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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
大凍亜連合編・承
166/464

何故か狂人に同情したくなる。

狂戦たる爬虫人類、牙島 竜登。

色々と面倒な立場にいるヴィラン。

「へ? あれ? やめちゃうの? あんたらしくもないね?」


 突然乱入したフェイクフォックスのせいで、戦いの空気さえも冷めてしまったこの状況。

 そんな空気に耐えられなかったかのように、牙島はアタシ達に構えるのをやめ、背中を向けて立ち去り始める。


「あんなぁ! こないなわけ分からん状況にされてもうて、まともにガチンコできると思うかぁ!? そもそも、なんであんさんが邪魔しはんのや!? あんさん、ワイらの計画には無関係を貫くはずでっしゃろ!?」

「そこの眼鏡女を怖がらせたからに決まってんだろ」

「あーあー、さいでっか! もうええわ! もう次の機会にするわ! せやけど覚えとけや、空色の魔女! 今回はワイも引き下がるけど、次はこうもいかへんでぇ!」

「グダグダ言ってねえで、帰るんならさっさと帰れ」

「フェ……イクフォックスはんはどっちの味方でっか!? もう嫌やわ! ワイはもう、帰って寝る!」


 牙島とフェイクフォックスの間でこれまた奇妙なやり取りはあったが、本当に牙島はアタシ達を見逃してくれた。

 あいつも『この状況の意味が分からない』といった様子だったけど、それはアタシ達からしても同じことだ。

 あの戦闘狂の牙島が一応は引き下がるだなんて、フェイクフォックスも何者よ?


