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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
大凍亜連合編・起
138/464

悲しき抜け殻:ケースコーピオン

この結末を招いた技術を継承せしサイエンスウィッチ:空鳥 隼

 VS

悲しき結末の果てに抜け殻となったケースコーピオン:佐々吹 正司

「なーんや。まーた、そいつのテストでっかいな。まあ、ワイもこの実験に関わってもうた以上、色々とデータを取っとかな後で口うるさい奴もおるし、しゃーなしで譲ったるわ」

「フン。総帥とどういう話をしてるのかはこっちも知らないが、おとなしく下がってくれるなら下がってろ」


 意気揚々とアタシと戦う準備をしていた牙島に代わる、大凍亜連合幹部が連れてきた新たな対戦相手。

 それは抜け殻となったショーちゃんの肉体をベースに改造し、ただの戦闘マシーンへと成り果ててしまったケースコーピオンだった。

 牙島もどこか意味深な言葉を幹部のジャラジャラ男と交わしながら、一度は壁に背をもたれさせて観察に回る。


「あ、あんたって……ショ、ショーちゃんなんだよね……?」

「……ンギィ。空色の魔女排除、空色の魔女排除……」


 牙島という強敵を相手にしないでよくはなったが、その代わりの相手がやり辛いなんて話じゃない。

 命令を受けてアタシに迫りくるケースコーピオンの肉体は、アタシの仲良し同級生だったショーちゃんのものだ。

 今はもう魂なんてない抜け殻で、元の原型なんてどこにも残っていない。それでも、アタシにはとても手出しができない。




 ――ショーちゃんがこんな目に遭ってしまった責任は、アタシにもある。




「どうした? 正義のヒーローでも怖気づくのか? まあ、構わん。ケースコーピオン! 空色の魔女を殺せぇえ!」

「命令受諾……。作戦開始……」


 そんなアタシの立場も心境も、敵からしてみれば無関係な話だ。

 ケースコーピオンに大声で命令を下し、アタシを襲わせるように仕向けてくる。


 もうその記憶にはアタシの姿は残っていないかのように、尻尾の金属アームで殴り掛かってくるが――




 ガツゥンッ!



「んぐぅ!? アハハ……。いいよ、ショーちゃん。好きなだけ、アタシのことを殴りなよ……」




 ――アタシは回避もガードもせず、両腕を大の字に広げてその攻撃を我が身に浴びる。

 だって、相手は姿も中身も変わったとはいえ、ショーちゃんなんだよ? タケゾーと同じようにアタシみたいな女を愛してくれて、アタシとタケゾーの幸せを願ってくれた人なんだよ?

 おまけに今ショーちゃんがこうなってしまったのには、アタシにも責任がある。

 それなのに、こちらから攻撃することなんてできない。今のアタシにできることは、ただひたすらにショーちゃんの攻撃を耐えることのみ。


 ――これはアタシの一つの贖罪。自己満足なのは承知の上だが、こうすることしかアタシには思いつかない。


「どうした? 空色の魔女? この間みたいに、反撃することさえしないのか?」

「……あの様子やと、ケースコーピオンの正体に勘付いとるみたいやな。このまま、ただ殴り殺されるつもりなんかいな?」


 アタシとケースコーピオン(ショーちゃん)の様子を、外野からジャラジャラ男や牙島達も眺めて思うところを述べるのが聞こえてくる。

 特に牙島はアタシとショーちゃんの関係性にも勘付いており、ある程度はアタシの行動に納得している。

 だが、アタシだってこのまま殴り殺されるわけにはいかない。

 何度も殴られながらも、どうにかして可能性を模索する。


「ゲホ! ゲホ! ね、ねえ……ショーちゃん。高校時代のこと、覚えてる? あの頃からよく、アタシはタケゾーのことを話してたりしてたよね?」

「返答不要……。作戦続行……」



 ドガァ! バギィ!



「ゴホッ! ガハッ! い、今にして思えば、ショーちゃんにとっては面白くない話だったよね……。だけど、ショーちゃんが背中を押してくれたおかげで、アタシとタケゾーは結婚できたんだ……」

「返答不要……。作戦続行……」



 ドゴォ! ボゴォ!



