決勝戦メンバーが決まった!
いざ! ベストメイディストショーの決勝戦へ!
「さあさあ! 参加者の皆様もギャラリーの皆様も、盛り上がり中のところ失礼いたします! ただいまより、ベストメイディストショー決勝進出者を発表したいと思います!」
そうこう会場内で色々盛り上がっていると、設置されていた特設ステージから司会者がマイクを片手に声をかけてきた。
どうやら、ベストメイディストショーにおける決勝進出者が出揃ったようだ。結局、どういう採点基準かは分かんなかったけど。
「決勝進出、できなかった。残念」
「まあ、仕方ないさねぇ。アタシ達も飛び入り参加だったからねぇ」
決勝進出者はすでにステージ上に移っているため、ステージ外にいるショーちゃんとアタシはすでに予選敗退組だ。
少し残念ではあるが、参加することが目的だったからね。何より、決勝進出者が強すぎる。
「まずはこのお方! ベストメイディストショーの歴史において颯爽と輝くクイーン! 超一流の清掃用務員でもあられる洗居選手です!」
「ご紹介にあずかりました洗居です。今回も決勝進出できたこと、恐悦至極に存じます」
まずは一人目。やはりと言うべきか洗居さんだ。
もうなんだか、洗居さんの決勝進出は採点基準不明でも納得できてしまう。だって、一人だけガチメイドのオーラが違うもん。
会場も湧きたってるし、前評判通りといったところか。
「そして次はこのお方! 洗居選手とは幾度も激戦を交えた、海外出身の本職シスター! フェリア選手です!」
「どうも~、フェリアです~。今回こそは~、洗居さんにも負けませんよ~」
そして二人目。こちらも予想通りのフェリアさんだ。
フェリアさんについても納得の結果だろう。この業界でも洗居さんと同格に位置してるみたいだし、この人もこの人でオーラを感じる。
洗居さんとは対になるタイプだが、これも順当といったところか。
洗居さんとフェリアさんの二人が残ったのは、アタシも素人目に納得できる。
ただ、決勝進出したのはもう一人いるわけで――
「最後に三人目! 今大会のダークホースとなり得る、子供に優しきミニスカ美男子メイド! 赤原選手です!」
「誰か俺を……殺してくれ……!」
――何故かタケゾーが決勝に残った。
奥さんのアタシと息子のショーちゃんを抑え、旦那のタケゾーが決勝進出してしまった。
華やかな女性メイド二人の横で、顔を真っ赤にして恥ずかしがる男性メイドが一人紛れ込んでいる。ただ、見た目に違和感がないのは恐ろしい。
これに関してなのだが、どうやら迷子の子供を率先して慰め、母親探しをしていた姿が評価ポイントになったようだ。
後、これで男ってところも。ギャラリーもそのギャップに萌えてしまい、こうして決勝の舞台にまで上がってしまったらしい。
「これって、アタシは嫁として喜んでいいもんかねぇ? タケゾーの奴、顔真っ赤にして死にそうじゃん」
「ボクは嬉しい。武蔵さん、もっと誇るべき」
「いやー、まあ……ここまでの結果になると、色々と複雑かな?」
洗居さんにフェリアさんというコスプレ界隈歴戦の猛者と並ぶ、我らが一家の父タケゾー。
凄いことは凄いことなんだろうけど、どうにも複雑な気分だ。
――ぶっちゃけ、なんか悔しい。
「決勝は参加者やギャラリーの皆様の投票にて行います! しばしの休憩を挟んだ後に投票の場を設けますので、皆様こぞってご参加ください!」
ステージの上で司会者が今後のスケジュールを説明すると、いったんはイベントに休憩が挟まれた。
洗居さんにフェリアさんにタケゾーといった決勝戦メンバーもステージを降りて、アタシ達のもとへと戻ってくる。
――てか、決勝戦メンバーが全員アタシの知り合いじゃん。
タケゾーが含まれていることも大いにツッコミどころだけど、これはこれでそうそうたる光景と言うものか。
「まさか、タケゾーさんが残られるとは……。これは本当に、今大会のダークホースと言わざるを得ませんね」
「男の娘メイドも~、需要がありますからね~」
「需要とか言わないでください……! 俺、もうとにかく泣きたい……!」
「まあまあ、タケゾー。別に悪い話じゃないんだし、もっと自信を持ちなって」
戻ってきたタケゾーは相変わらず顔を押さえて恥ずかしがっているが、ここまで来るとアタシも背中を押すことと慰めることしかできない。
思えば、アタシのせいでタケゾーも予想外な決勝進出なんてしてしまったのだ。悔しさと同時に、罪悪感もこみ上げてくる。
さっきから周囲のギャラリーのカメラも向いてるし、これは流石にタケゾーがかわいそうになってくる。
――タケゾーの隠されたメイドクオリティを見抜けなかったアタシのミスでもある。そんなもの、見抜けるはずがないけど。
とりあえず、背中をさすって優しく扱ってあげよう。
「……遠目に見ていましたが、どうにも奇妙な光景ですね」
「あ、あれ? ゼノアークさん? なんでここに?」
そうやってタケゾーを慰めていると、アタシ達の方に頭を抱えながらゼノアークさんが歩み寄って来た。
まさか、この人もここにいたとはね。だけど、メイド服は着ていない。いつものパンツスーツ姿だ。
ベストメイディストショー自体には参加してなかったってことかな?
