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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
星皇カンパニー編・転
187/464

敵の本拠地を探ってみせる。

全ての謎を紐解く鍵は、星皇カンパニーに眠っている。

「タケゾー。星皇カンパニーの本社ビルまでは辿り着けそう?」

「なんとかな。バイクで向かう距離を猫の足で向かってるから、どうしても時間がかかるのは勘弁してくれ」


 アタシ達家族三人がいる工場から星皇カンパニー本社まではかなりの距離がある。

 気が付けば陽が暮れ始める時間になってしまったが、それでもタケゾーはウィッチキャットの操縦を続けてくれる。

 タケゾーの額にもVRゴーグル越しに汗が見える。長距離の操縦だけでなく、この緊迫した状況だ。無理もない。


「そっちはどうだ? 工場の周囲に怪しい動きはあるか?」

「いや、今のところは大丈夫。特に誰かが近寄ってる気配もないね」

「ボクも外見てる。だけど、今は誰もいない」


 アタシ達がいる工場も工場で、敵の攻撃に怯えながら警戒は続けている。

 星皇カンパニーサイドのラルカさんには増援がいるともタケゾーから聞いている。それがどんな戦力かも、どう動いてくるかも分からない。

 アタシが作った要塞システムによる監視だけでなく、ショーちゃんもベランダから外を見て確認してくれる。

 電子と肉眼による二重監視体制。これぐらいのことをしても安心などできない。


 以前ラルカさんはショーちゃんを誘拐する時、恐ろしほど鮮やかな手口で作戦を遂行させていた。

 タケゾーの話をまとめる限り、ラルカさんは相当な訓練を積んだ工作員だ。

 そんな人間がこちらに牙を剥くことを考えると、石橋を叩き過ぎるということはない。




「……ようやく見えてきたな。星皇カンパニーの本社ビルだ」

「以前に見た時とは違い、異様に不気味に見えるね……」




 時間はかかってしまったが、タケゾーが操縦するウィッチキャットも目的地へと到着した。

 少し前にタケゾーとデート感覚で訪問したはずなのに、今画面上にも映るビルの光景は、どこか物々しさを感じてしまう。

 夕闇が迫っていることと、アタシ達の今回の目的。それらがこの異様さを感じさせているのだろう。


 ――いや、どうにもそれだけではなさそうだ。


「ねえ、ちょっとおかしくない? ビルの窓に全然明かりが灯ってないんだけど?」

「本当だな……。定時の時間帯だから全員退社した……ってのもおかしいよな?」


 目的地である星皇カンパニーの本社ビルなのだが、窓から全く明かりが見えてこない。

 定時だから? 実は休業日? そんな単純な理由でないことは、アタシも直感的に理解できる。


 ――どちらかというと、ラルカさんがこちらの動きを察知し、待ち構えるために本社ビルを要塞化させたような感じだ。


「これはどうにも、敵さんも本気って感じだねぇ……!」

「まさに猫の子一匹通さないって感じだな。このウィッチキャットでも、かなり用心して侵入した方がいいな」


 タケゾーもアタシと同じように敵の本気を垣間見て、ビルから少し離れたところで侵入経路を探し始める。

 入口近辺も少し見えるが、そこにもやはり明かりは灯っていない。それどころか、受付や警備員室に誰の姿も見えない。


 ――だからといって、不用心というわけでもない。

 むしろ、完全にアタシ達が来ることを予測し、ラルカさんが全力で戦う準備をしているように見える。


「……地下からの換気口があるな。ここから侵入できそうだ」


 侵入経路を探していると、タケゾーが地下から伸びる換気口を見つけてくれた。

 ここならば監視カメラといった警備システムもない。猫の子一匹ぐらいならバレずに入れそうだ。


「……よし、タケゾー。そこから地下に侵入してみて」

「分かった。慎重に行くぞ」


 経路が決まったとはいえ、油断などできない。

 タケゾーはコントローラーを慎重に操作しながら、星皇カンパニーの地下へと侵入していく――





「やけに殺風景な廊下だな……」

「誰の姿も見当たらないし、ここも非常灯以外に明かりは灯ってないね……」


 ――そうして侵入した地下なのだが、どうにも不気味な気配がビンビンだ。

