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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
想い続けた幼馴染編
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タケゾー「喫茶店で楽しんでみよう」

タケゾーと隼の初デートはなおも続く。

 買い物を終えた後、隼が『お腹が空いた!』と言うので、とりあえず近くにあった小洒落た喫茶店に立ち寄ってみた。

 そういえば、俺も隼も朝から何も食べていなかった。昼飯時にも丁度いい。


 そう思って、喫茶店にあるメニューを注文してみたのだが――




「ヒャッハー! こういうの、一度いいから食べてみたかったんだよね~!」

「なんだよ、このバカデカいソフトクリームのような何かは……?」




 ――隼はとんでもないものを注文してしまった。

 メニュー名は『ジャンボソフトのイチゴ添え』というらしく、巨大なソフトクリームにイチゴが大量に添えられたシンプルな一品だ。

 ただ、問題なのはサイズ。ジャンボというだけのことはあり、確かにデカい。だが、向かい合ってスプーンを構える隼の姿が見えないほどデカい。

 なんでも、これは『カップルが一緒に食べる甘いひと時』などというコンセプトがあるらしいが、どう見てもネタ商品だ。

 隼がこれを注文した時、店員も『ほ、本当に注文されるのですか? お嬢様だと後悔しますよ?』などと忠告を入れてきた。

 今の隼は清楚系お嬢様な見た目のせいで、とてもこんな豪快なものを食べるようには見えない。


 ――もうここまで来るとソフトクリームじゃない。全然ソフトじゃない。むしろハードクリームだ。


「ささっ。タケゾーも一緒に食べようよ」

「こんなもの、二人でも食べきれるのか……?」


 俺の方も隼がこんなとんでもないものを頼んでしまったので、ホットコーヒーだけ頼んで後は一緒にこのハードクリームを一緒に食べることにした。

 本当はサンドイッチでも軽く摘まみたかったのだが、とても胃袋に入りそうにない。

 むしろ、目の前のハードクリームを見ているだけで、すでに甘さで胃もたれしそうだ。

 俺も隼からスプーンを手渡され、一緒になってこのクリームのエベレストへ突き刺していく。


「味は悪くないんだけどな……」

「いちいち文句が多いね、タケゾーは。でもさ、こうやって同じものを一緒にスプーンですくいながら食べるって、恋人っぽくない?」

「……隼って、結構乙女な考えのところもあるよな。俺よりも恋人関係にロマンスを求めてないか?」

「そりゃあ、アタシだって女だからね。たまにはこういうことだって、考えてみたくはなるもんさ」


 気にはなっていたのだが、隼は俺が思っていた以上にこのデートを楽しんでいるように見える。

 普段は科学の実験だの開発だのばかりしているのに、こういう一面は長年の付き合いの中でも意外なものだ。

 空色の魔女の格好にしてもやたらとファンタジー風に凝っているし、こいつもそういうものが好きではあるのだろう。


 ――もしかすると、普段から真逆のことばかりしている反動なのかもしれない。

 技術者としても空色の魔女としても、隼は普段から誰かのために動いている。

 俺の独りよがりかもしれないが、隼だって誰かと一緒になって甘えたい気持ちをどこかに持っているのかもしれない。


 ――その相手が俺だとするならば、俺も誠心誠意その期待に応えてみたい。

 臭い言い方をすれば、隼の日常の中での笑顔を俺の手で作って守ってやりたい。




「だ、誰かぁあ!? 助けてぇえ!?」

「おとなしくしろぉお! 傷ものにされてえのかぁあ!!」




 そうやってハードクリームの向こう側に見える隼の笑顔を見ながらスプーンを手に取っていると、店の外から女の子の悲鳴が聞こえてきた。

 この場のムードとはなんとも不釣り合いで、脅すような男の叫び声も聞こえてくる。


 ――どうやら、隼とのデートを楽しんでいる場合でもなさそうだ。

 店の外を見てみると、女子中学生と思わしき少女がナイフを持った男に組みつかれている。

 こんな白昼堂々とショッピングモールでそんな行為をする男が出てくるとは、この街の治安は本当に悪い。

 生前に親父も言っていたが、大凍亜連合とかいう反社組織の影響だとかなんとか。


「ひゃ~……。まーた暴漢騒動かい。こいつはアタシも、ソフトクリームを食べてる場合じゃなさそうだ」

「……行くのか? 大丈夫なんだよな?」

「大丈夫だっての。アタシの能力はこのソフトクリームのように甘くはないってもんよ」


 そしてこういう時、この街では正義のヒーローが姿を見せる。女性だけど。

 今俺の目の前にいる恋人、隼のもう一つの姿である空色の魔女。分かってはいたが、隼もこの騒動を見て見ぬフリをするつもりなどない。


