タケゾー「嫁が我が家のライフラインを一人で確立した」
正義のヒーローなのか、はたまた悪のマッドサイエンティストなのか。
「青陽発電!? やっぱりこの青い太陽って、核融合発電なのか!?」
「まあ、実際の理論で作るものとは、少し違うけどね。アタシの細胞があるからこそできた、お手軽家庭版ってとこさ」
工場の地下室に隼が作り出した、我が家の財政難を解決する秘策。それは『家庭用発電機を作り、電気代を賄う』という方法だった。
ただ、そのために作り出した発電機というのが、隼の細胞を使って作り出した核融合炉。
隼はサラッと『お手軽家庭版』などと言ってるが、核融合という時点でお手軽でも家庭用でもない。
どこの世界に家庭の電気を賄うために、核融合炉を作り出す奥さんがいるというのだろうか?
――おそらく、我が家以外にはないだろう。
「これ、太陽と一緒なの? お家の地下にあって、大丈夫?」
「そこはアタシもしっかり安全性を計算してあるさ。少しでも異常が生じれば核融合は停止するし、放射能の影響なんてものものない。もしかすると、一般家庭の非常用発電機よりも安全かもね」
「本当に純粋な技術だけ見れば、ありえないレベルで優秀だよな……」
そんな隼のお手製核融合発電――通称、青陽発電なのだが、安全面に関しても問題はクリアしているようだ。
空色の魔女になった時は自らのとんでも研究物からのミスでイレギュラーなパワーを手に入れたが、今回は俺やショーちゃんも関わっているからか、隼もそこは徹底して安全意識を高めてくれたようだ。
タブレットを手に取りながら軽く説明を交えてくれるが、色々な数値が余裕で安全レベルをクリアしているのだけは分かる。
――普段からこれぐらい、自分の身も労わって欲しいものだ。
「さらには雨水を貯え、青陽発電の電力でろ過システムを起動。水道代の削減にも成功したよ。電気も水道も、すでに工場備え付けのシステムと連結させて、問題なく使えるところまで立証済みさ」
「それってもう、この地下室のシステムだけで工場のライフラインを賄いきれてないか?」
「ネット回線や食料備蓄とかはできてないけど、いざという時はこの工場だけでもある程度凌げるだろねぇ。てか、疑似的な太陽があるんだから、この部屋で植物栽培なんてことも――」
「要塞システムといい、いつの日かこの工場だけで全部の生活を完結させる日が来そうだ……」
発電機以外にも水道用のシステムまで隼は作り出したらしく、もう俺には雲の上の話過ぎてついていけない。
ただ、隼も我が家の財政難のために、ここまでやってくれたことは素直にありがたい。やってるレベルは意味不明だが、隼の技術力自体は純粋に頼りになる。
これで電気代や水道代を大幅に浮かせられるのなら、赤字の家計簿と睨み合う必要もなくなるだろう。
やはり、隼に相談して正解だった。
――こんなとんでも技術な結末、全く予想できなかったけど。
「ハッ……そうだ! どうせなら、この家庭用ライフラインシステムを売り出せば、ひと儲けできんじゃね!?」
「この発電機とか、他の人にも売るの? みんな、大喜びしそう」
隼はこういう技術的な話になると、それこそ目を輝かせて次々にアイデアを湧かせていく。
今回作ったこの核融合発電や雨水ろ過装置も気に入ったのか、それを売り出して商売にしようとも考え始めた。
ショーちゃんもノリノリだし、事実こんなシステムが一般家庭へと売り出されれば、大いに普及することだろう。
「でもそうなると、今のシステムじゃ大きすぎるか。サイズはもっと小型化して、一般家庭の給湯器サイズに――」
「あー……隼? 色々と捗ってるところ悪いんだが、そのアイデアはやめた方がいいと思うぞ?」
