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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
大凍亜連合編・承
161/464

魔女で在り続けるために決断した。

隼が背負うものは多くて重い。

だからこそ、どこかで取捨択一が必要となる。

「すみません~。ご家族の方々でのお話は~、終わりましたか~?」


 アタシにタケゾーにショーちゃん。家族三人での話し合いが一段落すると、部屋の扉の向こうからフェリアさんの声が聞こえてきた。

 思えば、フェリアさんにはこの場所を提供してもらったりで、迷惑をかけっぱなしだ。

 アタシもすぐに涙を拭い、部屋に入ってきてもらえるように準備しなきゃ。


「実は~、栗阿さんが空鳥さんのお話を聞いて~、今駆け付けてくれたのですが~」

「え? 洗居さんが? わ、分かった。入ってきてもらって」


 さらに驚くことに、なんと洗居さんまでもがここへやって来てくれたようだ。

 洗居さんとフェリアさんは親友の間柄だし、その洗居さんとアタシは上司部下の関係にある。わざわざ連絡を通してくれたのはありがたい。

 そんな洗居さんを無下にできるはずもないので、アタシも部屋に入ってもらうよう、ベッドの上からフェリアさんに声をかけてみる。


「空鳥さん!? よかった……ご無事でしたか……」

「洗居さん……。心配かけちゃってごめんね。なんだか、いつもアタシのせいで洗居さんにまで迷惑かけちゃって――」

「そこは気にすることではありません。私としても、空鳥さんの無事が第一ですから」


 洗居さんも部屋に入るや否やタケゾーやショーちゃんの時と同じく、アタシのことを心配してベッドの傍に駆け寄ってくれた。

 思えば、洗居さんにも迷惑をかけっぱなしだよね。


 職に困っていたアタシを雇い入れて、色々と仕事のことも教えてくれた。

 デザイアガルダと戦っていた時なんてアタシのせいで命の危機だったのに、その後もアタシのことを気遣って接してくれている。

 空色の魔女として急に仕事を抜けることになっても、嫌な顔一つせずに受け入れてくれる。


 ――本当にいい上司にも巡り合えたと思うが、同時にアタシの勝手でこれ以上振り回すのも申し訳なく感じちゃう。


「……隼、洗居さん。ちょっと俺から、話したいことがあるのですが」

「タケゾーさんからですか? 私は別に構いませんが……?」

「タケゾー……」


 アタシがそんな申し訳なさを感じていると、タケゾーはまるでそれを読み取ったような表情で話を切り出してきた。

 こういう時、タケゾーは本当にアタシの心を読んだような行動をとってくれる。その先の話の内容も、アタシは自ずと読み取ることができる。

 さっきもタケゾー達と話した、空色の魔女を続けたいというアタシの意志。

 それを叶えるためには、どこかでアタシの負担をこれまでより減らす必要があるが――




「洗居さんには申し訳ないのですが、隼にしばらくの間、仕事を休ませてはもらえませんか?」




 ――タケゾーは洗居さんに頭を下げ、アタシが思っていた通りの言葉を口にした。

 アタシも何足もワラジを履き続けるのは限界が来てると感じていた。それでも空色の魔女を続けるためには、どこかで折り合いをつけないといけない。

 そうなると、アタシが日中も清掃業で時間を使うのは、あまり得策とは言えない。


「……それは空鳥さんも同じ気持ちでしょうか?」

「……うん。清掃業はアタシも板についてきたとは思うよ。だけど、家族に仕事に空色の魔女にって考えると、アタシも正直辛くなってて……」

「……かしこまりました。空鳥さん自身もそうおっしゃるのなら、私も休暇を認めます」

「え? ほ、本当にいいの? 明日だって、仕事が控えてたのに?」

「ええ、ご安心ください。こういう欠員も織り込んで動いてこそ、超一流の清掃用務員というものです」


 急で無礼な相談だったのに、洗居さんはアタシとタケゾーの要望を聞き通してくれた。

 だが、それは決してアタシを切り捨てるような空気ではない。表情の変化が少ない洗居さんからでも感じ取れる、タケゾー達と同じようにアタシを気遣ってくれた空気を感じる。


「私も空鳥さんが並行でいくつもの無茶を行うことに対し、不安を抱いてはいました。本音を言うと、私も空鳥さんほどの人材が欠けるのは厳しくもあります。ですが、何よりも優先すべきは空鳥さん自身の意志です。養子も迎え入れたことですし、育児休暇期間とでも捉えてください。……私もいつの日か再び、空鳥さんと一緒にお仕事できる日が来ることをお待ちしております」

「あ、ありがとう……洗居さん……! 本当にありがとう……!」


 タケゾーやショーちゃんという家族だけでなく、上司である洗居さんまでアタシの気持ちを笑顔で汲み取ってくれた。

 もうそれだけでお腹いっぱいだし、またしても涙が止まらなくなってしまう。


 ――だってさ、アタシみたいな普通じゃない人間のことを、こんなに支えてくれる人がいるわけよ?

 いくらヒーローなんて言っても、アタシの身勝手を許容してくれる人ばっかりなのよ?

 心にのしかかっていた重荷も軽くなり、思わず涙腺も緩くならずにはいられない。


「アタシの収入が減ることになるけど、タケゾーは大丈夫?」

「家計のことなら、俺もうまくやりくりしていくさ」

「またアタシが今回みたいにボロボロになっても、こうやって傍にいてくれる?」

「できることなら、ボロボロにならないようにはして欲しい。……だけど、せめてこれだけは約束してくれ。何があっても、必ず俺達のもとに戻ってくる……ってさ」

「うん……うん……!」


 タケゾーだって本当はアタシのことで不安がいっぱいなのに、それでもこうして背中を押してくれる。

 ここまでアタシの気持ちを尊重してもらえたのなら、むしろアタシもこれ以上はクヨクヨしていられない。




 ――今度はこれらの想いに応えられるように、アタシ自身が頑張らないとね。




「……さーて! 泣いたし話したしで、アタシも気持ちがスッキリしたよ! 一家の母としても空色の魔女としても、ここからまた踏み出さないとね!」

「お? ようやく、普段の隼らしくなってくれたか」

「隼さん、元気な姿がいい。似合ってる」

「そうですね。空鳥さんはこうして明るく振る舞っている方が、私も安心できます」


 方針は決まった。仕事は休むことになるけど、アタシはその分でみんなの力になりたい。

 その『みんな』というのはここにいるアタシを慕ってくれる人達もだし、世間で苦しむ人々も含まれる。

 そのためにまずできることは、様々な元凶となっている大凍亜連合との戦い。




 ――もうここまで来たら、完全に決着をつけるまで、アタシも引き下がるわけにはいかない。

 全てに決着をつけて、アタシは再び平凡な日常を掴んでみせる。

背負うものは大きいが、支えてくれるものも大きい。

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