「分かったよ。情けない話だが、俺がいても邪魔にしかならないだろ。ここで待っててやるから、しっかりと済ませてこい」

「そう言ってもらえると助かるよ。……ごめんね。せっかくのデートの最中なのに、アタシの都合で抜けたりしちゃってさ」

「気にするな。俺もお前のそんな一面を支えるのを覚悟で、交際を申し出たんだからな」

「ニシシシ~。タケゾーが一丁前なことを言うもんだ。そいじゃ、アタシが戻ってくるまでの間、そっちはソフトクリームの死守を任せるよ!」


 隼はわずかに申し訳なさそうにするが、こういう場面が起こることも覚悟の上だ。

 俺が笑顔で領してやると、隼はブローチを手に取りながら店の裏口へひっそりと向かって行った。

 俺では隼が戦うための力にはなれない。それでも、あいつがあいつらしく生きるための日常を守ることはできる。


 ――まあ、現在守るべきその日常と言うのが、このハードクリームなのは少々引っかかるが。

 そもそも、死守するにしても何から死守しろというのだろうか? むしろ、手の付けようがない。

 仕方がないので、俺も店の外へと目を向けて、隼の登場を見守ることにする。




「空色の魔女! ただいま見参! ソフトクリームに代わって……おしおきだい!」

「キャー! 空色の魔女様よー!」

「そ、空色の魔女だと!? てか、ソフトクリームがどう関係あるの!?」




 そうして変身を終え、空色の魔女として大衆の前へと現れた隼なのだが、何やら日朝のアニメでやっていそうなポーズとセリフを決めている。

 そんな隼の派手な登場シーンを見て、周囲で様子を伺っていた一般人どころか、暴漢に捕まっていた女子中学生までもが黄色い声を上げる。


 ――ただ、暴漢の方はそんな隼と周囲の様子に驚愕している。

 おまけに今は俺の眼前に置かれたハードクリームの話題まで脈絡もなく出され、意味不明といった様子。

 なんだろう。暴漢の心境の方が同感できてしまう。




「……ん? あそこのテラスで様子を伺っている女の人、どこかで見たことがあるような……?」




 一応は空色の魔女と直接対決をしたことがある俺からすれば、これから隼が何をするかよりも周囲の様子の方が気になってしまう。

 そんなわけで窓から辺りを見回していると、俺から見て向かい側、暴漢の背後にあるテラスの辺りにいた一人の紺コートを着た女性の姿が目に入った。

 他の人間と同じように空色の魔女へ目を向けているが、その様子は明らかに違う。双眼鏡を手に取って、どこか落ち着きながら観察しているようにも見える。


 ――それに服装こそ普段と違うが、俺はあの女性に見覚えがある。


「確か……星皇社長と一緒にいて、時々保育園にも車で迎えに来てた秘書か何かだよな? なんであの人があんなことを……?」


 俺もたまに見る程度の人だが、隼のことを観察しているその様子を見ると、むしろそっちの方が気になってしまう。

 ただ、向こうも少しするとテラスから立ち去ってしまった。


 ――その時、わずかに俺の方に目を向けたような気がしたが、まさかこっちに気付いたということか?

 もしそうだとしたら、こんな状況でそんな判断ができる時点でただ者には見えない。

 超大企業の社長秘書だとしても、どこか裏を感じてしまう。




「タケゾー! たっだいまー!」

「お、おお? もう帰って来たのか?」




 そうやって謎の秘書の方を気にしていると、隼が元のワンピース姿で席へと戻って来た。

 さっきまで暴漢がいた現場を見てみると、すでにダウンして警備員に取り押さえられている。人質だった女子中学生も無事だ。

 本当に一瞬で終わらせてしまうとは、俺の彼女は末恐ろしい。


 ――てか、その変身ブローチも本当に凄いな。元々どんな服を着てても、一瞬で空色の魔女衣装と切り替えられるのか。


「アタシの活躍、見ててくれた? 特に最後、暴漢をグーパンで殴り飛ばすシーン」

「すまん。他のことに気を取られてて、全然見てなかった。てか、魔女を名乗ってるわりに、フィニッシュがグーパンなのかよ……」

「えー!? 見てなかったのかい!? 自分の彼女の活躍なのに、仕方のない彼氏なもんだねぇ。最後のグーパンはこんな感じで、本当にうまくダウンを取れて――」


 隼は暴漢との対決の一幕を自慢してくれるのだが、悲しいことに俺はずっと謎の秘書の方ばかり見てしまっていた。

 俺もジェットアーマーを着て戦ったことがあるからと、そっちへの意識が薄かったのがいけなかった。

 隼も結構ノリノリなところがあるし、今もその時の動きを再現するようにパンチモーションを――




 ガッシャァァアアン!!



「……あっ」

「何やってんだよぉぉお!? 隼んんん!?」




 ――自身の前方に放ったせいで、エベレスト級のハードソフトが崩れ落ちてしまった。

ヤバい。白くてベタベタしたものまみれになっちゃった。

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