反社組織のトラックを追おう!
偶然とはいえ、敵の手掛かりが見つかったら追わずにはいられない!
空を飛んでいると後ろにいたショーちゃんが地上の方を指差し、アタシへと訴えかけてくれる。
その指差す先には三台ほど並んだトラックが見えるが、なんとそれらは大凍亜連合のトラックとのこと。
まさか大凍亜連合のことを考えていた矢先に、その大凍亜連合が動いている場面に出くわすとは。運命の赤い糸で繋がってでもいるのだろうか?
――凄く血生臭そうな赤い糸だけど。
「あのトラック、ボクも大凍亜連合のアジトにいた時に見た」
「こいつは……追ってみる必要があるかな?」
いずれにせよ、大凍亜連合の動きを見つけられたのはまたとないチャンスだ。
また何かを企んでいるのなら、こっちも調べておいて損はない。
■
「ここは……ドーム球場? そこにトラックなんか詰め込んで、野球大会でもするつもりなのかね?」
「野球大会なら、野球で勝負して大凍亜連合を倒す」
「……いや、アタシも冗談で言っただけだからね?」
そうして大凍亜連合のトラックをコッソリ追っていくと、大きなドーム球場の中へと入っていった。
思わず冗談で野球大会なんて言っちゃったけど、今はプロ野球もオフシーズン。場所だけ借りて、何かやるつもりなのだろうか?
とりあえず、迂闊に姿を見せるわけにはいかない。スコアボードの裏に隠れて、中の様子を伺ってみる。
「なんだか、舞台のセッティングをしてるのかな?」
「何の舞台? ヒーローショー?」
「本物のヒーローがここにいるんだけどね。だとしても、見た感じただのイベント設営って感じか」
その様子を見ながら思い出したのだが、確か大凍亜連合はイベント企画のフロント企業も経営してたんだっけ。
となると、これは本当にただイベント設営のために資材を搬入したってこと?
さっきから設置しているのはステージに照明といった、お約束の設備ばかりだ。
「イベント設営だったら、なんだか拍子抜けだねぇ。だけど、特にこれ以上調べることでもないか」
「そうですね。空鳥さんもあまり深入りせず、今日ぐらいはご自宅でゆっくりされるのが一番かと」
「洗居さんの言う通りだ。逐一大凍亜連合に構ってても、無関係な仕事にまで首を突っ込んで――ん?」
特に悪事の気配がないなら、アタシが無闇に首を突っ込む必要もなし。
そう思って退却しようとみんなに話してみたのだが、何かおかしな感覚が全速力で全身を駆け抜ける。
――いや『みんな』って誰よ? ここにはアタシとショーちゃんしかいないよね?
それなのに、アタシもよく聞き覚えのあるこの声は――
「あ、洗居さん!? どうしてここ――むぐぅ!?」
「大声は出さないほうがよろしいかと。私もまさか、空鳥さんがこちらに現れるとは思いませんでした」
――驚くことに洗居さんだった。
思わずアタシも大声で叫びそうになるが、そこは洗居さんがアタシの口を押さえて止めてくれる。
ちょっと息苦しいけど、アタシのせいで大凍亜連合に居場所がバレるわけにはいかない。洗居さん、マジ洗居さん。
「てか、どうして洗居さんもここに?」
「本日の清掃業務はこの球場のお掃除です。空鳥さんも休職がなければ、本日はこちらで清掃業務の予定でしたが、お忘れでしたか?」
「あっ……そうだった」
そんな洗居さんがここにいる理由だが、アタシとしたことが失念していた。この球場、予定ではアタシも清掃業務で今日来るはずだった場所じゃん。
その前日に休職しちゃったけど、それなら洗居さんがここにいる理由にも納得だ。
――そもそも休職したとはいえ、仕事の予定がすっぽ抜けてたアタシの方は問題だけどね。
「それにしても、明日のイベント設営は大凍亜連合が行っていたのですか……。私もそこまでは把握できていませんでしたね」
「明日のイベント? 洗居さんはここで何のイベントをやるか知ってるの?」
「ええ、存じております。明日このドーム球場では『ベストメイディストショー』が行われます」
「ベストメイ……なんて?」
「ベストメイディストショーです。メイドコスプレの大きな祭典になります。もちろん、私も出場します」
洗居さんは大凍亜連合が何のイベント設営をしているのかも語ってくれるが、ベストメイディストショーって何よ?
いや、メイドコスプレの祭典なのは分かったよ? でもさ、もうちょっと別のネーミングはなかったの?
――あっ。大凍亜連合の構成員が『ベストメイディストショー』と書かれた大きな看板を設置してる。
本当にそのネーミングで通すつもりなのか。それを大凍亜連合がやってるって、なんだかシュールな光景だ。
「なーんだか、完全にハズレを引いちゃった感じだねぇ」
「大凍亜連合、倒さないの? 悪い奴らだよ?」
「せっせと一般向けのイベント準備をしてるなら、アタシが邪魔をするのも野暮ってもんよ。一番の目的は『大凍亜連合を倒す』ことじゃなくて『みんなが普通の日常を送る』ことだからねぇ」
「なんだか深い。隼さん、渋い」
「……渋いって、何?」
何はともあれ、別にイベント設営程度ならアタシがここで邪魔することでもなし。
イベント運営は別の会社みたいだし、何か悪さをしているわけでもないのだろう。
「うーん……でも、一応は気にしておいた方がいいのかな? これまで深く大凍亜連合に関わったアタシからすると、このまま放置もしたくないかな? 明日ここでイベントをやるなら、人もたくさん集まるだろうし」
「それでしたら、空鳥さんも明日のベストメイディストショーに参加されてはいかがですか? 息抜きにもなりますし、万が一の警備もできて一石二鳥かと」
「え? 自由参加可能ってこと? それだったら、それもありかねぇ……」
とはいえ、用心に越したことがないのも事実だ。もう大凍亜連合が関わってるってだけで、アタシの第六感は悲鳴を上げてしまう。
そこで洗居さんから提案された、アタシのベストメイディストショーへの参加。確かにそれなら、自然とイベント参加者の中に紛れ込んで万一に備えられる。
大勢のメイドコスプレに紛れ込みながらなら、たとえ大凍亜連合の人間がいても、そう簡単にはバレないだろう。
「思えば、明日はタケゾーも仕事は休みか。だったら、家族三人でイベント参加なんてのもいいかもね」
「ボクも武蔵さんと一緒に見たい。隼さんのメイド、見たい」
「空鳥さんが参加されるとなると、今回のベストメイディストショーは波乱の予感ですね。これは私も負けられません……!」
「いや、アタシは別に優勝するのが目的じゃないからね?」
そんなこんなで、アタシは明日ここで行われるベストメイディストショーに参加することとなった。
タケゾーも一緒に連れて、家族みんなでイベントってのも楽しそうじゃん? 一度やってみたかったんだよね。
そうしてやることが決まったら、もうここに長居は不要。
アタシも大凍亜連合に見つかる前に、さっさと退散して――
「……なーんや話しとったみたいやが、ワイも見つけた以上は簡単に帰されへんなぁ……!」
――そう思った矢先、またしてもアタシ達の会話に割り込んでくる声が一つ。
これもまた聞き慣れた声だが、洗居さんのように洗居さんの声ではない。
この不気味で、どこか狂気を帯びたような関西弁は――
「き……牙島!?」
「総帥にこってりやられたとは聞いたが、もうピンピンしとるとはなぁ……!」
洗居さんと牙島って、どこにでも現れるのな。