴だ。


「ほーう? 今日は二人だって聞いてたが、揃ってベッピンさんか。こいつは期待できそうだな」

「お掃除と容姿は関係ありません。それにこちらの彼女は少々病弱でして、時折業務を抜けることがあります。その点はご了承ください」


 こんな反社フロント企業であっても、洗居さんの態度は普段と変わらず丁寧だ。

 金属ピアスをジャラジャラつけた構成員っぽい男が相手でも、しっかりと意見を述べて仕事の方に意識を向けている。

 この感じ、かなり場慣れしてるね。


 なお、アタシのことはあえて『抜けることがある』と説明してもらった。

 洗居さんにも合わせてもらったが、こうしておけばアタシが潜入捜査中で仕事の場に居なくても、多少は融通が利く。

 嘘が苦手な洗居さんではあるが、そこは事前の打ち合わせでしっかりと確認しておいた。


 ――その嘘をつく練習のために、朝から一時間ぐらい使ったけど。


「まあ、こっちも掃除してくれんなら何でも構わない。後は適当に任せるから、終わったら報告してくれや」


 それでもそんな突貫猛練習の効果はあったのか、ジャラジャラ構成員はこちらを気にすることなく、清掃業務だけ頼んで立ち去って行った。

 アタシと洗居さんも清掃道具の揃った用務室へと向かい、ひとまずは二人きりになる。


「な、なんとかうまく行きました……。清掃用務員としては本来あるまじき行い故、なんとも難しかったです……」

「嘘をつくのにそこまで苦労する人、アタシも初めて見たよ……。でもまあ、助かったよ。洗居さん」


 洗居さんはホッと一息つきながら胸を撫で下ろし、緊張の糸を解いている。

 アタシには分かんないけど、洗居さんにとってはどんな厳しい業務よりも辛かったんだよね。その点についてはしっかり感謝しておこう。


 そして、ここからはアタシの一人仕事だ。


「それじゃ、アタシはちょいと捜査してくるね」

「どうかお気を付けください。私にはこの先の清掃業務(ミッション)を一人でこなすことしかできませんが、密かに幸運を祈らせていただきます」

「ありがとね。こっちこそ、洗居さん一人に仕事を押し付けちゃって申し訳ないよ」

「それは全く構いません。このレベルの清掃業務(ミッション)ならば、本気を出せば私一人で片付きます」

「……それって、最初からアタシは必要だったのかな?」


 どうにも気になる点はあるが、洗居さんには仕事に集中してもらう方が都合がいいか。

 清掃の方も進めておかないと、流石に怪しまれかねない。

 とりあえず、こっちはこっちで動くとしよう。


「よし。あのダクトを通って、色々と調べてみるか」


 洗居さんとも別れて一人になると、とりあえずはこっそりこの建物内部を探索できそうなダクトを見つける。

 スパイ映画とかでも、潜入の定番はダクトだよね。人が入ることなんてないし。


 ――でも、ネズミや蜘蛛はいるのね。

 まあ、これぐらいならどうってことない。修理屋や清掃用務員をやってると、こういった類にはよく出くわす。

 アタシもそこまで苦手ではないし、服装だって今は清掃用のもの。デート用ワンピースみたいに汚れを気にする必要もなし。


「さてさて~? どこかに怪しそうな部屋はないもんかね~?」


 そうして排気口から少し顔を出しながら部屋を確認してみるが、そう簡単に目当てのものが見つかるはずもなし。

 そもそもの話、このフロント企業で鷹広のおっちゃんも関わっている一件を、本当に調べ出せる確証もない。

 まあ、ダメで元々だ。そんなに都合よく、映画のように情報が手に入るはずが――




「なあ、空鳥さん? 依頼してた空鳥夫妻の極秘データについては、まだ手に入らないのか?」

「す、すみません。少々てこずっておりまして……」




 ――あった。

まあ、都合よく行くことだってあるよ。

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