 人もいなければ明かりもない。外から見た光景と同じだが、この地下フロアは一層物々しいものを感じてしまう。

 廊下の先には一つだけ部屋へと通じる扉が見えるが、その扉もかなり厳重なセキュリティがかかっているように見える。

 それこそまるで『公にできない極秘研究室』とでもいった雰囲気だ。


「この扉の先に何かありそうではあるな。隼、どうにか突破できないか?」

「アタシがその場にいればいくらか方法はあるんだけど、ウィッチキャット越しじゃ厳しいかね……。だけど、この部屋に何かありそうなのはアタシも同感だ」


 そんな極秘研究室らしき部屋がどうしても気になるが、正面からの侵入は難しい。

 アタシやタケゾーの直感でしかないが、この扉の先に星皇社長の目的が眠っているような気がする。


 これだけ厳重なセキュリティで守られ、誰も寄せ付けないような雰囲気を漂わせる部屋。

 その異様な雰囲気が、星皇社長が大凍亜連合を使い、パンドラの箱をも狙った理由が眠っている可能性を一層匂わせてくる。

 どうにかして、別の経路で侵入できればいいのだが――




「……どうやら、本当に文字通りの泥棒猫が侵入したようですね。外部からの侵入経路をあえて絞っておいて正解でしたか」


「え!? だ、誰!?」

「この声……まさか!?」




 ――そうやって別ルートを探していると、突如ウィッチキャットの視界映像の高度が上がる。

 それはまるで、誰かに持ち上げられたような上がり方。そして、同時に聞こえてきた女性の声は――




「そちらにこちらの姿や声は届いているのでしょう? よろしければ、そちらの声もお聞かせ願えませんか? ……ミス空鳥とそのご家族の皆様」


「ラルカ……ゼノアーク……!?」




 ――その疑問に答えるように、ウィッチキャットの眼前にその女性の姿が映し出された。

 それはいつものパンツスーツ姿ではなく、紺コートを着て暗躍していた時の姿。だが、フードは外されているので顔はよく確認できる。


 ――ラルカ・ゼノアーク。

 星皇社長の秘書にして、これまでアタシ達のことを陰からつけ狙っていた人物の正体。そして、牙島と同じウォリアールという軍事国家の一員。

 まるでこちらの行動を読んでいたかのように、ウィッチキャットの向こうにアタシ達がいることもバレている。


 ――こちらの行動どころか、こうやって侵入してくることまでもお見通しだったということか。流石にこういう工作に関しては敵が一枚上手だ。

 こうなってしまった以上、こちらも猫のフリでやり過ごすことはできないか。

 アタシもタケゾーとショーちゃんに目配せしながら了解を取り、ウィッチキャットの発声機能のスイッチを入れる。


「……どうも、ゼノアークさん。いや、ラルカさんとお呼びした方がいいのかな?」

「その声はミス空鳥ですか。こんな精巧なスパイキャットマシンまで作り、当星皇カンパニーまでようこそおいでくださいました」

「コソコソロボット越しに侵入してきた相手に対し、随分と余裕を見せるもんだね? まあ、今はお互いに手出しはできないか」


 アタシがウィッチキャット越しに声を発すると、ラルカさんもウィッチキャットを掴みながら、淡々とした調子で言葉を返してくる。

 映像を見た感じ、ラルカさんはウィッチキャットの首根っこを持ち上げて捕まえてるのか。こちらに向ける目線も今まで以上に冷たい。


 ――それこそ、タケゾーが言っていた通りだ。

 今のラルカさんの姿は社長秘書なんて高貴な身分じゃない。完全に殺し屋といった雰囲気を映像越しにでも感じてしまう。

 研ぎ澄まされた冷たいナイフ。そんな比喩がこれ以上に相応しい人間など見たことがない。


「そちらの顔色が伺えないのは残念ですが、丁度いい機会です。あなた方とお話ししたい人が今自分の近くにいますので、そちらとお話してもらいましょうか」

「ア、アタシ達と話したい人? それってまさか――」


 そんな緊張するアタシ達の様子を、ラルカさんからは見ることなどできない。いや、見えていたとしても関係はないのだろう。

 ウィッチキャットの首根っこを掴んだまま、自身とは違う人物へその目線を変えてくるが――




「……空鳥さん。やはり、あなたは私の障害となって立ちはだかるみたいね……」

「せ、星皇社長……」

完全に敵対した中で、カメラ越しの対面となる。

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