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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
大凍亜連合編・起
133/464

謎の女が襲い掛かって来た!?

隼には分からない謎の女の正体。

読んでくださっている方々には分かるはず。

「ケホ! こんな場面でガスマスク装備なんて、随分と用意がいいもんだ。こいつはどう考えても――」

「ああ。ゲホ! 工場に催涙ガスを蔓延させた張本人に間違いないな……!」


 リビングからパジャマ姿で逃げ出してきたアタシ達三人の前に現れた、ガスマスクに紺コートの人物。

 体型を見る限り女性らしく、牙島やケースコーピオンといったこれまで注意してきた敵ではない。


 だが、全く見覚えがないわけでもない。

 あの時は遠目だったが、以前にタケゾー父(お義父さん)に警察の研究施設へ招かれた時にも同じ紺コート姿を見たことがある。

 エレベーターの窓から見えた、鷹広のおっちゃんと言葉を交わしていた人物だ。


 ――状況からして、まさかこいつがデザイアガルダや牙島とも繋がっているラルカって人?

 それだったら、ここに現れた目的は――



 バッ!



「ッ!? タケゾー! 居合君をお願い!」

「じゅ、隼!?」


 ――間違いない。こいつの狙いは居合君だ。一気にこちらとの間合いを詰め、その身柄を押さえようとしてくる。

 アタシは即座に居合君をタケゾーに託し、生体コイルを稼働させる。

 ブローチも用意できていないので、変身したのは髪の色のみ。だけど、根本的な身体能力の強化は変わらない。

 肉体だけを強化した状態で、アタシは迫りくる敵へと格闘勝負を挑む。



 バシンッ! ドゴォン!!



「ガッ……ハァ……!?」


 だが、アタシはあっさりと眼前の敵に圧し負けてしまう。

 こちらが放ったパンチは簡単に捌かれ、逆に相手の拳が懐に突き刺さる。

 パワーはこちらの方が上のはずだ。それでも、アタシの格闘術がまるで通用しない。


 これは直感的に理解できる。柔よく剛を制すとも言うべき、技術の差だ。

 アタシがどれだけ超人的なパワーと強固な肉体を持っていても、まるで針の穴に糸を通すように正確に弱点を狙う技術。

 アタシのように特別な力があるわけではない。さらに言えば、この催涙ガスが充満した状況も考慮しているに違いない。

 技術も戦況の操作も、全てがアタシなんかより格段に上だ。そういう経験に疎くても、本能的に理解できる。




 ――こいつは本当の意味で戦い慣れた人間だ。




「隼!? だ、大丈夫か!?」

「アタシのことはいいから! 居合君を守ることを優先して!」

「そ、それは分かって――ゲホォ!?」


 そんな強敵を前にして、アタシとタケゾーだけでは対処しきれない。

 相手は怯んだアタシの横をすり抜けると、今度は居合君を抱えたタケゾーの腹に膝蹴りを打ち込んでくる。

 こちらも動きたいが、催涙ガスとダメージのせいで体の自由が利かない。


 そうこうしているうちに、アタシ達へと襲い掛かって来た人物は――




「お姉さん! お兄さん! 助けて!」

「い、居合君!?」




 ――素早くタケゾーの腕の中から、居合君を奪い去ってしまった。

 催涙ガスで眩む視界に堪えながらアタシも追おうとするが、敵はそれだけで終わらない。



 カッッ!!



「ま、眩しい!?」

「スタングレネードか!?」


 居合君を奪い去って逃げながら、こちらの追走を振り切るためにスタングレネードを投げつけてくる。

 ただでさえ催涙ガスで苦しい状況なのに、音と光でさらに苦境へと立たされる。




 ――なんとか視覚も聴覚も戻った時には、もうそこに敵の姿も居合君の姿もなかった。




「そ、そんな……! 居合君が攫われちゃった……!」

「くそ! 何だったんだ!? あの紺コートの女は!?」


 目の前で起こった事実を認識して、アタシはワナワナと震え、タケゾーは床を叩いて悔しがるしかない。

 時間にしてみれば一瞬だった。だが、その手口は実に巧妙だ。


 レーダーを掻い潜って侵入。

 工場内に催涙ガスを散布。

 アタシとタケゾーを瞬時に無力化し、居合君を誘拐。

 スタングレネードを使って逃走。


 ――どれもが普通の人間にできる範疇の動きだが、全体の流れはあまりにも鮮やかすぎる。

 アタシのような超人でもないのに、本当に人としての技術がこちらよりも数段上だった。


 ――素人目に見ても、あれはプロの動きだった。

 あれが噂のラルカというスナイパーだったのならば、その正体は相当手練れの殺し屋か何かでもおかしくない。


「や、やっぱり工場へ届かせる電線が落とされてる! これじゃ、レーダーも機能しないじゃん!」

「犯人はレーダーの存在にも気付いてたんだろうな……。それにしても、まさかここまで鮮やかに居合君を攫われるなんて……!」


 それでもどうにか手掛かりを掴もうと、アタシとタケゾーは工場やその周辺を調べて回る。

 あんなとんでもない奴に居合君を誘拐されたとあって、アタシもタケゾーも気が気じゃない。


 ――だが、重大な手掛かりが見つかることはなかった。

 むしろ見つかるのは、犯人の手際の良さを証明するような痕跡のみ。居合君がどこに攫われたのかも分からない。


「ど、どど、どうしよう! タケゾー!? アタシ、どうしたらいの!?」

「落ち着け、隼。気持ちは分かるが、今焦ったところで――」

「落ち着いてなんかいられないっての! 居合君が攫われたんだよ!? ア、アタシ……本当にもう、どうしたらいいか……!」


 そんな不安な心境のせいで、アタシはもう気が気じゃない。

 ショーちゃんの面影を持った居合君。あの子にはアタシもガラになく母性を感じて接していた。

 そんな子が誘拐されて、正気でいられるほどアタシは強い女じゃない。

 タケゾーの言いたいことも分かるが、それでもこの焦る気持ちが抑えられない。

 犯人の正体が本当にラルカならば、今頃大凍亜連合のもとに連れ去られたに違いない。




 ――星皇社長が我が子を失った苦しみが、わずかながらに理解できるほど苦しい。

 これが実の子供だったなら、それこそ死にたくなるほど辛いはずだ。




「……隼。手掛かりがあるかもしれないぞ」

「え!? ほ、本当に!? どこにあるのさ!?」

「正確に言うと、ここにはないものなんだがな。でも、居合君があれを持ったままだったなら、足取りを追えるかもしれない」


 そんなアタシの不安を落ち着けるかのように、タケゾーは顎に手を当てて考えながらある可能性を口にしてきた。

 ここにはないけど、手掛かりとなるもの? なんだかナゾナゾみたいだけど、とにかく手掛かり自体はあるってこと?


 ――少し焦れったくも思ったが、アタシもリビングを確認しなおして、それが何かをすぐに理解できた。




「あっ……! ウィッチキャット!!」

隼の発明品こそ、その足取りを掴む鍵。

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