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これがアタシに課せられた責任だ!

未来のためにも、隼は決意する。

「ほーウ? ジェットアーマーを取り外せたのカ。だったらそれを寄越セ。今回ばかりはそれで勘弁してやろウ」


 アタシがタケゾーから取り外したジェットアーマーを掲げると、それを見たデザイアガルダはニヤつきながら語り掛けてきた。

 『今回はそれで勘弁してやろう』などとのたまっているが、さっきまでアタシに散々ボコボコにされていた鳥がよく言えたものだ。

 だが、こちらも今は傷ついたままのタケゾーがいる。これ以上の勝負は得策ではない。


「本当にあんたの狙いはこのジェットアーマーだけなんだね? これさえあれば、タケゾーのことは狙わないんだね?」

「あア。それについては約束してやろウ」


 デザイアガルダもジェットアーマーしか狙っていないのは確かだ。

 その言葉を全部信じるわけではないが、ここでアタシが渡してしまえば、今回はこれにて終焉となるかもしれない。

 仮にそうならなかったとしても、アタシがタケゾーを連れて逃げ出すだけの隙は作れる。




 ――だけど、こんなクソ野郎にジェットアーマーを渡す気にはなれない。




「悪いんだけど、あんたにジェットアーマーは渡さないよ。んぎぎぎ……!」

「お、おイ!? 何をする気ダ!?」


 アタシは眼前に構えていたジェットアーマーを両手で挟み込み、全力で圧し潰しにかかる。

 いくら高い防御力を持っていても、これまで以上のパワーで万力のように締め上げることで、ジェットアーマーも嫌な音を上げて軋み始める。

 このジェットアーマーはアタシの亡くなった両親が開発し、タケゾー父も携わっていたものだ。おいそれと壊していいものではないことは、アタシも十分に理解している。

 それでも、今ここでデザイアガルダにこれを渡してしまえば、タケゾーのような被害者がまた出てしまう。

 その機能を実際に体感したアタシからしてみても、今のままでは期待よりも脅威としての側面が強い。


 ――ならば、まだこのプロトタイプ一着をアタシの手で破壊して、最悪の事態だけは回避してみせる。


「ふんぐぐぐ……うらぁあああ!!」

「や、やめロォォオオ!?」



 バギィィイイン!!



 制止を促すデザイアガルダの声も聞かず、アタシはジェットアーマーを完全に粉砕した。

 辺りに壊れたパーツが散らばり、もう修復不能だというのは一目瞭然。アタシとしても、両親の遺してくれた開発物を自らの手で台無しにするのは心苦しかった。


 それでも、間違ったことをしたとは思っていない。

 どんな強大な力も、使い方次第で毒にも薬にもなる。アタシ達技術者にできることは、その科学力を毒としないことだ。

 星皇社長も述べていた安全性のように、高度な科学技術の結晶には相応の危険も付きまとう。

 だからこそ、手にした技術が世にとって毒になりそうな時には、それを葬り去る必要だって出てくる。




 ――科学の発展には責任が伴う。それこそがアタシも両親から受け継いだ、技術者としての信念だ。




「ハァ、ハァ……! これで、あんたのお望みの品はなくなったねぇ」

「な……なんてことをしてくれたんダァァアア!? あのジェットアーマーの価値を……分かっているのカァァアア!?」

「ああ、分かってるさ。分かってるからこそ、アタシの手で破壊させてもらった」


 アタシの両親が作ったものが毒となりかけているのならば、娘のアタシが止めなければいけない。

 どれだけ凄まじい技術の結晶であっても、アタシは両親から受け継いだ信念に従い、ジェットアーマーを破壊した。

 それを見たデザイアガルダは怒りを露にし、アタシにこれでもかと怒鳴りつけてくる。

 自らの目的を目の前で台無しにされたのだ。怒らないわけがない。


「もう許せン! 貴様をこの場で葬り、もう二度とワシの邪魔などできぬようにしてやるゾォオオ!!」

「やってみなよ。アタシもあんたのことだけは、どれだけ謝っても許せないからね……!」


 ただ、怒りを抑えきれないのはアタシも同じだ。

 タケゾー父を殺し、タケゾーをも巻き込んだこの忌々しい害鳥を、もうこれ以上放っておくわけにはいかない。

 ジェットアーマーが破壊されたことで、その矛先はアタシにだけ向いてくれているし、こちらもロッドを用意して臨戦態勢に入る。

 この怒りようだと、タケゾーを狙わずに、アタシだけを狙ってくれそうだ。

 こちらも過剰な生体コイルの稼働でかなり体力的にきつくはあるが、もうここで勝負を決めて――




 バギュゥウン!



