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空色のサイエンスウィッチ  作者: コーヒー微糖派
大凍亜連合編・起
120/464

パン泥棒にお仕置きしよう!

空を飛んで電気球も放つ魔女

 VS

超絶居合パン泥棒剣士

「今度は外さない! ボクのパン、守る!」


 パン泥棒剣士はなおも頑固にパンの所有権を主張し、携えた刀に手を当てながら腰を低く落としてくる。

 どうにも、また居合でアタシを真っ二つにするつもりだ。てか、まだ子供なのに人の命を軽く見過ぎだよ。


「こらこら! そもそもそんな危ないもの、子供が持ってていいもんじゃないっての! 銃刀法違反を学習しな!」


 こういう悪い子にはお仕置きが必要だ。まだ子供はいなくても、新妻なりたてを舐めないで欲しい。

 この子の攻撃手段はあくまで刀。とりあえず、その刀をどうにかすればいいわけだから――



 ビビュン!



「ああ!? ボクの刀!?」

「ほーれ! 自分のものを盗まれるってのは、嫌なもんだろう? 悔しかったら、ここまで取り返しに来な!」


 ――トラクタービームを使い、鞘ごと刀を奪い取る。

 そうして刀を奪い取ったまま、アタシはデバイスロッドに飛び乗って上空へと飛び上がっていく。

 まず攻撃手段を奪っておけばこっちも安心できる。ビルをも切断する居合相手に、真っ向勝負なんて流石にしたくない。


「てか、この刀もただの刀じゃないみたいだね。鞘の口のところに何かあるけど、これって磁石か何か?」


 いったんは安全圏まで空を飛んで逃げると、奪い取った刀を少し調べてみる。

 さっきパン泥棒剣士がビルの壁を切断した居合なのだが、どれだけ超人的な身体能力を持っていたとしても、それだけであそこまでの芸当ができるとは思えない。

 ならば刀の方に仕掛けがあるかもと思ったら案の定だ。普通の刀にはついているはずのない機構が組み込まれている。


 鞘の口に取り付けられた磁石のようなもの。アタシもショーちゃんから少し教わったけど、居合は『鞘走り』というカタパルトのような役目が必要なんだっけ。

 この鞘で居合をすれば、刀が抜かれる時にこの磁石のようなもので鞘走りが起こる。

 軽く刀を抜き出してみると、その影響なのかわずかに刀身が振動する仕組みのようだ。


 ――成程。アタシも少しだけ、このカラクリが読めてきた。


「とりあえず、この刀がこっちの手元にある以上、あんなとんでも居合で真っ二つってことには――」

「ボクの刀! 返せ! それ、ボクの!」

「うひいぃ!?」


 斬撃の謎な破壊力の正体も見えてきて安心するのも束の間、なんとパン泥棒剣士はアタシの方へと飛び上がって来た。

 どうやら、路地を挟んでいたビルの壁を三角飛びで蹴り上がってきたようだ。

 いや、どんな身体能力よ? この子ってもしかして、かの伝説の配管工の末裔だとか? それとも刀を持ってるから、ニンジャの末裔?


「返せ! ボクの刀!」

「うおぉ!? 他人のパンは盗んだのに、自分の刀を盗まれるのは嫌ってか!」


 あまりに予想外な光景に驚いたせいか、パン泥棒剣士がアタシのもとまで飛び上がって来たと同時に刀を奪い返されてしまう。

 これは失態だ。相手の力量を測り切れていなかった。

 向こうもビルの屋上に飛び乗ると、再び居合の構えでこちらを狙ってくる。


「パン、奪おうとした! 刀、盗んだ! ボク、怒った!」

「ああ、そうかい! だけどこっちだって『パンを盗んでごめんなさい』としてもらうまでは、引き下がるつもりなんてないよ!」


 刀を奪い返されはしたものの、アタシもこれで終わるつもりはない。

 このまま相手の射程圏外へ逃げることもできるが、正義のヒーローたるこの空色の魔女様が悪い子にお仕置きもできず、尻尾を巻いて逃げることはしたくない。


「ほーれ! こっちも近づいてやっから、居合を撃てるもんなら撃ってみな!」


 電撃魔術玉なら遠距離からでも攻撃可能だが、あれは威力が高すぎる。

 いくら悪い子とはいえ、あんな大技で過剰成敗というのは、アタシのヒーローレーティングに反する。


 そのため、こっちも相手の間合いに飛び込んで打って出る。

 あのとんでも居合が怖くないかって? うん。怖いね。だけど、カラクリはもう読めてる。

 情報制御コンタクトレンズで刀の動きをマーキングし、神経もそこに集中させる。

 手品のタネさえ分かってしまえば、後はアタシの了見でどうにかできる。


「くらえ! ボクの居合!」


 そうしてアタシが間合いへ入り込んでくると、パン泥棒剣士は予想通りに居合を放つ。

 こちらもそのタイミングに合わせて、左手を動かし――



 スバァァア―― キンッ!



