植物の異常繁殖を調査しよう!
隼視点に戻り、新章開幕。
テレビのニュースで見た植物の異常繁殖。
これもまた、大凍亜連合の仕業なのか?
タケゾーや玉杉さんのおかげで、ショーちゃんのための戸籍もできた。
お義母さんもショーちゃんに会って、本当の孫のように可愛がってくれている。
色々と複雑な事情が絡み合った現状だが、そんな中でもアタシの日常は忙しくも穏やかでいてくれる。
ただ、そんな中でも気になるのが、テレビでも見た謎の民家植物支配現象。
またしても大凍亜連合絡みなのか、それともアタシがヒーローたる宿命なのか。
いずれにせよ、あんな超常現象が起こったとなれば、アタシも調査せずにはいられない。
仕事などの合間を縫い、どうにか誰もいない夕刻にその現場へと赴いたのだが――
「ショーちゃん。何度も言うけど、むやみやたらに居合で何かを斬るのはダメだからね?」
「うん、分かった。ボク、いい子にしてる」
――アタシの養子となったショーちゃんも一緒についてきている。
いや、本当はアタシ一人で調査しようと思ったのよ。でもさ、この子がアタシと一緒に行きたがるのを無理に止めると、かえって危なっかしいことになるのよ。
この間なんて居合で工場をほぼ真っ二つにしちゃったせいで、あわや住む場所がなくなるかもしれなかったし。
――え? そのほぼ真っ二つになった工場はどうしたかって?
そこはアタシが液体金属とセメントを融合させたコーティング剤で、綺麗に補修しておいた。
マグネットリキッドを作った時みたいに、ある程度なら別々の物質を融合させる術は心得てある。
幸い電気系統や配管、骨組みとなる鉄骨などは切断されずに済んでおり、実際に切断されたのは壁だけで済んでいた。
壁だけならコーティング剤で問題なく補修できたし、むしろそのおかげで以前よりも全体強度は増している。ある意味、雨降って地固まるって奴だ。
「さてさて、とりあえずは現場に来てみたけど、本当にこの民家だけ植物まみれだねぇ」
それはさておきやってきた現場なのだが、テレビでも紹介されていた民家だけが完全に植物で覆われている。周辺の他の家屋などに影響はない。
ツタやら何やらで内部に入ることも難しく、そうやって誰かが入った痕跡もない。この異常な現象を前に、調査機関も二の足を踏んでる感じか。
とりあえずはアタシも、まずは外観を覆う植物から調べないことには始まらない。
「隼さん。ボク、どうしてればいい?」
「とりあえず、周囲を見張っててくんない? 今は誰もいないけど、ここも一応は立入禁止区域だからね」
ほとんど流れで一緒にやって来たショーちゃんだが、戦力としては頼りになる。
養子とはいえ自分の子供を危険に晒したくはないが、本人の強い希望もあるのでここは頼らせてもらう。
この調査を終えて工場に戻ったら、一家の料理長たるタケゾーの夕食だって待っている。
――奇妙な関係ではあるが、これがアタシ達家族の在り方なのだろう。
「この民家を覆ってる植物……。この種類自体は何か特別なものってわけじゃないね。どこにでもある雑草だ」
ショーちゃんに見張りをお願いし、まずはアタシも現場の植物を手に取り、ガジェットのパソコン機能で検索しながら種類を調べる。
ただ、植物の種類自体におかしな点はない。おかしいのはここまで植物が成長していることにある。
となれば、養分の問題だろうか? この民家がある土地に、超強力な成長促進剤でも撒かれたとか?