「ゲガァ!? ガァ……!?」

「え!? な、何!?」




 ――そう思って睨み合っていた矢先、突如デザイアガルダが空中で苦しみ始めた。

 よく見ると、翼の一ヶ所から出血している。この状況はアタシも以前にその身で味わったことがある。

 デザイアガルダの翼を、どこからともなくスナイパーが狙撃したと見える。


「ラ、ラルカの奴メ……! ワシに撤退しろとでも言うのカ!? 今度をワシを撃ってまで――」



 バギュゥウン!



「ゲグアァ!? わ、分かっタ! ここは引き下がル! くソ! どうしてワシが撃たれねばならんのダ!?」


 さらにはデザイアガルダにもう一発の銃弾が食い込み、向こうも向こうで状況が分からぬまま、アタシ達の前から飛び去って行った。

 アタシには尚更状況が吞み込めない。とりあえず、ラルカって人の命令でデザイアガルダも引き下がったってこと?

 この間はアタシを狙い撃ってきたのに、よく分からない人だ。相変わらずその姿も見当たらないし、謎過ぎてデザイアガルダのようなバケモノよりも怖い。


「……フゥー。でも、これでいったん危機は去ったかねぇ」

「なあ……空鳥。これは一体、どういうことなんだ……? そもそも、どうしてお前が空色の魔女をやってて……?」


 アタシにも状況を完全には理解できないが、これでデザイアガルダの脅威がひとまず去ったことだけは確かだ。

 だが、今度は別の問題が出てくる。その一部始終を見ていたタケゾーが、アタシへと尋ねてきた。


「教えてくれ……空鳥。お前の置かれている状況も、親父の死に関する真相も全部――」

「ごめん、タケゾー。アタシの口からは、もう何も言えないや……」


 それでも、アタシにはその質問に答えることができない。答える資格があるとは思えない。

 結局、空色の魔女(アタシ)の存在がタケゾーを危険に巻き込んでしまっている。

 今回の件だって、アタシがいなければここまで問題がこじれることもなかった。


 タケゾー父が亡くなることも、タケゾーが利用されることも、ジェットアーマーを破壊することも、全てはアタシが空色の魔女だから起こってしまった悲劇。

 前から思っていたことだが、やっぱり空色の魔女の存在は周囲の人々を不幸にしてしまう。




 ――そう考えずにはいられず、その正体もタケゾーに知られてしまった今、アタシにはもう語れることなどない。

 たとえ、タケゾーがアタシに惚れていたとしてもだ。




「……タケゾー。アタシもあんたのことは大好きだった。だけど、もうこれでお別れにしよっか。アタシにはあの怪鳥を倒す役目があるけど、タケゾーはもっと別の道を選びなよ?」

「ま、待てよ!? 何を言ってるんだ、空鳥!?」

「ああ、最後に一つ。惚れた女の名前を呼ぶなら、苗字じゃなくて下の名前で呼びな。そんなんだから、気付いてすらもらえないんだよ?」


 もうアタシにはタケゾーの顔をまともに見ることもできない。もうアタシはタケゾーの傍にはいれない。

 だって、これ以上アタシが傍にいたら、タケゾーがまた危険な目に遭っちゃうのよ? そんなこと、アタシはもう耐えられない。




 ――アタシだって、タケゾーのことが好きなんだ。

 今更自らのその気持ちに気づいても、遅すぎたけどね。




「アタシなんかより、もっといい彼女を作りなよ? そいじゃ……アディオス」

「ほ、本当に待ってくれ! 空鳥――い、いや! 隼!」


 アタシはタケゾーに背を向けたままロッドに腰かけ、夜空へと飛び立っていく。

 タケゾーの奴はそんなアタシのことを必死に呼び止め、律儀にも言われた通りにアタシを下の名前で呼んでくれる。


 ――本当にアタシのことが好きだって証なんだろうけど、それももうおしまいさ。

 堪えきれない涙を静かに流しながら、アタシは逃げ去るように空を飛ぶ。




 ――空色のサイエンスウィッチには、やはり孤独がお似合いか。

魔女は自ら孤独を選び、親しき者をも遠ざける。

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