ゼノアークさんもスレンダーさと鋭いナイフのように洗練された容姿だから、参加すればいい線行ってたと思うんだけどね。もったいない。
「今回の自分の役目はフェリア様の護衛です。とは言っても、そこまで深く介入する気はありません」
「そういえば、フェリアさんって実は母国のお偉いさんだったっけ?」
「そのことですが、あちらのミス洗居には口外無用でお願いします。フェリア様はどうやら、ミス洗居に対しては身分も立場も関係ないお付き合いを望んでいるようです」
「……なんだか、またゼノアークさんに心労はかかってるみたいだね」
ただ、ゼノアークさんにはフェリアさんという母国のお偉いさんを護衛する役目があるので、イベント不参加も仕方がない。
てか、フェリアさんって本当は何者よ? 星皇カンパニーの社長秘書をしてるゼノアークさんが護衛の場にまで出てくるなんて、実際にただ者じゃないムーブが周囲にも見えるんだけど?
もしかすると、母国ウォリアールの王女殿下様とか? 実際にそうであってもおかしくないオーラみたいなのは感じるのよね。
そもそも、ウォリアールが王政なのかどうかも知らないけどさ。
「……それよりもフェリア様。少しお耳に入れていただきたいお話が……」
「ん~? ゼノアークさんが私にですか~? 何の話でしょうか~?」
そんなウォリアール王女殿下疑惑の出てきたフェリアさんへ、ゼノアークさんが何やら耳打ちを始める。
その姿を見ていても、やはり王女と女騎士って雰囲気を感じちゃうのよね。格好はメイド服とスーツだけどさ。
――それにしても、ゼノアークさんはこんなタイミングで何を耳打ちしたのだろう?
聞いちゃいけないんだけど、思わず聞きたくなっちゃう。
「……それでは、自分はこれにて失礼いたします。フェリア様もどうか、早急なご判断を」
「は、はい~……。分かりました~……」
何よりも気になるのは、ゼノアークさんの耳打ちを聞き終えた後のフェリアさんの様子だ。
どこからしくない、何かに迷うような表情。これは何か大変なことを聞かされたのではないだろうか?
――そう考えると、失礼と分かっていても事情を聞きたくなってしまう。
「ねえ、フェリアさん。何か悩みが出たのなら、アタシに話してみない?」
「え~……? 空鳥さんにですか~……?」
「そうそう。もうフェリアさんも知ってるだろうけど、アタシも裏ではちょいとした正義のヒーローとしての顔を持ってるからね。誰かが悩んでるのならば、そいつはアタシの出番ってもんだ」
お節介かもしれないが、ゼノアークさんが立ち去ったところでアタシは声をかけてみた。
内に眠る空色の魔女としての信念故か、それともアタシの性分なのか。いずれにせよ、フェリアさんが困っている姿は放っておけない。
フェリアさん達が参加するこのベストメイディストショーの決勝戦も控えてるし、アタシも憂いのない形でみんなに参加して欲しい。
そう思って、フェリアさんにも話を聞いてみたのだが――
「じ、実は~……ゼノアークさんから~……『早急にこの場を離れてください』と~、言われまして~……」
タケゾーの決勝進出、ゼノアークの警告。
事態は大きく動き始める。