社長室でお喋りしよう!
社長室ははしゃぐ場所ではありません。
「二人とも、待たせたわね」
「星皇社長! 先に失礼してたよ!」
「隼、せめて敬語を使う努力ぐらいしたらどうだ?」
ゼノアークさんに連れられ、アタシとタケゾーは星皇カンパニーの社長室へとお邪魔した。
あの後は結局、海外出身のゼノアークさんのことを考えて、アタシも私語は慎んだ。
色々と気にはなるけど、本人が嫌がってるなら仕方ないね。
そうしてしばらく待っていると、星皇社長もやって来てくれた。
タケゾーにはまたツッコまれてしまうが、もうこのスタンスで慣れてしまった。
星皇社長も笑顔で応えてくれるし、とりあえずはこれで良しとしよう。
「それで、一応は私に何か用件があったのよね?」
「まあ、そうなんだけど……。別にそこまで重要な用件でもないと言うか……」
「別にそれでも構わないわよ。これは私と空鳥さん達の私的な交友の場。遠慮せずにおっしゃいなさい」
「そう言ってくれると、ありがたいねぇ。実は――」
どうにも話の内容がこんな社長室に呼ばれてまですることではなく、アタシも話すを躊躇してしまう。
でも、星皇社長もそこは理解してくれてるから、ここはお言葉に甘えて話させてもらおう。
鷹広のおっちゃんから受け取った資料も取り出し、星皇社長にも事情を説明してみる。
「成程ね。どうにも、あなたの叔父さんは身勝手で困ったものね」
「そうなんだよねぇ。今のアタシにはタケゾーもいるし、縁談云々なんてもってのほかだよ」
アタシも結構愚痴を交えながら語るが、星皇社長は嫌な顔をせずに聞き入れてくれる。
この感じ、アタシの母さんに近いかな。星皇社長にもお子さんがいたみたいだし、母は偉大なのかもね。
「この縁談相手というのは、確かにウチの社員みたいね。ゼノアーク、この男性社員の情報はあるかしら?」
「我が社の営業一課に配属されています。成績自体は優秀ですが、女遊びが過ぎるとの報告もあります。営業成績に関しましても、星皇カンパニーの大企業としての看板に担がれているものと思われます」
「あら、そうなのね。空鳥さん、この男性はあなたには合いそうにないわね。赤原警部の息子さんの方が、よっぽど幸せにしてくれるはずよ」
そんな母性を感じる星皇社長だが、近くで立っていた秘書のゼノアークさんに声をかけ、縁談相手の情報まで調べてくれた。
それを聞く限り、何と言うか悪い意味でありきたりなエリートな人物像が浮かんでくる。
もっとも、アタシもこんな縁談を進める気なんてなかったわけだ。タケゾーと一緒の方がいい。
――それにしても、さっきゼノアークさんは資料も何も見ずに答えたよね? 全部、頭の中の情報だよね?
そんな姿を見てると、アタシの中での『ゼノアークさんロボット説』がまた根強くなってしまう。
「にしても、タケゾーは星皇社長からも高評価だねぇ。照れちゃう? 照れちゃう?」
「い、いじるなっての。でも、俺なんかが本当に隼に相応しいか、どうにも不安ではあるが……」
「不安がる必要なんてないわ。あなたのことは保育園でも時々見かけるけど、勤務態度も真面目だし、子供に好かれている様子は私でも分かる。園児に危険が及ばないよう、常に目を光らせているところとかも含めてね。そういう誠実さが滲み出る人間こそ、女性を幸せにできるものよ」
「そ、そうですかね……?」
それとは別に、タケゾーもなんだか星皇社長から励ましの言葉を貰っている。
星皇社長もよく見ているものだ。タケゾーのいいところを理解できている。
流石に大企業の頂点に立つだけのことはあり、人を見る目は確かということか。
「赤原さんのような保育士があの時もいれば、あの子も助かったかもしれないわね……」
「あの子って……もしかして、星皇社長の息子さん?」
「ええ、そうよ。世間では働く女性の憧れなんて言われてるけど、実際には息子一人も守れなかったのよね……」
そんな星皇社長もやはり一人の人間と言うべきか。どこか物悲しそうに語るのは、アタシも以前に聞いた息子さんの話。
どれだけ優れた人で世間から羨望の目で見られていても、失った過去は変わらない。
「失礼ですが、星皇社長の旦那さんは?」
「旦那とは息子が亡くなってから疎遠になっちゃって、もうとっくに離婚してるわよ」
「そ、そうですか……。失礼しました……」
今はタケゾーが勤めている保育園で過去に起きた事故。その時に亡くなった息子さん。
タケゾーも恐る恐る尋ねてみるが、その傷跡はかなり大きい。
――アタシに子供はいないけど、それでも星皇社長の辛さは痛いほど伝わってくる。
家族を失うという辛さについては、アタシも身に染みて理解してる。
「もし叶うのならば、時間を巻き戻してでもあの子に会いたいわね……」
「もしかして、一階に展示してあった時間を巻き戻す理論のレプリカって、そういった思いもあって……?」
「まあ、多少ならずともね。もちろん、あの理論の難易度と危険性はよく理解してるわよ」
そんな星皇社長の後悔は、この星皇カンパニーという企業を見ても感じられる。
安全性を意識した技術革新。そのうえでさらなる可能性の追求。
過去に時間を戻すという理論も、そんな息子さんに対する想いが故ということか。
――こんな星皇社長の姿を見てると、アタシも何か力になりたくなってくる。
「ところで空鳥さん。この機会だから、あなたに是非とも話したいことがあるのよ」
「へ? アタシに話?」
話が色々逸れたと思っていたら、今度はアタシに星皇社長が話を振って来た。
タケゾーを褒めている時は和やかな雰囲気とは違う。息子さんのことを語る悲しそうな雰囲気とも違う。
アタシには一転して、どこか真剣な表情で話を持ちかけてくる。
――何だろう。嫌な予感がする。アタシ、何か悪いことしたっけ?
いや、思い当た節は色々とある。
こうやって社長室まで入れてもらってする話が、アタシと身内の縁談のいざこざだったこととか。
アタシが星皇社長の厚意に甘えすぎて、全然敬語を使ってないこととか。
秘書のゼノアークさんへの迷惑発言とか。
――ヤバい。数えだすときりがない。
「あ、あの~……? ちなみに、どういったお話でしょうか~……?」
「そんな急に腰の低い態度をしなくても大丈夫よ。空鳥さんにとって、決して悪い話ではないわ」
アタシも思わず慣れない敬語になってしまい、冷や汗を垂らしながら尋ねてしまう。
でも、アタシにとって悪い話でないのなら、そこまで緊張することでもないのかな?
ただそれだと、どういう話なのかが読めないんだけど――
「空鳥さん。あなた、星皇カンパニーで働いてみる気はないかしら?」
唐突な勧誘はヒロインの特権。