「どうにも、ただ眺めるだけじゃ調査にならないねぇ。こいつを用意してて正解だったや」
見た目だけではこの異常な植物の繁殖は解明できない。こんなこともあろうかと、アタシはガジェットにデジタル収納しておいたある道具を眼前に出力する。
用意しておいたのは細胞解析に使う高精度顕微鏡。これがあれば、植物の葉や茎の細胞まで事細かに精査できる。
それを使い、早速この異常繁殖した植物を調べてみるが――
「あ、あれ? 特に薬品反応とかはないの? だとすれば、この植物は自力でここまで成長したってこと?」
――こちらについても、何も異常は見られなかった。
試しに検査薬も使ってみるが、それでもやはり反応はなし。細胞自体もいたって正常だ。
これはアタシも訳が分からない。ここまで検査して異常が見られないということが、何よりも異常だ。
「アタシも植物や細胞に関する化学に関しては、電気や機械ほど詳しくないからねぇ……。こんなことなら、もうちょっと勉強しておくべきだったか」
「隼さん、それで草を調べてるの? それで細かく調べられるの?」
「ああ、この顕微鏡かい? 調べることはできるんだけど、今のところは何も分かんないんだよねぇ」
「ボクも何か調べたい。この石、顕微鏡で調べたい」
「植物の調査に来たんだがねぇ……。まあ、アタシもちょいと手詰まりな感じだ。アタシは少し考え事をするから、ショーちゃんもその間にちょっとこの顕微鏡を使ってみるといいさ」
アタシの中での疑問を募るが、解明の糸口は見えてこない。
見張りとはいえ近くで立っていただけのショーちゃんも痺れを切らしたのか、小さな石を持ちながらアタシの調査に興味を持ち始めてきた。
アタシも今は無理に調べるよりも、一つ息抜きを入れたい。こうも難題を前にすると、ムキになって頭を固くしないことの方が重要だ。
何の気なしにショーちゃんに顕微鏡を譲ると、その手に持っていた小さな石をショーちゃんなりに観察し始める。
あんな石に何か秘密があるはずもないが、これもまた経験だ。小さい子供が興味を持ったのならば、アタシもその興味を後押ししてやりたい。
思えば、アタシもそもそもは両親の仕事を見て興味を持ち、いつの間にやら科学の道に――
「凄い。石の表面、よく見える。なんだか、ポコポコ穴が開いてて、スカスカしてる」
「ポコポコ? スカスカ?」
――などとショーちゃんの姿に昔の自分を重ねていたら、そのショーちゃんが奇妙なことを言い始めた。
確かに石の表面を顕微鏡で観察すれば、肉眼では見えない空洞だって観察できる。
だけども、アタシは妙に引っかかるところがある。ショーちゃんは顕微鏡の倍率はいじっておらず、そこまで高倍率で表面を見ているわけではない。
それなのにそんなポコポコやスカスカなどと言いたくなるほど、石の表面に空洞があるのを観察できたということだろうか?
「ねえ、ショーちゃん。その石、どこで見つけてきたの?」
「そこに落ちてた」
「この民家の壁の辺りか……。まさかこれって、壁が零れ落ちたもの?」
アタシは気になってショーちゃんに尋ねると、顕微鏡で調べている石は正確には石ではないらしい。
植物で覆われた民家から零れ落ちたらしき外壁。その破片をショーちゃんは拾って観察していたようだ。
――だが、この時点でも妙だ。テレビのニュースによると、この民家は空き家でこそあったが、管理会社によって定期的に整備はされていたとのこと。
そんな民家の外壁なのだが、覆っていた植物に手を入れて少し奥を覗いてみると、どういうわけかボロボロになっているのが観測できる。
――この異常繁殖した植物のせいで、外壁自体が脆くなった? いいや、アタシの勘が正しければそうじゃない。
「ショーちゃん。悪いんだけど、その顕微鏡をアタシにも見せてくんない?」
「うん、どうぞ。隼さんも見てみて」
その勘が確かなものか知るためにも、アタシはショーちゃんが観察していた顕微鏡を覗かせてもらう。
その目の先に映るのは、確かに外壁の表面と思わしきもの。だがショーちゃんも述べていた通り、その表面はかなりボロボロだ。
これはただ破壊されたとかそんな影響じゃない。
まさかとは思うのだが、アタシは己の中の仮説を信じたくなってしまう。
「これって……外壁が風化してる……?」
そう。まずはそもそもの着眼点が『植物の繁殖』ではないのです。