 ――牙島の仲間ではあるっぽいけど、洗居さんを守るために動いたのはなんとなく分かる。

 たとえ仲間であっても、価値観としては『牙島<洗居さん』ってところか。


 ――なんだろう。不思議と牙島に同情したくなってくる。


「あー……えっと……。とりあえずはありがとうね。助かったや」

「フン、気にすんな。俺はそこの眼鏡女を助けたかっただけだ」

「洗居さんに相当お熱みたいだけど、あんたもあんたで何者よ? ……てか、背中なんか向けずに、洗居さんを見て話してみたら?」

「は……恥ずかしくてできない……!」

「……アタシも思考放棄したくなってきた」


 ともあれ、この自称ダークヒーロー、フェイクフォックスには助けられたってことか。

 アタシもお礼を述べてみるが、当のフェイクフォックスはそっぽを向いたまま腕組して、こちらを見ようとはしない。


 ――これ、絶対に中身はシャイボーイだね。

 洗居さんに惚れてることは、鈍いアタシからしても一目瞭然だ。


「フェイクフォックス様、この度はありがとうございました。よろしければ、そのお顔を拝見して直接お礼を言いたいのですが?」

「い、いらねえから! 俺に礼なんて不要だ! お、お前達もさっさとここから離れるんだな! 大凍亜連合がまた何するか分からねえぞ!?」

「そうですか……。寂しくはありますが、あなた様の雄姿は忘れません。また機会があれば、直接ご挨拶したいものです」

「だから、そういうのはいらねえっての! ともかく、あばよ!」


 そんなシャイボーイなフェイクフォックス君だが、結局は洗居さんに振り向くことなく走り去ってしまった。

 この状況、洗居さんをお姫様に例えて、結構距離が縮められそうなもんなんだけどね。

 別に顔も狐面で隠してるんだし、そこまで恥ずかしがる必要があるのかね? どんだけシャイなのさ。


「それにしても、洗居さんも思わぬ人気者だね」

「そこはまあ、構わないのですが……本当にあの方は何者だったのでしょうか? 空鳥さんやショーちゃんさんと近いものを感じましたが?」

「あー……やっぱそこは気になるよね。アタシも理解できないけど、多少の検討はつけられるかな……?」


 ひとまず落ち着きはしたのだが、フェイクフォックスのことは本当に謎だらけだ。

 ショーちゃんと同じような高周波ブレードを持っていたが、あっちのは居合の鞘走りは使わず、抜き身の状態で振動していた。

 同じ大凍亜連合絡みの技術かもしれないが、あっちの方がより高性能っぽい。

 そしてそれを扱い、牙島に挑みかかるだけの力量。その実力は常人の域を超えているのは間違いない。


 かと言って、大凍亜連合の一員とも考えづらい。牙島の仲間ではあるっぽいけど、そこにも妙な線引きを感じる。

 まあ、アタシから見てもヴィランではなさそうか。洗居さんのことを助けてくれたし、どっちかって言うとヒーローだよね。


 ――ダーク要素がどこにあるのか知らないけど。


「おっと、考え事は後にしよっか。大凍亜連合に嗅ぎ付けられると、色々と面倒だからね」

「では、空鳥さんとショーちゃんさんは先にお逃げください。私はまだここでの清掃業務(ミッション)があるので、また明日のイベントでお会いしましょう」

「あんなことがあったのに、また仕事に戻るんだ……」

「それが私の信念――清掃魂(セイソウル)です」


 フェイクフォックスのことは気になるけど、さっきの騒動で敵が集まると面倒だ。

 アタシとショーちゃんはドーム球場から飛び去り、洗居さんは仕事へと戻っていく。


 ――洗居さんも洗居さんで、相当な肝っ玉だよね。

 恐るべし、超一流の清掃用務員。





「――てなことがあったわけよ」

「ダークヒーロー、フェイクフォックスねぇ……。大凍亜連合だけでも大変なのに、また変なのが出てきたな……」


 その日はパトロールも終えて、アタシとショーちゃんは自宅へ帰った。

 夜になると仕事を終えたタケゾーと共に、その日にあったことを話してみる。


「あの牙島を退けるあたり、そのフェイクフォックスとかいう奴も相当な実力者なんだろうな」

「確かに実力者だろうけど、牙島よりも立場が上なのもあるだろうね。でなきゃ『洗居さんを守るため』なんて理由で、牙島が簡単に引き下がったりはしないさ」

「隼でも一目で分かるほど、あの洗居さんに惚れてるってことか」

「『隼でも』って何さ? アタシが鈍感だって言いたいわけ?」

「俺の十何年の想いに一向に気付かなかったのに?」

「……サーセン」


 大凍亜連合や牙島のことも気になるが、タケゾーも新たに登場したフェイクフォックスのことが気になるようだ。

 何より最大のチェックポイントは、洗居さんにホの字なのが一目瞭然であること。


 ――十何年と今の旦那様の想いに気付けなかったアタシが理解できるぐらいにはね。


「洗居さんに惚れてる奴か……。俺が思いつくのは、フェリアさんとかか?」

「いやいや、フェリアさんなわけないじゃん? フェイクフォックスは姿こそ隠してたけど、声とかでもハッキリ男って分かるのよ? フェリアさんみたいなガチ女性なわけないじゃん?」

「……まあ、そうなんだろうな」


 そんなフェイクフォックスの正体を名探偵タケゾーは推理しようとするも、なんとも見当違いな推理が飛び出てくる。

 まあ、確かにフェリアさんは洗居さんガチ勢と見える。だけど、それは百合的な話だ。百合的な話ってなんだ?


 ――とりあえず、女性のフェリアさんがフェイクフォックスの正体なはずがない。


「一番考えられるのは、コスプレイヤーとしての洗居さんのファンってところかねぇ」

「それでもって、洗居さんから明日のメイドコスプレイベントに隼達も招待されたと」

「そういうこと。調べてみたんだけど、メイド服は会場で貸してもらえるみたいだねぇ。だからさ、明日は家族みんなで参加してみない? アタシのメイド服姿、見たくない?」

「じゅ、隼のメイド服姿か……。それは見てみたい気もする……」

「……ムッツリタケゾー」

「何か言ったか?」

「イエ、ナニモ」


 フェイクフォックスも気になるけど、あの人は今のところ害がありそうには見えないから、放っておいても大丈夫だよね。

 裏で牙島と繋がってるっぽいけど、洗居さんのことがある限り、余計な危害を加えることなどない。


 それよりか今は、明日のイベントのことを考えよう。裏で大凍亜連合がイベント設営してるってのもあるし、そういう意味でも参加しておいた方が万が一の対策にもなる。

 でもまあ、純粋にイベントだけってならば、アタシも楽しむことを優先したい。

 家族の時間も作ってもらえたのだから、こういうところで息抜きぐらいしたいよね。


「ボクもメイド服着てみたい」

「ショーちゃんも? だけど、メイド服って女の人の服装だよ?」

「でも、かわいい。ボク、隼さんとお揃いにしたい」


 近くでテレビを見ていたショーちゃんも、明日のメイドイベントに乗り気のようだ。

 乗り気すぎて、自らもメイド服の着用を望んでいる。

 まあ、ショーちゃんも戸籍上は一応男の子だけど、人造人間としては性別なんてない感じだからね。

 それにショーちゃんみたいに小さくてかわいい男の子なら、メイド服もさぞ似合うことだろう。


 ――ヤバい。想像しただけで何かに目覚めそう。


「となると、俺は一人で見学ってことか」

「なんだかごめんね。アタシとショーちゃんだけで楽しむことになっちゃうかもだけど」

「全然構わないさ。嫁と子供が楽しんでくれるなら、俺もそれが一番だ」


 ただこうなってくると、タケゾーだけが仲間外れな感じになってしまう。

 タケゾーは笑顔で振るまってくれるけど、なんだかアタシは腑に落ちない。

 どうせだったら、タケゾーも本格的に参加できたらいいんだけど――




「……いや。どうせだったら、タケゾーも参加してみる?」

「……へ?」

その時、タケゾーの背中に悪寒が走る。

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