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タケゾー「未知なる驚異の予感がする」

敵の新たな動きが見え隠れする。

 俺と隼も目を向けたテレビに映っていたのは、まるでポストアポカリプスのように退廃した民家の姿。

 周囲の他の建物に変化はなく、その民家だけがコケや草木に覆われてしまっている。


【調べによりますと、この民家は空き家だったそうです。ただ、ご覧のように草木が生い茂っているなどということもなく、管理している不動産会社の手で定期的に整備もされていました。今回の原因については不明ですが、一説では植物の異常繁殖とも――】

「あらあらら~。不思議な事件もあるものね~」

「このお家だけ、植物がたくさん。どうしてこのお家だけ、こうなってるの?」


 おふくろやショーちゃんもテレビに映る光景を見て、不思議そうに首を傾げながら疑問を呈している。

 俺にだって分からない。テレビでは植物の異常繁殖とも言っているが、それだけでここまで退廃したような光景になるのだろうか?


 ――専門知識のない俺でも思わずそう感じてしまうほど、異常な光景だ。


「なあ、隼。お前はこの映像を見てどう思う?」

「そうさねぇ……。正直言うと、また大凍亜連合辺りが何か企んでるんじゃないかなと」

「やっぱりそう思うか……」


 隼も真剣な眼差しでテレビに映る光景を観察し、率直に思ったことを口にしている。

 俺も同じように考えており、また大凍亜連合が何かを企んでいるのではと勘繰ってしまう。

 GT細胞や佐々吹に関する一件。ただの反社組織とは思えない、それこそ国家転覆テロでも考えていそうな技術力。

 もしもこれが本当に大凍亜連合の仕業なら、また何かしらの犠牲が起こる可能性だってある。


 ――そう考えると、隼が次にどういうことを考えているかは、想像に難くない。


「またアタシの方で、ちょいとこの場所を調べてみるよ。打てる手は先に打っておきたいからね」

「確かにこれは俺も気になるな。だが、本当に大凍亜連合が絡んでたらどうする? 牙島だって、また出てくるに決まってるぞ?」

「そりゃあ、まあ……覚悟はしてるよ。あの戦闘狂のことだし、またアタシを見つければ襲い掛かってくるだろうね」

「正直、この間あいつに勝てたのは佐々吹のおかげだ。隼一人で牙島と相対した時、流石に危なすぎないか?」

「そ、それは……。アタシも一応の対策は考えてるし、いざとなったら逃げるの優先ではいるし……」


 俺も予想した通り、隼は明日からでも現場検証に向かいそうだ。

 とはいえ、その場所が敵陣の渦中である可能性は否めない。何より危惧するべきは、空色の魔女である隼でも圧倒的に苦戦した怪物、バーサクリザード(牙島)の存在。

 隼も直接相手をしたことがあるだけに、その常軌を逸した力量は把握している。再戦の機会も考え、何かしらの策も講じてはいるようだが、どうにも歯切れが悪い。

 せめて牙島が現れても、その場しのぎができるぐらいの戦力がもう一人いればいいのだが――




「分かった。ボク、隼さんと一緒に調査する。何かあったら、ボクも一緒に戦う」




 ――俺がそう考えていると、おふくろの膝の上で座るショーちゃんが大きく手を上げて名乗りを上げてきた。


「ショ、ショーちゃん!? ダメだよ! この間もそうだったけど、アタシの活動はとっても危険なんだよ!? ちょっと前にも言ったよね!?」

「でも、隼さんだけも危険。大丈夫。ボク、戦える」


 そんなショーちゃんに対し、隼は案の定と言うべきかその要望を拒み始める。それでも、ショーちゃんのアピールは止まらない。

 元が隼に想いを抱いていた佐々吹だからこそ、何よりも隼のことを想っての行動なのだろう。俺にも戦う力があれば、ショーちゃんのように申し出たいところだ。


 ――だが、この提案自体は俺も賛成したい。


「ショーちゃんも一緒に連れて行ってやれよ。ショーちゃんなら、隼のことも守ってくれるさ」

