社長さんの方から来てくれた!
星皇社長と会えたのはいいのだが、目的は覚えてますか?
「『お久しぶり』って、お前……。そこはせめて『お久しぶりです』って言えよ」
「別に私は構わないわよ。空鳥さんとはご両親との付き合いもあったし、気にせずに自然体にして頂戴」
思わず自然体で挨拶しちゃってタケゾーにも指摘されるけど、それも快く了承してくれるとは、星皇社長は実に心が広い。
本来ならばアタシのような個人のペーペー技術者なんかが、世界的大規模の社長と会うこと自体が簡単じゃない。
そんな人とこういう風に付き合わせてもらえるなんて、父さんや母さんに感謝しとかなきゃね。
「そちらの男性は以前もお会いした、空鳥さんの幼馴染さんだったかしら? 赤原警部の息子さんだとか」
「ど、どうも。今は前とは違って、その……隼さんと交際させていただいてます……」
「あら? そうだったのね。あなたもそこまでかしこまらなくていいわよ。空鳥さんと交際してることだって、恥ずかしがらずに胸を張って言いなさい。彼女に失礼よ?」
「そ、それもそうですね」
タケゾーも星皇社長に声をかけられ、どこかしどろもどろになりながら返答している。
なんだか励まされてるみたいだけど、どうにも顔を赤くしているのが気になる。
まさかとは思うが――
「……タケゾー。星皇社長に魅了されちゃったとかじゃないよね? アタシも流石に、付き合って即行で浮気されるのは辛い……」
「そんなわけないだろ!? 俺はお前みたいに、人様に交際のことをベラベラ喋れるメンタルは持ち合わせてないんだ!」
――よかった。とりあえず、浮気ではないようだ。
星皇社長はアタシみたいな小娘と違い、大人の色気に満ち溢れている。
失礼な話かもしれないけど、最近はタケゾーと付き合うようになったからか、アタシ以外の女性の魅力的な面が気になってしまう。
自分でも面倒な女だとは思うけどね。隣の芝が青く見えて仕方ないのよ。
「そんなカップル二人が、今日はデートで我が社の見学かしら?」
「いや~。実はちょっと『星皇社長に会えたらいいな~』ぐらいの感じで、用事もあったのよ」
「私に用事? 少しぐらいなら聞いてあげても構わないわよ」
それはさておき、こうしてお目当てだった星皇社長にも会えたことだ。
見学はあくまでついでで、一応は本来の目的が別にある。
星皇社長も聞いてくれるみたいだし、ここは早速用件を――
「……ごめん、タケゾー。アタシ、なんで星皇社長に会おうとしてたんだっけ?」
「なんで一番の本題を忘れてるんだよ!? お前の叔父さんの件だろ!?」
――言おうとしたのだが、うっかり頭からすっぽ抜けてた。
タケゾーにも確認して、ようやくアタシも思い出した。鷹広のおっちゃんが星皇カンパニーの社員とアタシの縁談を勝手に進めてて、それにムカついたアタシがクレームを入れに来たんだった。
――要点だけまとめると、凄く理不尽なクレームだよね。
まあ、アタシも軽くついでの調子で行動しただけだし、これは記憶から吹き飛んでいても仕方ない。
「お身内のお話かしら? 私で相談に乗れるとは思えないけど、せっかくの機会だからちょっと私の部屋に寄ってらっしゃい」
「え!? それってもしかして、星皇カンパニーの社長室に!?」
「その通りよ。私だって、将来のある若者との時間は大切にしたいわ」
そんなアタシの理不尽かつ割とどうでもいい用件なのだが、なんと星皇社長はそのための時間を用意してくれるそうだ。
しかも、社長室への案内付き。まさか理不尽クレームから、そんなところに立ち入れる話に繋がるとは思わなかった。
――かえって申し訳なくなってくる。
「ゼノアーク。このお二方を社長室まで案内しなさい。私も後から行くわ」
「かしこまりました。空鳥様に赤原様、どうぞこちらへ」
星皇社長もアタシの用件をこの場で深く尋ねず、社長室への案内を優先してくれる。
近くにいたゼノアークという男装麗人の秘書さんに命じると、星皇社長は別件での仕事か何かに向かって行った。
アタシとタケゾーは秘書さんに連れられ、一足先に社長室へと案内される。
――てかこの秘書さん、さっきからずっと星皇社長の傍にいたよね?
それなのに、星皇社長が呼びかけるまでアタシもすっかりその存在が頭から消えてたや。だってこの人、全然動かないせいか気配を感じないもん。
表情の変化も全くと言っていいほどないし、身のこなしも隙がなさ過ぎて人間らしさを感じない。
まさか、星皇カンパニー特製の最新アンドロイドとかじゃないよね?
「え、えーっと、ゼノアークさんだよね? 星皇社長の秘書さんってことでいいのよね?」
「その認識で合ってます」
「……ロボットとかじゃないよね? 人間だよね?」
「ロボットではありません。人間です」
ゼノアークさんに案内してもらう最中、思わず気になってアタシも尋ねてしまった。
本人は人間だと言ってるけど、そのやり取りが逆に人間味を感じない。
――必要以上のことを言わないこの雰囲気。優秀そうには見えるけど、なんだか冷たい。
最初は洗居さんと似たタイプの人かと思ったが、全然違うタイプの人だ。
洗居さんも対応がマニュアル的なところがあるけど、それでもどこか温もりを感じる。
でも、このゼノアークさんはただ淡々としているだけで、言葉に温度をまるで感じない。
――なんだろう。ちょっと怖い。
「おい、空鳥。さっきの質問はちょっと失礼じゃないか?」
「そ、そうだったね。ごめんね、ゼノアークさん」
「心配無用です」
「……やっぱりAIか何かじゃないかな?」
「だから! 思ってても言うなっての!」
タケゾーにも注意されてしまうが、この冷たいナイフのような切り返しはアタシとしても辛い。
もっとこう、案内だけにしても明るい感じでお喋りしたいよね。
「だったらさ、タケゾーも何か話題を繋いでよ」
「そ、そうは言ってもな……。うーん……」
どうせなら、タケゾーにお手本でも見せてもらおう。
アタシが話しを振るとタケゾーも少し考えて、ゼノアークさんに話題を持ちかけるのだが――
「……すみません。最近、どこかでお会いしませんでしたか?」
「赤原様の勤め先の保育園でお見掛けしました」
「……そうですか」
――それはそうだろう。ゼノアークさんは星皇社長の秘書なのだから、星皇社長がよく立ち寄る保育園で顔を見ることだってあって当然だ。
それに対するタケゾーの返事も『そうですか』って、もっとそこからの派生とかないのかな? これはこれで話題作りが下手じゃん。
「タケゾーももっと何か別の話題を出しなって。例えば『スタイルいいですね』とか『いいお尻してますね』とか」
「それを俺が言ったら、セクハラになるだろうが……! てか、隼はそんなこと考えてたのかよ……」
アタシなりにタケゾーにアドバイスしてみるも、確かにこの話題は危ない。
これでタケゾーが実際にやってセクハラで訴えられたら、彼女のアタシは立場も何もない。
とはいえ、この凍えきった空気は肌寒い。
どうにかして、ゼノアークさんが口を開く話題はないものか――
「すみません。自分、この国の言語に慣れていないので、余計な私語はご遠慮願います」
――と考えていたら、前方のゼノアークさんの方からこちらに振り向き、事情を語ってくれた。
そういえば、この人って外国人じゃん。単純に言語が慣れてないだけじゃん。
はたして、本当に言語に慣れていないだけなのか?