 アタシはその可能性の一つとして、ショーちゃんとの思い出を口にしてみる。

 ハッキリ言って、望みの薄い可能性だ。だけど、アタシはどうしても期待したくなってしまう。

 ケースコーピオンにショーちゃんとしての記憶は残っていないが、その記憶を引き継いでいる居合君には一定の反応を見せていた。

 もしかしたら、まだどこかにショーちゃんとしての記憶が残っているかもしれない。もうその可能性に賭けるしかない。


 理論も理屈もどうでもいい。もっと人間の根源的な可能性に期待し、アタシは殴られるのに耐えて言葉を投げかけていく――



 ガシィイッ!



「あがっ!? ぐ、ぐるじい……!」

「対象気道圧迫……。呼吸停止開始……」


 ――だが、アタシの言葉がショーちゃんに届くことはなかった。

 ケースコーピオン最大の特徴である尻尾の金属アームが、アタシの首を掴んで締め付けてくる。

 足も地面から離れ、どんどんと息ができなくなる。

 アタシの強化された肉体を上回るパワー。本来の優しいショーちゃんならば、アタシにこんな仕打ちをすることなどない。

 苦しさよりも抵抗心よりも、その事実がアタシの心を穿ってくる。


 もう、アタシではショーちゃんを助け出すことはできない。

 アタシはこのまま、ケースコーピオンというヴィランと化したショーちゃんに殺される。


 ――でも、それも仕方のない話なのかもしれない。

 この結末はアタシが招いたものだ。


「ご……ごめん……ね。ショー……ちゃん……」


 もう抵抗する気力も失い、アタシの体から力が抜けていく。

 両腕もダラリと下げ、アタシにはこの先を受け入れることしかできない。

 涙を流しながらわずかに絞るような声を出し、アタシは意識を手離し――




「そ……空鳥……隼さん……」




 ――そう思っていたら、アタシの首を絞めつけていた金属アームから突如力が抜け始める。

 ケースコーピオンも頭を抱えながら、何かに逆らうように苦しそうな声でアタシの名前を呟く。


「命令続行……解除……! 空色の魔女殺害……隼さん殺害……停止……!」


 さらには完全にアタシの首から金属アームを外し、頭を抱えたままその場で悶え苦しみ始める。

 その時の言葉から分かる。ケースコーピオンは今、内に植え付けられた命令に逆らおうとしている。


 ――そうだ。ケースコーピオンとは最初に会った時から、機械のようで人間的な感覚をアタシも抱いていた。

 肉体だけになっても、どれだけ改造を施されても、人間の魂というものは科学じゃ解明できないほどの可能性が眠っている。




 ――ケースコーピオンの中には、まだショーちゃんの魂が残っていた。




「解除! 解除! 命令解除! 停止! 停止! 行動停止!」

「ショ、ショーちゃん……!」


 まるで残っていたショーちゃんの魂が抑え込むように、ケースコーピオンはその場で悶えながら動きを止めてしまう。

 その姿はかつてジェットアーマーに操られていたタケゾーと同じように、必死にアタシに危害を加えることを拒む光景。

 そんなショーちゃんの姿を見るのは、アタシだって苦しい。だけど、アタシの呼びかけは無駄ではなかった。


「機能……完全……停止――」

「ショーちゃん……」


 ショーちゃんは最後の最後でアタシのことを思い出し、自らの意志でケースコーピオンとしての機能を停止させた。

 これまで苦しんでいた姿から一転、背中から床へと倒れ込み、仰向けになった後は微動だにしない。


 ――どれだけ姿が変わろうとも、やっぱりショーちゃんはショーちゃんだった。

 こんなアタシのことを思い出し、そして救ってくれた。


「ごめんね、ショーちゃん……! 苦しかったよね、辛かったよね……!? でももう、休んでいいからね……!」


 アタシはもう動かなくなったケースコーピオン(ショーちゃん)の顔を覗き込みながら、胸元で両手を組ませる。

 その両手の上にはアタシの三角帽を乗せ、せめてもの弔いの意志を見せる。


 正直、後味なんて最悪だ。今だって涙が止まらず、ショーちゃんの体にポタポタと零れている。

 そんな涙を流してグチャグチャの顔になりながらも、アタシは最後の言葉をかけようとする。

 こんな結末を招いた元凶の一人が厚かましいとも思うが、それでもアタシは言葉にせずにはいられなかった――




「ゆっくり休んでね……。アタシを愛してくれた、大切な人……!」

それは、親しき同級生との悲しき別れ。

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