「うん、任せて。ボク、武蔵さんの分も隼さんを守る」

「タ、タケゾーまでそんなこと言いだしちゃうなんて……!?」


 隼はとにかく一人で背負おうとすることは、俺もショーちゃんも理解している。

 ショーちゃんには隼と肩を並べて戦えるだけの力があるからこそ、俺の分も隼を守って欲しいと期待してしまう。

 養子とはいえ、仮にも自分の子供にこんな願いをするのは、あまり父親としてはよろしくないのだろう。

 それでも、ショーちゃんが俺と同じように隼を想う佐々吹の生まれ変わりと考えると、どうしても期待をしてしまう。


 ――そんなショーちゃん自身も、俺の分まで隼の力となってくれる気概のようだ。


「ねえ、武蔵~。ショーちゃんって、こんなに小さいのに戦えるの~?」

「元の中身が居合名人で、さらに人間以上のスペックを持つ肉体だからな。ハッキリ言って、俺みたいな一般人レベルでは立ち向かえないぐらい強い」

「そうかもしれないけど、私としては孫を危険な目に遭わせたくはないよね~」


 ただ、そんな俺やショーちゃんの想いとは裏腹に、おふくろは否定的だ。

 まあ、ショーちゃんの実力を知らなければ無理もない。つうか、おふくろは完全にショーちゃんのおばあちゃん気分だな。


「ボク、強い! おばあちゃん、見てて!」


 そんなおふくろの心配に対し、ショーちゃんも少し憤慨するものがあったのだろう。

 自らの力を示したいのか、居合用の刀を手に取って、腰を落として構え始める。

 どうやら、お得意の居合術をおふくろにも披露するようだ。




「……って、ちょっと待て。居合を見せるにしても、こんな場所で何を――」



 ズバァァアアンッ!!




 その時、俺もこのリビングで何をどうすることで居合の技能を見せるのか気にしてしまった。

 ただそれを質問するよりも早く、突如としてショーちゃんから凄まじい斬撃音のようなものが響いてくる。

 ショーちゃんの刀は確か、大凍亜連合のアジトから逃げる時に持ち出した特殊な刀で、居合動作で高周波ブレードへと変化するものだったか。

 振動した刀身と佐々吹譲りの居合術が合わさることで、その斬撃の鋭さは完全に人のレベルを超える。隼でも対処に困るぐらいだ。

 その一連の流れも実に鮮やか。抜刀の瞬間は目視できず、すでに残心をとりながら納刀するショーちゃん。


 そんなとんでもない居合がこのリビングで放たれたのだが――




「あらあらら~? そこの壁、少しズレて見えるのだけど~?」

「ショ、ショーちゃん!? 工場を斬っちゃったの!? ダメじゃんか!?」

「あっ……。ごめんなさい」




 ――どうやら、ショーちゃんは俺達がいたリビングを中心に、部屋そのものを横一閃に切断してしまったようだ。

 それにより、工場の壁はわずかにズレ、部屋全体が上下に分断されてしまったのが分かる。

 だが、壁こそズレても工場自体が崩れることはない。

 内部の鉄骨も無事なようだし、何よりもその神速の居合が鋭すぎて、壁がダルマ落としのように綺麗に乗っかったと見える。




 ――確かに凄さは分かったのだが、これは流石にやり過ぎだ。




「……隼。悪いんだが、本当にショーちゃんを連れて調査に向かってくれ」

「……そうだね。このまま工場に置いてたら、また駄々をこねて今度は工場がサイコロになるかもね」


 こんなことをしてしまったショーちゃんも反省はしているが、これは迂闊に目も離せない。

 それならば、監視という意味でも隼と一緒にいた方が、こちらとしても安心できる。




 ――佐々吹の剣技に人工的な超人の肉体、おまけに高周波ブレード。

 嫁もヒーローをやってる魔女だし、俺は本当にとんでもない家族を持ってしまったようだ。

これにて、この章はおしまいです。

次からは隼視点で新章「大凍亜連合編・承」になります。


……頑張れ、一般人タケゾー。

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