アタシの能力は助けるためにあるんだよ!
超一流な清掃用務員の先輩が大ピンチ!
「お、落ちてしまいます……! た、助けて……ください……!」
「あ、洗居さん!? ヤバいって!? 落ちる寸前じゃん!?」
アタシの目線の先にいたのは、ソニックブームで崩れ落ちた外壁にしがみつく洗居さんの姿。
必死にしがみついてはいるが、もう今にも落ちそうだ。あの高さから落ちれば無事では済まない。
――アタシのせいだ。
アタシがソニックブームを回避したせいで、洗居さんが命の危機にさらされている。
バシィンッ!
「つうぅ!?」
「よそ見をしてる場合カ? 魔女の小娘ガァ! この宝石は頂いていくゾ!」
そんな洗居さんのピンチに動揺して、巨大怪鳥のことが頭から抜けていた。
アタシが持っていた宝石袋は、再度奪われてしまう。
「チイィ!? 手癖の悪い鳥なこった!」
「どうしタ? 奪い返すカ? だが、ワシとて暇ではないからナァ!」
巨大怪鳥はアタシに少しだけ言い残すと、背を向けて逃げようとする。
今から追えばまだ間に合うが――
「そんなことしてる暇……こっちにだってないってのぉお!!」
――アタシは後を追わず、百貨店の方向へと迷わず飛んでいく。
盗まれた宝石はどうするかって? そんなことを考えている場合じゃない。
アタシのせいで、洗居さんが今にも転落死しそうなんだ。それを助ける方が優先だ。
超一流の清掃用務員だなんて呼ばれて、清掃魂とかの変な造語を使ってて、こっちが心配になるほどの真面目気質で、アタシに仕事を教えてくれて、空色の魔女には不信感を抱いている。
そうやって思うことは色々とあるが、それらは今この状況で、アタシを突き動かす要因とはならない。それらは何一つ関係ない。
――人の命より、重いものなどあるものか。
アタシは人を救うために、こうして空色の魔女になったんだ。
「も、もうダメです……!」
「洗居さぁぁああん!!」
洗居さんはとっくに限界だ。もう指先が滑り落ちつつある。
アタシの頭の中の方も、洗居さんを救い出すことしか考えられない。
とにかく全速力でロッドを飛ばし、洗居さんのもとへと急ぐ――
ズルッ――
――ガシィ!
「ううぅ!? ……あ、あれ? 落ちてないのですか……?」
「よ、よかった! 間に合った!」
――そして間一髪、洗居さんが滑り落ちたところで、アタシはその体をキャッチすることができた。
本当にギリギリのタイミング。コンマ一秒でも遅れていたら、洗居さんはそのまま地面に真っ逆さまだった。
そもそもの原因は、アタシが迂闊に巨大怪鳥のソニックブームを回避したせいだ。
もっと注意を払っていれば、洗居さんがこんな危険な目に遭うこともなかった。
――アタシのせいで、洗居さんを死なせてしまうところだった。
「あ、あなたは確か、空色の魔女様でしたか?」
「ああ、そうだよ! アタシのせいで危険な目に遭わせちゃって、本当にごめんね! 洗居さん!」
洗居さんはアタシに抱えられたまま、目を丸くして驚いている。なんだか、理解が追い付かないって感じ。
そりゃそうか。洗居さんからしてみれば、こうやって空を飛ぶのだって初めてだ。
しかも噂の空色の魔女本人が登場してるし、思考回路は情報過多でショート寸前だろうね。
「ほい! お待たせ! もう地上に降りたから大丈夫さ!」
「あ、ありがとうございます……」
そうこうしているうちに、アタシはロッドの高度をゆっくりと落して、洗居さんを地上へと降ろす。
これで大丈夫。宝石は巨大怪鳥に盗まれちゃったけど、人の命には代えられない。
洗居さんは相変わらず目を丸くしたまま、アタシのことを見つめてくる。
まあ、怪我はないみたいだし、時間が経てば落ち着くでしょ。
「あ、洗居さん! 無事だったんですか!?」
「あなたは……確か、タケゾーさんでしたか」
「げっ!? タケゾー!?」
洗居さんの無事に安心していると、遠くからタケゾーの声が聞こえてきた。
そういえば、タケゾーも百貨店にいたんだったね。元気よく走ってるし、あっちも無事でよかった。
「タケゾーさんって……。まったく、空鳥の奴が変なあだ名をつけるから……!」
「私は無事です。一時はどうなることかと思いましたが、こちらの空色の魔女様が助けてくださりました」
「うおっ!? 本当に本物の空色の魔女だったのか! 俺もパニくってるけど、知り合いを助けてくれてありがとうな!」
「イ、イエイエ~。この程度のことなら、お気になさらずに~」
無事なのはよかったが、今の姿でタケゾーと一緒にいるのはマズい。
こいつはアタシの幼馴染だ。何かの拍子で空色の魔女の正体がバレかねない。
今は気付いてないようだが、そうそう長居されるわけにも――
「そ、そうだ! 洗居さん! 空鳥はどこに行ったか知りませんか!?」
「そ、空鳥さん……ですか?」
「ああ! 洗居さんを助けに行くって言って、俺と逃げる途中で別れたんだけど、どこにも見当たらなくて……!」
「……そ、そうですか。残念ながら、私も知りません」
「クッソォ! あいつの身に何かあったんじゃないだろうな!? 俺、もう一回探してきます!」
――そうやって懸念していると、タケゾーは再びどこかへ走っていってしまった。
どうやら、アタシを探しているらしい。まあ、そのアタシはここにいるんだけど。
でも、これはアタシ=空色の魔女だって、バレてないってことだね。そこは安心だ。
能力が強大なだけに、身バレしちゃうと面倒なしがらみが増えて嫌だし。
――アタシはただ、やりたいからヒーロー活動をしているだけなのだ。
「……まあ、後のことは警察とかにお願いするしかないっしょ。そいじゃ、アタシはこれで失礼するね! アディオッス!」
「……あの、待ってくれませんか? 私はどうしても、あなたにお尋ねしたいことがあります」
「へ? 尋ねたいこと?」
タケゾーの目も誤魔化せたことだし、これ以上アタシができることはなさそうだ。
それよりも、今度は空鳥 隼として、タケゾーに会う必要もある。このまま心配させるわけにもいかないよね。
そんなわけで、一度空を飛んでこの場を離れようとしたのだが、洗居さんに呼び止められてしまう。
質問があるみたいだけど、何を聞く気なのかな?
もしかして、身元関係? それだったら、いくら洗居さんの要望でもノーセンキューだ。
それ以外の質問なら、答えられる範囲で答えるけど。
洗居さんには迷惑をかけたし、少しぐらいは話を聞いても――
「空鳥さんはどうして、そのような恰好で空色の魔女などと名乗り、こういった活動をしているのですか?」
「んっっげぇぇええ!!??」
空色の魔女の正体を見破っただと!?
清掃用務員って、スゲェ!




