みんなのおかげで勝ち取ることができた。
最恐最悪のヴィラン、バーサクリザード牙島との決着を。
「は、放さんかい! お……おんどれぇええ!!」
「捕縛……! バーサクリザード……! 道連れ……!」
アタシが電気魔術玉を放っても、ケースコーピオンは牙島をガッチリと庇い締めにしてくれている。
アタシの中でも辛さはある。だが、放たれた電撃魔術玉はもう止められない。
過去最高レベルの電撃魔術玉は、そのまま牙島とケースコーピオンの元へと飛んでいき――
ズギャァァアアンッ!!
――激しい轟音を響かせて着弾した。
あまりに出力を上げたせいで、周囲には煙が立ち込めてしまう。
その煙も少し時間が経つと晴れていき、その先にあったのは――
「な……なんちゅうこっちゃ……。このワイが……負けてまうとはなぁ……」
「任務……遂行……完了……」
――床に倒れた牙島とケースコーピオンの姿だった。
お互いわずかに声を漏らしてはいるが、体からは湯気が立ち込めている。体内にまで電撃が走った証明だ。
生きてこそはいるが、もう立ち上がれそうには見えない。
――かなり危なかったが、この勝負はアタシ達の勝ちだ。
「ショーちゃん! しっかりして! ごめんね! 本当に……ごめんね……!」
「空鳥 隼……。無事……確認……」
だが、その勝利を喜ぶよりも先に、アタシは倒れたケースコーピオンのもとへと駆け寄る。
牙島に勝てたのはケースコーピオンがその身を挺してくれたからだ。
たとえもう抜け殻であっても、その中身が居合君に移されていても、ショーちゃんの心はまだケースコーピオンの肉体にも残っている。
アタシは膝をつき、涙を流しながら両手でその体を抱きかかえる。
「ショーちゃん……ごめんね……! そして、ありがとう……! 今まで本当に……ありがとう……!」
もうどんな言葉をかければいいのかも分からない。もうどうしていいのかも考えられない。
アタシはただ思うがまま、謝罪と感謝の言葉を口にすることしかできない。
ショーちゃんをこんな事態に巻き込んでしまった原因の一端として、アタシは声を震わせながらもただ言葉を口にする。
「……隼さん。ケースコーピオン――ボクの元の肉体。隼さんのこと、怒ってない」
「い、居合君……?」
そんなアタシの肩に右手を当て、居合君が優しく声をかけてくれる。
左手にはさっきまでケースコーピオンの上に置かれていたアタシの三角帽を持ち、手渡しながらまるで代弁するように言葉を紡いでくれる。
「ボク達、隼さんを助けたかった。ボク達、何も悔やんでない。隼さん、悲しまなくていい」
「……ありがとう、居合君――いや、ショーちゃん。アタシの罪は消えないけど、ショーちゃんにそう言ってもらえるともう……言葉が出ないよ……!」
アタシは居合君から三角帽を受け取ると、その小さな体へと抱き着く。
言葉で言い表せない感情。口では紡げない想い。
それらを内に秘めながら、アタシはただ居合君の気持ちを受け入れ、そして涙を流す。
――ショーちゃんがいてくれて、本当に良かった。
【……隼。ひとまず、無事に終わりはしたんだな】
「あっ……タケゾー……。なんだ、見てたのかい?」
【少しばかりな。俺も割って入る場面じゃなかっただろ?】
アタシが居合君を抱きながら涙していると、ウィッチキャットがこちらに戻ってきてくれた。
操縦者のタケゾーも妙な気を利かせ、少し間を置いて声をかけてくる。
普段ならここで茶々でも入れるんだけど、今はそんな気分にもなれない。
ただただ、タケゾーの気遣いには感謝する。タケゾーもショーちゃんと同じく、本当にアタシに優しい。
――アタシって、本当に周囲に恵まれてるよね。
【脱出路は確認できた。他の構成員も今は見当たらない。全員で早く脱出しよう】
「そうだね。さあ、居合君はウィッチキャットについて行って。アタシはケースコーピオンを担いで――ゲホ! ゲホッ!?」
【お、おい!? どうしたんだ!? 隼!?】
感傷に浸れど、ここに長居は無用だ。そう思って逃げるために立ち上がろうとすると、アタシの体に異変が起きる。
いや、正確には元々の異変が大きくなったというところか。かなりの無茶で疲弊した影響か、牙島の毒が急速に体中を巡り始める。
その影響で激しく咳込み、発熱まで起こしている。とてもではないが、立ち上がることもままならない。
だが、アタシでなければケースコーピオンを担いで脱出はできない。
「だ、大丈夫さ……。あと少し……あと少しだけ我慢すれば……」
【そうは言っても、俺が見てるだけでもボロボロだぞ!? そ、そうだ! 俺も今からそっちに向かって――】
「そんなことをすれば、せっかくタケゾー自身が見つけてくれた脱出路の意味がないじゃんか……。本当に大丈夫だって。とにかく、今は根性見せてでも脱出を優先……して……」
どうにか体に力を入れようとしても、逆に意識が遠のいてしまう。
これではケースコーピオンを担いで脱出するどころか、アタシ自身も脱出以前の話だ。
――最悪、居合君だけでも脱出させて、アタシはここに残るしかない。
アタシにはケースコーピオンを見捨てることなどできない。
「隼さん! ボク、隼さんとケースコーピオンをおんぶする! 絶対、一緒に脱出する!」
「ニシシ……。健気なもんだねぇ……。だけど、居合君の体じゃ無理かな? とりあえず、ウィッチキャットと一緒に先に脱出して――」
「嫌! ボク、隼さんと一緒じゃないと嫌! 隼さんと一緒に、武蔵さんのところに帰る!」
居合君もどうにかアタシを担ぎ上げようとしてくれるが、この子は肉体構造的に持久的なパワーには乏しい。
体も小さいし、アタシとケースコーピオンを同時に担げるはずもない。
どうにかアタシが先に逃げることを促しても、激しく拒んでくる。
――本当に小さい子供のように駄々をこねるものだ。
こちらとしては困るのだが、どうしても嬉しさがこみ上げてしまう。
ただ、やはりここはアタシを置いて脱出してもらうしか――
「キハハハ……。に、逃げるんも限界なほど、ワイとやりおうてくれたってことかいな……」
――そう考えていると、アタシの後ろから弱った関西弁が聞こえてきた。
毒の発熱も冷めていくような悪寒。あの電撃魔術玉を食らって、すぐに立ち上がれるはずがない。
胸に不安を抱きながらも、アタシが後ろを振り向いてみると――
「こ、今回ばっかしはワイの負けや……。まあ、まだ無茶すりゃ動けるって感じやがな……!」
「き、牙島……!?」
まだ、全てが終わったわけではない。