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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
怪鳥との決闘編
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世界的大企業に勧誘された!?

星皇社長が提案したのは、隼を雇いたいという話だが――

「……へ? ア、アタシが星皇カンパニーで……?」

「ええ、その通りよ。私としても、あなたほどの人材がくすぶったままというのは、見ていていい気がしないのよ」


 何の話題をされるのかと身構えていたら、驚くことに星皇社長はアタシのことを星皇カンパニーに勧誘してきた。

 正直、驚きすぎて軽く頭が真っ白だ。星皇カンパニーなんて、それこそ一流の名門大学でも出てないと入社できたものじゃない。

 高校時代は主席だったとはいえ、アタシの最終学歴は高卒だ。とても通用するレベルじゃない。


「い、一応言っておくと、アタシって高卒なんだけど?」

「学歴なんて関係ないわよ。あなたの技術力についても、こちらで少し調査させてもらったわ。ハッキリ言って、ウチのエンジニアと比較しても、間違いなくトップクラスでしょうね」

「そ、そそ、そこまで評価されちゃってもね~……」


 どうにも唐突な話過ぎて、アタシも思わず及び腰になってしまう。

 星皇社長もアタシのことをベタ褒めしてくるし、なんだかくすぐったくなってくる。


「それに、空鳥さんは何よりもエンジニアとしての姿勢が素晴らしいわ。私に技術関係で啖呵を切った人間なんて、ここ数年であなたぐらいよ?」

「あ、ああ……!? あ、あの時はアタシも火がついちゃって……!」

「そう。それで構わないのよ。技術の革新を行うのは、あなたのように時として周囲に意見を物申し、起爆剤となれる人間よ。だからこちらからお願いしたいの。是非とも、我が社で働いてくれないかしら?」


 以前に保育園で星皇社長に啖呵を切ってしまったことも含め、もう褒められすぎて頭がどうにかなってくる。

 でも、星皇社長がアタシのことを買ってくれているのは確かだ。この話に裏があるとは思えない。


「タ、タケゾー……どうしよう?」

「これは隼の問題だ。隼が選びたい方を選べばいい。俺はどっちでも構わないさ」

「そ、そうは言ってもさ……」


 思わずタケゾーにも助けを求めてしまうが、流石にこればっかりはアタシがどうにかするしかない。


 ――よし。ここは落ち着いて整理しよう。

 確かに星皇カンパニーへの勧誘は魅力的だ。アタシも技術者として、最高の環境で研究開発ができる。

 ただ、それでも心のどこかで引っかかってしまうのは『これまでの日常が変わってしまう』ということだ。


 今のアタシは裕福ではないけど、自分ではかなりの幸せ者だと思っている。

 両親から受け継いだ工場はなくなっちゃったけど、タケゾーの保育園や洗居さんの清掃の仕事もあるおかげで、なんとか生活はできている。

 空色の魔女という力も手に入れて、ちょっとした正義のヒーローにだってなれた。

 おまけに最近だと、幼馴染のタケゾーと交際まで始めてしまった。




 ――今でも十分すぎるこの現状を、アタシでは(はかり)にかけることができない。




「……星皇社長。申し出はありがたいけど、アタシはやっぱやめとくよ」

「あら? どうしてかしら? こちらとしても、あなたには最高の環境を提供するつもりよ?」

「確かに『技術者として最高の環境』ってのに興味はあるけど、今のアタシは『空鳥 隼という人間にとって最高の環境』があるからね。それを捨ててまでっていうのは……アタシにはできないや」


 アタシ自身も技術者として見た場合、どこか弱気な姿勢だとは思う。それでも、今のアタシにはとても選べない。

 技術者としての理念は今でも持ってるけど、タケゾーを始めとした色々な人と出会ううちに、アタシの中でもいつの間にか優先順位が変わっていたようだ。


 星皇カンパニーの社員となれば、これまでのように洗居さんの仕事を手伝ったり、空色の魔女としてヒーロー活動したり、タケゾーとデートしたりということもできなくなるかもしれない。

 今のアタシは一人の技術者ではなく、一人の人間としての選択を取りたい。


「……フフッ。実に空鳥さんらしい、自分に正直な回答ね」

「あの……すみません。せっかくの厚意を無下にしちゃって……」

「気にしなくていいわよ。私も無理強いはできないわ。彼氏さんとお幸せにね」


 流石のアタシも申し訳なさから、頭を下げておとなしく謝罪をする。

 それでも、星皇社長は笑顔でアタシの気持ちを汲み取ってくれた。こういう対応をしてもらえると、この人の下で働けなかったことを少し後悔してしまう。


 ――でも、これはアタシが決めたことだ。

 ここで未練を残してしまえば、かえって星皇社長の気持ちを台無しにしてしまう。





「ゼノアークさん。今日はありがとね。星皇社長にも伝えてもらえるかな?」

「承知いたしました。星皇社長にも改めてお伝えしておきます。帰り道、どうかお気をつけて」


 なんだかんだで星皇社長とも長話になったけど、アタシを勧誘する話に区切りがついたところでお開きとなった。

 秘書のゼノアークさんに丁寧に見送られ、アタシ達は再びタケゾーのバイクで帰路につく。


「なあ、隼。本当に良かったのか? 星皇カンパニー社長からの勧誘なんて、そうそうあるものじゃないだろ?」

「うーん、それはそうなんだけどね。アタシはやっぱ、今の暮らしのままでいいかなーって」


 バイクのサイドカーで風を感じながら、隣で運転してくれているタケゾーとも今日のことで言葉を交わす。

 完全に踏ん切りがついたかと言えば嘘になるが、それでも今回の選択でアタシの進むべき道は決まった。


「今のアタシには空色の魔女っていう、みんなを守れるだけの力がある。偶然手に入れた力だけど、技術者としての好奇心よりも、今はこの日常を守っていきたいと思っただけさ」

「そういうところ、本当に昔からの隼らしいな」

「それにさ、アタシが星皇カンパニーに勤めたら、研究で缶詰になっちゃうかもよ? それでタケゾーに会えなくなるのは、アタシも嫌だからね」

「そ、そういう恥ずかしいことを恥ずかしげもなく言うのも、実に隼らしいな」


 そんなアタシの決意を、普段通りの調子でタケゾーに語る。

 途中、ヘルメット越しでも分かるほどにタケゾーの顔が赤くなったのが見えたが、こうやって軽くタケゾーをからかうのも楽しい。




 ――今のアタシが一番やりたいのは、こういった日常を守ることだ。

 もう父さんや母さん、タケゾーの親父さんのような人々を失いたくない。




「あっ、そうだ。ついでだからさ、玉杉さんや洗居さんにも会って行かない? 何て言うか、日常成分をチャージしたい……みたいな?」

「なんだよ、日常成分って……。でもまあ、俺もあの二人に会うのは賛成だ。空色の魔女の正体を知ってるのも、俺を除くとあの二人だけだからな」

「だね~。事情を知ってる人がいると、話もしやすいってもんよ。タケゾーも今日はアタシと飲みに付き合えよな~」

「無茶言うな。俺に飲酒運転をさせる気か?」

「……あっ、そっか。バイクだったや」


 そんな日常に想いを馳せながら、アタシ達は夕暮れの道をバイクで駆けて行く。

 今回は選ばなかったけど、アタシも別に技術者としての道を閉ざすわけじゃない。




 ――ただ、今は空色の魔女としての役目を優先したい。

 デザイアガルダという倒すべき仇敵だっているのに、まだ投げ出すことはできない。

空色の魔女には空色の魔女にしかできない役目がある。

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