 ――手の平で抜かれた刀身をキャッチ。

 もちろん、アタシの手は切れてない。


「な、なんで!? ボクの居合で斬れない!?」

「最初はおっかなびっくりな力だったけど、科学の力が相手だったらアタシの敵じゃないね! 高周波ブレード……敗れたり!」


 この子が使う居合の異常なまでの破壊力。そのカラクリはさっき刀を奪った時に確認できた。

 鞘に仕込まれた磁石のような振動機構。それによって居合で鞘走りさせる際、刀身を振動させて高周波ブレードへと変化。その斬撃は大幅に強化される。

 それこそがこの超絶居合の正体。そこまで分かってしまえば、後はアタシの能力で無力化も可能だ。


 電撃魔術玉を放つために搭載した手袋のジェット推進機構を使い、刀身の振動を狂わせてしまえばいい。

 情報制御コンタクトレンズでも刀身の動きは確認してたから、その振動に反発するようにこっちから衝撃を加えればいい話だ。


 ――結構簡単に言ってるところもあるけど、これはアタシの能力があってこその話だ。

 誰にも見られてないとは思うけど、良い子も悪い子も真似しないでね。


「んぐぐ……! 放して! 刀、放して!」

「ダーメ。あんたも少し落ち着いて、自分がやったことを反省しなさい」


 そのままアタシに刀身を握られていたパン泥棒剣士だが、刀を振るうのは速くとも、単純な力勝負だとアタシに分があるようだ。

 パワーが刀を振るうことに特化してるのかな? ワニの噛む力が強くても、口を開く力が弱いみたいに。

 とはいえ、今度こそこのパン泥棒剣士は鎮圧できた。ちょっとしたお仕置きの意味も込めて、その子の頭をポカンと軽く叩いてみる。


「頭、叩かれた。ちょっと痛い……。お姉さん、どうしてこんなことするの?」

「あんたが悪いことをしたからだよ。……なんだい。顔を見てみれば、素直そうな子供じゃないか」


 これまで顔を隠していた上半身のボロ布も剥がしてみると、その下から出てくるのはとても可愛らしい子供の困り顔。

 本当に小学生ぐらいに見えるが、男の子か女の子かも判断に迷う容姿だ。なんだか、タケゾーの小さい頃に似てる。

 そんなパン泥棒剣士なのだが、アタシと顔を合わせると何やら首を傾げて尋ね返してくる。


「ボク、悪いことした? どうして?」

「いや、そこも分かんないのかな? じゃあ、アタシに刀を奪われた時、あんたは嫌だったろ?」

「うん。嫌だった。怒った」

「それと同じように、あんたはパン屋さんからパンを盗んだわけだ。パン屋さんに嫌な思いをさせることはどういうことか分かる?」

「……悪いこと。パンを盗んでごめんなさい」


 どうにもこの子、世間一般常識とかなりズレてると言うべきか、教養が足りていないと言うべきか。

 なんだかアタシが見た感じ、そもそもの善悪判断とかもあやふやなんだよね。失礼かもしれないけど、頭の中はまだ生まれたてって印象。

 それでもアタシが順を追って説明すると、次第に自分がやったことを理解し、自らの不備を認めていく。こういう素直さも含めて、本当に過剰なまでに子供っぽい。


「ボク、お腹減ってた。そしたら、近くにパンあった。だから食べちゃった」

「お腹が空いてるのは分かったけど、盗みはよくないからね。そういう時はお家に帰ってご飯を食べな」

「お家……? お家、どこか分からない……」

「……へ? 家が分からない?」


 その後はアタシに心を開いてくれたのか、少しずつ口を開いてくれる。

 だけど、その中でさらに見えてくるこの子の異様な側面。

 自分の家も分からないってどういうこと? 実は虐待を受けてて、そのショックで記憶喪失になりながら逃げてきたとか?


 ――いや、そんな仮説があってもなくても、アタシはこの子のことをもっと知る必要がある。


「……ねえ、君。行く当てもないんだったら、とりあえずウチに来る?」

「お姉さんのお家? ご飯食べれる?」

「そうだねぇ。アタシのお家には料理名人がいるし、ご飯ぐらいなら食べさせてあげるよ」

「じゃあ行く。ボク、お姉さんについて行く」


 超人的な身体能力、高周波ブレード、ショーちゃんと同じ抜刀術。この子のことはアタシも放っておけない。

 なんだか無知な子供につけ入って誘拐してる気分にもなるが、これはあくまで今後のためだ。誘拐ではなく、れっきとした保護である。


 ――といった感じで、アタシ自身も納得させよう。


「そいじゃ、あんたもこのロッドに乗りな。アタシが連れてってやるからさ」

「うん、お願い。ボク、お腹空いた」

「盗んだパンを食べたのに、随分と成長期なお子様なこった」


 当人も納得はしてくれてるし、アタシもひとまずはこの子を連れて工場に戻ろう。

 タケゾーにも事情を説明すれば、この子のご飯ぐらいなら作ってくれるよね。

 そうしてこのパン泥棒剣士をロッドに乗せると、アタシは宙を舞って帰宅の途に――




「……あっ。一つだけ忘れてたことがあったや」




 ――とその前に、アタシには一度寄るべき場所がある。

 ロッドの軌道を変えて、最初にこの子を見かけた場所まで戻ると――




「おお! 空色の魔女さん! その盗人ガキンチョを捕まえて――」

「それなんだけど、盗まれたパンの代金っておいくら?」

「……え? あ、ああ。この額だけど……」

「じゃあ、アタシが立て替えとくよ。この子はアタシでちょいと保護しておくね。アディオース」




 ――パン屋さんに代金を建て替え、今度こそ工場へと戻っていった。

そこは律儀にやっとかないとね。

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