「へ? なんでさ? このシステムがあれば、家庭の電気水道代問題なんて、一気に解決するよ? 需要あるよ?」
「まあ、需要があるのは分かる。だけど、少し考えなおしてくれ」
隼は商品化目指してさらなる改良を考察しているが、これは俺も待ったをかけざるを得ない。
別に隼の技術力を信用してないわけじゃない。これを普及させれば、世間的にも大助かりなのは分かる。
ただ、ある一点がこのシステムの大問題なわけで――
「メインの核融合発電だが、そもそも隼の空色の魔女としての能力を持った細胞を使ってるんだろ? そんなものを世間にどう売り出すつもりだ?」
「……あっ」
――このシステムの根幹となる青陽発電。これは隼の細胞があるからこそ成立しているものだ。
もしもこれを世間に売り出せば、空色の魔女の事実までもが世間に流出してしまう。
そもそもの話、俺も奥さんの細胞を売り出すような真似はしたくない。
「……ごめん。これでひと儲けはできそうにないや……」
「分かってくれればそれでいい。ただ、我が家の経費を浮かせてくれたことには感謝してる。……ありがとな、マヌケな科学者奥様」
「ちょっと言葉に棘がないかな!? いやまあ、アタシも浮かれちゃってたのはあるけど……」
ひと儲けなどとおいしい話まではいかなかったが、これで我が家の財政難は乗り越えられそうだ。
隼にも感謝と小馬鹿を交えた言葉を述べると、驚愕と反省が入り混じった表情で返事をされる。
――こういうやりとりをしていると、なんだか『平和な日常だな~』って感じがして悪い気はしない。
やはり、隼はこうやって明るくもどこか抜けている姿が一番隼らしい。俺は今後もブレーキ役になる必要がありそうだけど。
「さてと。ひとまずは問題も解決したことだし、二人は先に風呂に入っててくれ。ちょっと俺の方でやることがあるから、夕食は遅くなるけど構わないか?」
「それは構わないけど、タケゾーも何かやることがあんの?」
「仕事のことでな。明日、保育園で催し物があるんだよ。そのための準備やら何やらもあってさ」
家計のことで問題が解決しても、俺のやることが特別変わるわけでもない。
明日は保育園での催し物もあるし、そのための資料をカバンから取り出しながら少し目を通す。
隼がこうして家計を支える策を用意してくれたのだから、俺も仕事の方を頑張らないといけない。
余裕ができたら、家族旅行なんてのもいいだろう。そのための貯蓄だって必要だ。
「保育園で催し物? 何をやるのさ?」
「まあ、保護者の家族と保育園の職員も交えた、交流会みたいなものさ。園長も思い付きで始めるみたいでさ」
「思い付きで交流会とは、随分とアグレッシブな保育園なもんだ。……アタシも最近は全然顔を出せてなかったし、ちょっと覗いてみたいかな?」
「何だったら来るか? 隼だったら、俺が少し口利きすれば問題ないだろ」
「え? いいの? だったら、ショーちゃんと一緒にお邪魔しようかねぇ」
俺が明日の仕事の資料に目を通していると、隼も興味津々といった様子でこちらに尋ねてくる。
隼もいったんは仕事を休んで負担を減らすため、保育園の依頼にも対応できずにいた。
それで時間ができたのはいいのだが、隼自身は園児達と会えないことに寂しさを覚えていると見える。
こいつはなんだかんだで子供好きで、子供からも好かれている。
仕事ではないが、隼が顔を出せば園児達も喜ぶだろう。
「アタシとタケゾーが結婚してから保育園に行くのって、初めてじゃなかったっけ? いやー、どんな反応をされるんだろねぇ」
「……あっ。そういえばそうだった……」
園児達は喜ぶだろうが、俺は質問攻めにあう気配がビンビンだ。
園児達が目を輝かせながら俺と隼の結婚の経緯を尋ねる光景が、今からでも目に浮かんでしまう。
そして、久々の保育園へ。